民主法律時報

2018年権利討論集会を開催しました

事務局長・弁護士 須井 康雄

2018年2月17日、エル・おおさかで2018年の権利討論集会を開きました。231名がご参加くださいました。
全体会では、法政大学キャリアデザイン学部教授の上西充子さん(Twitter:@mu0283)に「安倍政権の『働き方改革』の問題点にどう取り組むか」という演題でご講演いただきました。

上西さんは、以前から安倍政権の労働政策を厳しく批判してきました。1月29日、安倍総理は、国会で、裁量労働制での労働時間は、平均的な人で比べれば一般労働者よりも短いという厚労省のデータがあると答弁しました。しかし、上西さんは、この答弁を疑問視し、厚労省のデータの問題点をインターネットで発信し、国会答弁撤回という前代未聞の事態のきっかけを作りました。
このデータをめぐり与野党が攻防を強めるさなかのご講演でした。このため、データ問題についても時間を割いてお話いただきました。
働き方改革一括法案の問題点では、安倍総理の過去の発言や政府の報告書の細かな言い回しを丹念に指摘し、真の狙いが労働時間規制の緩和にあることを的確にご指摘されました。
また、データ問題については、上西さんが安倍総理の国会答弁に疑問を持ち、調査し、ネットで社会に広く発信すると、国会で取り上げられ、全然面識のなかった専門家ともつながりができ、また新たな問題がみえてきたという、とても面白い話でした。
事実をとことん調査し、問題点を的確に発信し、市民、議員、専門家らと連携し、運動を実現するという現在進行形の活躍を、私たちもリアルに共有できました。

その後、①働き方改革反対、②非正規労働者の2018年問題への取組強化、③憲法9条改正阻止の行動提起がなされ、この①と③に関する決議に加え、④生活保護費切下と⑤大阪都構想の再度の住民投票に反対する決議を採択しました。
午後からは7つの分科会に分かれて、学習や経験交流を行いました。内容は、各分科会の報告に譲ります。

懇親会では、各参加者に争議や労働情勢への取組をご紹介いただきました。また、今年は、 SUN-DUY(サンデュー)さん(Twitter:@MSL_SNS)ら3名のグループ「Mic Sun Life」にラップを披露していただきました。SUN-DUYさんは、えん罪で無罪判決が確定し、現在、国家賠償請求事件を闘っています。ラップになじみのない方もいらしたかと思いますが、楽曲の歌詞は、さまざまな運動に取り組む私たちの心にも、すっと沁み入るものでした。
この権利討論集会で得た経験や、人とのつながりを活かし、さまざまな課題に取り組んでいきましょう。

分科会報告

第1分科会 労働争議をどうやって勝ち抜くか (報告:弁護士 片山 直弥)

 第1分科会では、「労働争議をどうやって勝ち抜くか」をテーマに32名が参加して議論が行われました。
 前半は、NTT継続雇用事件について、弁護団の井上耕史弁護士及び原告の宮崎政光さんから事案についての解説を頂きました。
まず、井上弁護士からは、争点について、詳細ながらも分かりやすい解説を頂きました。高年法がNTT継続雇用事件の争点に及ぼした影響について、06年高年法の制度趣旨及び現行高年法の改正趣旨(両者に共通するのは「雇用と年金の接続」)を踏まえて解説いただけましたので、馴染みの薄い高年法に対する理解を深めながら議論を進めることができました。
次に、宮崎さんからは、たたかいの内情について教えて頂きました。具体的には、労働組合としての組織拡大にはじまり、裁判所の固い扉を切り開くべく行った運動(例えば、団体・個人署名)、ひいては、残念ながら敗訴が続いていますがその中でいかにして士気を鼓舞してきたのかについてお話いただきました。
さて、NTTという大企業相手の裁判で、いかにして裁判所の重い腰をあげさせるかは、常々考えさせられるところがあります。決まったセオリーというものはおそらくないのでしょうが、よいご報告が頂けることを期待してやみません。
 後半は、泉佐野市不当労働行為事件について、原告の昼馬正積さん及び弁護団の増田尚弁護士から事案についての解説を頂きました。
まず、昼馬さんからは、たたかいの内情について教えて頂きました。それも具体的に、対市当局との関係で行った内容(例えば、組合機関紙での報道、要求書の提出)、対市長との関係で行った内容(例えば、庁舎前宣伝)、対市民との関係で行った内容(例えば、市民宣伝)のそれぞれについてその手応えにも触れながらお話いただきました。
次に、増田弁護士からは、たたかいの手段として労働委員会を選択した経緯等について、解説いただきました。組合への攻撃であるところに焦点を当てたい、ということで、労委闘争を選択されたようですが、当時は労働委員会に対する信頼が今ほどでなかった、ということで、非常に難しい判断を強いられたのだと思います。そのほかにも、申立適格や救済内容等でも悩みがあったということで、全面勝訴和解に至るまでの過程(裏話のようなもの)をお聞きでき、とても参考になりました。
 このほかにも、弁護団に対しては、「当事者や組合の方が読んで分かるように主張書面を書いてもらいたい。それが士気を高めることにもつながる」といった貴重な意見も頂きました。このように、第1分科会では、「労働争議をどうやって勝ち抜くか」について活発な議論が参加者間でなされました。私もこの日頂いた意見を今後の活動に活かしたいと思います。

