民主法律時報

大阪医科大学 労働契約法20条裁判 大阪地裁不当判決

弁護士 西川 大史

1 はじめに

2018年1月24日、大阪地裁(内藤裕之裁判長、前原栄智裁判官、大寄悦加裁判官)は、大阪医科大学(現・学校法人大阪医科薬科大学)の研究室秘書として業務を行ってきた有期雇用のアルバイト職員の女性が、正職員との間の基本給や賞与等の労働条件が大きく相違することは労働契約法20条に違反するとして差額賃金や損害賠償を求めた裁判について、労働契約法20条違反を認めることなく原告の請求を全面的に棄却するという不当判決を言い渡しました。

2 事案の概要

原告は、2013年1月から2016年3月まで、大学の基礎系教室(診療科のない研究室)の1つである薬理学教室で、教室秘書(アルバイト職員)として勤務してきました。各研究室には、1~2名の教室秘書(正職員、契約職員、アルバイト職員等)が配置されており、原告と他の研究室の正職員の秘書の職務内容は同じでした。
しかし、原告の給与は正社員に比べて低く、賞与もありません。年収にすると、新規採用の正職員と比較しても約2倍の格差がありました。また、アルバイト職員には夏季特別休暇もありません。私傷病によって欠勤した場合には、正社員には6ヶ月間は賃金全額が支払われ、その後も休職給が支払われるのに対して、アルバイト職員にはこのような補償はありません。

3 比較対象を「大学の正職員全体」とした判決の誤り

原告は、労働契約法20条の不合理性の判断は、他の研究室の正職員の秘書と比較すべきと主張しました。しかし、判決は、「研究室の正職員秘書は新卒一括採用され同業務に配置された結果として同業務に従事するに至ったと推認でき、他の部門に配置転換される可能性がある」として、労働契約法20条の不合理性の判断は「大学の正職員全体」と比較すべきとしたのでした。
しかし、原告と職務内容が同じ正職員がいるにもかかわらず、職務内容の異なる職員を含む正職員全体と比較すべきとの判断は誤りというほかありません。そもそも、労働条件が不合理であるか否かは、職務内容が同じ正社員と比較して初めて判断できるものであり、「大学の正職員全体」を比較対象とすべきとした判決は到底納得できません。

4 不合理な格差をも追認する判決

判決は、アルバイト職員である原告の年収は、同じ経験年数の正職員と比較して55%程度であるものの、正職員は一定の能力を有することを前提に採用されるがアルバイト職員は特定の業務を前提として採用されていること、アルバイト職員が正職員の指示を受ける立場にあること、正職員への登用試験制度がありアルバイト職員も正職員として就労する方法がないわけではなく能力や努力で労働条件の相違の克服が可能であること、年収55%という相違の程度は一定の範囲に収まっているといえること等から、不合理な労働条件の相違といえないとしました。
しかし、年収にして55%程度の水準とは、ほとんど倍の格差です。同じ経験年数の正職員と、賃金総額で倍近い格差が正当化される理由はありません。しかも、倍近い賃金格差を「本人の能力や努力で克服可能」とすること自体、非常識極まりない判断です。しかも、この判決の論理からすれば、企業において正社員登用試験制度さえ準備していれば、正社員と非正規労働者との労働条件において、どれだけの不合理な格差があろうとも、労働契約法20条違反は存在しないということになりかねません。

また、判決は、正職員には年間4・6か月支給されている賞与についても、賞与は長期雇用が想定される正職員の雇用確保に関するインセンティブだとして、正職員にのみ支給することにも一定の合理性があるとしました。このインセンティブ論は、期間の定めの有無により不合理な労働条件の格差を是正するという労働契約法20条の立法趣旨に真っ向から反するものです。しかも、この裁判では、大学側はインセンティブ論を主張していませんでした。それにもかかわらず、裁判所が、大学側の意を忖度して、インセンティブ論を持ち出したのであり、腸が煮えくり返る思いです。

さらに、判決は、夏期特別休暇や私傷病による欠勤の際の補償等についても、大学の正職員には長期雇用が想定されていることなどを強調し、不合理な労働条件の相違とまではいえないとして、原告の請求を全面的に棄却しました。

5 さいごに

大阪地裁判決は、労働契約法20条の立法趣旨をまったく理解しない、いわば正社員絶対論に陥っています。安倍政権ですら、同一労働同一賃金の実現をと一応口にしていますが、この判決には、同一労働同一賃金の実現という姿勢は微塵もありません。低い労働条件に固定され、不安定な雇用に苦しむ非正規雇用労働者の実態から目を反らし、労働条件の不当な格差是正を願う非正規雇用労働者の思いを踏みにじる不当な判断です。
控訴審では、必ずこの大阪地裁判決の不当な判断を是正させ、非正規雇用労働者の格差是正を目的とした労働契約法20条の趣旨を実現する判断を勝ち取るべく奮闘します。

(弁護団は、谷真介弁護士と西川大史)

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