第2分科会 2018年問題をどう闘うか (報告:弁護士 細田 直人)

第2分科会では、派遣法改悪後、最初の期間制限(3年)が2018年10月に迫る今、この2018年問題にいかに取り組み、派遣労働者の権利保護を実現していくかをテーマに、19名が参加し、報告、議論が行われた。
1 事件報告
2017年11月に一斉提訴された、派遣法40条の6、7を活用した事件(3事件)の報告がなされた。
まず、派遣法40条の6と派遣法40条の7の説明がなされ、各事件の概要や争点に関する報告がなされた(事件の内容については、民主法律時報2018年1月号参照)。
申込みなし制度について、労基による解決ができないかという問題提起があり、派遣研究会で取り組まれている事件での労基署対応をもとにした議論がなされた。また、同制度で直用化した場合の労働契約の内容や、脱法目的についての議論もなされた(労働法律旬報1887号塩見弁護士記事参照)。
2 直用化を勝ち取った組合からの報告
次に派遣労働者の派遣先での直用化を運動により勝ち取った組合からの報告がなされた。
KBS京都古住氏から、2名の派遣労働者の直用を勝ち取った経緯について、組合の方針や、組合活動(労基署対応、役員退任の運動など)について報告がなされた。次に、大学の派遣労働者について、高橋氏から、直用化の事例や、直用後の労働条件に関する議論、大学の特殊性から労働運動が盛り上がりにくい現状についての報告がなされた。
これを踏まえて、派遣先組合の姿勢について、派遣労働者に対する意識を持たせること、事業場単位の3年の期間制限の例外として必要な意見聴取手続きの重要性や、労働者代表の選出方法に関する議論がなされた。
3 2018年問題への取り組み
最後に、派遣ネット相談の報告、持ち込まれた相談をベースにした労働相談でどのようにアドバイスをするか、追加質問としてどのようなことが必要かについての議論がなされた。
偽装請負対策として、業務指示のメールの保存や録音による証拠保全や、無期雇用派遣制度に関して、今の派遣先での就労を希望するが、期間制限があり派遣先は直用を認めない場合、どのようなアドバイスが当該労働者にとって良いのかといった議論がなされるなど、2018年問題に関して活発な検討がなされた。

第3分科会 実現しよう!無期雇用 (報告:弁護士 加苅 匠)

第3分科会では、「実現しよう!無期雇用」というテーマで、労働契約法18条の無期転換をめぐる不当な雇止めの阻止、均等待遇、その他有期労働の課題について報告・意見交換が行われました。
1 無期転換を阻止する雇止め・不更新条項とのたたかい
はじめに、音楽ユニオンに加入し、団体交渉で無期転換を勝ち取られた武庫川女子大学の事例が報告されました。報告の中では、無期転換権についての認知度が広まっておらず、不当な雇止めに泣き寝入りしている人が多数いることが指摘され、無期転換権の存在を広く認識してもらう活動の必要性を学びました。
その後、谷真介弁護士から雇止め制限のルールと脱法への対応について、鶴見弁護士から無期転換ルール(労働契約法18条)について解説がありました。
関西圏大学非常勤講師組合から関西圏にある各大学の雇止めの実態とそれに対する組合の取り組みについて報告がありました。各大学で無期転換阻止の方法が異なることが分かり、他にも無期転換後労働条件を変更させられる制度を導入した事例等が報告され、使用者側が脱法のために様々な手法を用いていることが分かりました。
2 均等待遇を実現するために
 労働契約法20条をめぐる裁判の現状について河村学弁護士から解説があり、不当な労働条件格差が争われた大阪医科大学20条裁判について事例報告がありました。裁判所の考え方を検討し、組合として何ができるかを議論しました。他にも、各労働現場での均等待遇をめぐる事例が報告され、その対策を議論しました。
楠晋一弁護士から働き方改革での「同一労働同一賃金」をめぐる情勢についての報告がありました。
3 その他の課題
 その他の課題として、会計年度任用職員制度が導入された公務非常勤職員の課題や、均等待遇とセットで論じられるべき最低賃金引き上げの課題について報告がありました。
26名が参加した本分科会では、様々な現場での雇止めの実態や組合の取り組み、現在の裁判所の考え方について議論し、今後ますます激化するであろう2018年問題への対策を考えあう分科会となりました。(不更新条項Q&Aを用いた寸劇も行いました。パート研HPからご覧ください。)

第4分科会 過労死促進法?? 労基法改正を考える (報告:弁護士 和田 香)

 第4分科会では、政府が進める「働き方改革」の問題点に関する講演の後、化学、医療、府職の現場における労働時間の適正化と36協定締結の取り組みについての報告を頂きました。
 まず、「働き方改革」の問題に関して、兵庫県立大学客員研究員・大阪損保革新懇世話人松浦章さんに『「働き方改革」の本質と裁量労働制拡大の危険性』と題して講演を頂きました。
講演では、損保業界において、裁量労働制が広い範囲の営業社員に適用されており、実態が法律に先行して裁量労働制の対象を拡大していることや、より適用のハードルが低い事業場外みなし労働時間制を違法に適用することで残業代の支払いを免れようとする動きがあるという見逃せない報告がありました。
 次に、大阪過労死問題連絡会の松丸正弁護士から、『過労死防止と36協定の課題と問題点』と題して、政府の法案における 協定の上限規制では過労死を防止できないことをお話頂きました。法案では、過労死ラインを上限時間としています。これでは「人たるに値する生活を営む」権利を守るという労基法1条の目的に反します。また、法律で上限を定めることで、上限に達していないことを理由に使用者に安全配慮義務違反についての責任回避の口実を与えかねません。
 上記講演を踏まえ、各職場での労働時間の適正化と36協定締結の取り組みについて報告を頂きました。
化学一般労連書記長宮崎徹さんからは、全国の支部における 協定締結の状況についての一斉調査の結果、多くの職場では「時間外労働時間の限度に関する基準」に則った上限となっているため、法律で上限が定められればそれに合わせた変更をする職場が多いのではないかという報告がありました。
また、大阪医労連執行委員中島昌明さんからは、医療の高度化や制度の改悪等で長時間労働化しやすい医療の現場において、組合が労働者の申告した労働時間と実際の労働時間の差やメンタルの調査等を行い、使用者と掛け合って労働環境を向上させている取り組みについて報告いただきました。
そして、府職からは、36協定を締結できるとは知らなかったところから始まり、適正な36協定を締結すべく奮闘した経緯の報告がなされました。
 参加者合計31名で、それぞれの立場から積極的な討議がなされ、時間が足りず、分科会終了後も各参加者らで情報交換がなされていました。

第5分科会 “知らずして闘えない!? ”ブラック企業の手法と対抗 (報告:弁護士 清水 亮宏)

第5分科会のテーマは「“知らずして闘えない!? ”ブラック企業の手法と対抗」でした。労働組合、弁護士、修習生など24名の方に参加いただきました。
本分科会では、ブラック企業の手法のうち、近年特に関心を集めている「求人詐欺」「ソーシャルハラスメント」「固定残業代」「退職妨害・損害賠償請求」の各問題について、参加者で議論しました。
求人詐欺問題については、馬越俊佑弁護士から、本年1月に施行された職安法改正の内容や、A福祉施設求人詐欺事件判決(京都地裁平成29年3月30日)について解説いただきました。参加した労働組合からは、求人通りの労働条件を実現した例などをご報告いただきました。
ソーシャルハラスメントについては、私清水から、新しい労働問題として紹介した後、SNS上でのハラスメントやプライバシーへの介入をいかに防ぐかを解説させていただきました。参加者からは、「業務にSNSを使うこと自体を制限すべき」「SNS導入によるプライベートへの介入を防ぐために組合を通したルール作りが必要」など様々な意見が出ました。
固定残業代については、安原邦博弁護士から、裁判例等を踏まえた対抗策を説明いただきました。サービス残業を生む問題を抱えた制度であることを再認識するとともに、よくある固定残業代の事例を元に、組合としての対抗策を議論しました。
退職妨害・損害賠償請求については、中西基弁護士から、使用者からの損害賠償請求がどのように制限されているか、退職妨害にどのように対応するかについて解説いただきました。参加した労働組合からは、実際に会社から裁判を起こされた事例などについてご報告いただきました。
本分科会は、責任者の中西弁護士の発案により、グループディスカッション形式をとりました。事例を題材にグループで議論いただくことで、活発な意見交換ができたと実感しています。権利討論集会は“討論集会 ”であるべきだと改めて認識できる分科会になりました。

第6分科会 貧困・社会保障問題と労働運動~いま私たちにできること 志賀先生と学んだ「いま私たちにできること」 (報告:弁護士 西田 陽子)

1 講師のご紹介及びテーマ
当分科会は、大谷大学文学部助教である志賀信夫先生を外部講師としてお迎えし、大テーマを「貧困・社会保障問題と労働運動~いま私たちにできること」とし、共に学び、討論を行った。以下にご報告する。
2 生活保護引下げ・年金減額違憲訴訟
まず、生活保護引下げ・年金減額違憲訴訟についての報告と質疑応答が行われた。
参加者は、目視によれば 人であった。組合員、研究者、弁護士、若い学生の方々等が参加していた。
年金者組合の加納さん、大生連の秋吉さんから、現在の社会保障制度の概略及び問題点並びに裁判闘争についての報告があった。両違憲訴訟の弁護団員をつとめる喜田弁護士は、弁論で使用予定のスライドを用い、あるべき社会保障制度について語った。
3 志賀先生の講演――労働運動と反貧困運動の連携――
志賀先生は、労働運動が貧困問題を取り扱うべき理由として、貧困状態の最大の原因は労働問題(失業等)であること、労働条件の悪化を防ぐために労働者が連帯し、労働力の需給調整をする必要があること、社会保障制度は労働者間の競争抑制の機能を持つことを指摘した。
また、「食えていれば貧困ではない」という意見は、古い貧困観に基づいていること、貧困の反対は「幸福」であり、「幸福」とは他者との繋がりであるとの指摘もあった。
4 討論
参加者からは「来てよかった」「感動した」等の声が聞かれ、活発に議論が行われた。志賀先生の議論を活かし、主として、連帯ないし運動の仕方について議論がなされた。
5 まとめ
志賀先生は、労働運動と反貧困運動が連携し、全員が平等に他者と繋がれる社会を実現することが重要とし、豊川弁護士の挨拶を経て解散となった。
本分科会をきっかけとして、すべての人が他者と繋がれる社会を実現するための運動が行われることを期待する。

第7分科会 表現の自由~活動の現場で直面する問題を考える~ (報告:弁護士 篠原 俊一)

第7分科会は、前半・後半の二部構成で、前半は街頭宣伝への干渉とその対処法について討論がなされました。
まず、最初に大阪労連の菅義人さんがこれまでの街宣への干渉事例とその対処法について、報告してくださいました。
「警察を呼ばれる」、「警察から許可があるのかと詰め寄られる」、「名前を聞かれる」などがあり、これまで名前を言ってしまうケースもあった。著しく交通を妨げてないので違法ではないという正しい知識を身につけ、名前を言う必要はないということを徹底することが必要、喧嘩はしないということを強調されたうえで、公権力による妨害への対処、市民の名をかたる干渉への対応、市民感情への対処を考える必要があるという意見が述べられました。
「許可」の問題では、大阪弁護士会も許可をとりつけて宣伝行動していることや、路上ライブをする場合の許可の要否の基準がわからないというサンデューさんの質問もあって議論が盛り上がりました。原則的には許可は要らないが例外的に許可を取ることもやむを得ないのではないかという意見、それは自らの権利を売り渡すことになるのではないかという意見が出されました。
これらの討論の後、公園使用を不許可とされた松原民商公園使用拒否国賠事件、これに端を発して、宝塚市の公園利用に市の後援が必要とする内規を撤廃へと追い込んでいる経験、姫路市の駅前広場で市の使用許可を得て実施されていた発表会がプログラムの途中で、「安倍批判」があるなどとして中止命令が出された事件の報告が、それぞれ、高橋徹弁護士、杉島幸生弁護士、吉田竜一弁護士からなされました。
後半は、もしかしたら来年経験することになるかも知れない国民投票で、私たちに与えられた表現の自由を駆使することによって、どうすれば私たちの思いを伝えることができるか、討論されました。
最初に、西晃弁護士が作成した簡略版・国民投票〇、×クイズ10問が出題されました。討論の終わりに答え合わせがなされ、成績優秀者2名に憲法の条文が書かれたクリアファイルが進呈されました。
クイズの後、杉島幸生弁護士が安倍政権の狙い、国民投票の問題点の解説をしました。発議させない運動を前提に、発議された場合でも反対派の勝利可能性を安倍政権に突きつけることで、発議自体を止めることにもつながるという意見が出されました。
この第7分会、前半の終わりには、サンデューさんが冤罪での300日にわたる勾留中に作った「12の言葉」が披露され、歌ありクイズありのまさに「表現の自由」を駆使した楽しい分科会になりました。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP