民主法律時報

働き方ネット大阪第17回つどい「アカンやないか!? 今の働き方と貧困」

弁護士 中 西   基

 11月30日、働き方ネット大阪の第17回つどい『アカンやないか!? 今の働き方と貧困』がエル・おおさか南館ホールにて開催されました。約100名が参加しました。
 今回のつどいは、AIBOが呼びかける「“変える”に参加する10日間~大阪ええじゃないか~」の企画の一環としても位置づけられました。
 まず、第1部では、小久保哲郎さん(弁護士・生活保護問題対策全国会議事務局長)と竹信三恵子さん(和光大学教授、元朝日新聞記者)のお二人から講演していただきました。

 小久保さんは、「大阪の貧困と生活保護の実情について」と題して、生活保護をめぐる状況について報告されました。大阪では生活保護を利用している方の割合が全国平均の3倍以上と高くなっているけれど、その原因は、全国平均と比べて大阪では、失業率が高い(全国5.1%、大阪6.9%)、非正規雇用の割合が高い(全国34.5%、大阪44.5%)、離婚率が高い(全国1.9%、大阪2.8%)、高齢世帯が多い(全国19.4%、大阪21.3%)、特に高齢世帯のうち単身者が多い(全国9.2%、大阪13.5%)、といった事情が挙げられます。これら貧困の原因を解消する施策を尽くすのではなく、結果としての生活保護率の高さだけを叩いてみても何の解決にもなりません。また、大阪市では生活保護費が財政を圧迫しているとまことしやかに言われているけれど、実際には生活保護費2714億円のうち2579億円は国が負担しており、大阪市の負担は135億円だけです。しかも、2714億円の保護費のほとんどは大阪市内で消費されることになるので、結果的には、大阪市は国から巨額の補助金をもらっていることと同じです。今年7月に大阪市が発表した「生活保護制度の抜本的改革にかかる提案」では、年金や最低賃金よりも生活保護の方が高いので、「市民の不公平感やモラルハザードにつながっている」、だから生活保護を厳しくせよと提言されており、年金や最低賃金を引き上げるべきだという発想は一切ありません。生活保護を切り下げてしまうと、最低賃金は抑制され、就学援助や地方税の減免、公営住宅家賃減免など生活保護に連動する様々な制度にも影響が及びます。住民税の非課税基準も下がり、今まで無税だった人も課税されることにつながります。

 つづいて、竹信三恵子さんは、「ここが変だぞ、維新と自民の雇用政策」と題して、報告されました。維新や自民の発想は、成長しさえすれば雇用は生まれるはずだという「甘い」考え方です。しかし、いくら企業が活動しやすい環境を整えたところで、働き手に分配される仕組みが機能していない現状では富は労働者に回らず、消費は活性化せず、デフレからも脱却できません。1997年以降で実質賃金が下がっているのは主要国の中では日本だけです。2002年からの戦後最長といわれるいざなぎ越え景気のときにも人件費比率は低下しています。また、時代に合わせて産業構造を転換させることが必要ですが、維新や自民のようにただただ解雇規制を緩和するだけでは、雇用は流動化しません。失業が増えて生活保護を利用する人が増えるばかりです。それよりも、過度な企業への拘束を緩和し、新たな能力やアイデアを引き出すだけの余裕を労働者に保障することが重要です。特に、日本の正社員は、安定雇用の見返りとして、恒常的残業の受入、家庭を顧みない転勤などの滅私奉公を暗黙の了解としてきました。この状態のままで解雇規制を緩和すれば、労働者はますます企業に必死でしがみつこうとするばかりでしょう。まずは長時間労働の規制から始めるべきであり、過労死防止基本法の制定がとても重要になっています。

 第2部は、おなじみの岩城穣弁護士の司会で小久保さんと竹信さんの「真剣対談」が行われました。生活保護利用者に対する「就労指導」が厳しく言われるようになってきていますが、現状の「就労指導」や「就労支援」は、ただ「働け! 働け!」とお尻を叩くばかりです。厚生労働省の方針も、低賃金でも短時間でもいいのでとにかく働けというものです。厳しい「指導」の結果、うつ病を発症するようなケースも出ています。
 対談の途中で、湯浅誠さんが会場に登場! 湯浅さんは今年夏から大阪で「AIBO(Action Incubation Box Osaka)」という市民運動をサポートする活動をされています。昨年11月のダブル選挙で維新の会が大勝しました。特に、大阪市長選挙では既存の全政党が相乗りで対抗したのに維新が勝利しました。市長就任後に橋下氏は「思想調査アンケート」などを矢継ぎ早に繰り出し、普通の政治家なら政治生命を失いかねないその危険な内容にもかかわらず、多くの市民は橋下氏に喝采をおくりました。そんな大阪の状況に危機感を抱き、「おまかせ民主主義」では社会は変わらない、変えられるのは私たち。それが民主主義であり社会に参加するということだという思いを実践するために大阪を活動拠点に選んだそうです。「市民運動なんかで社会は変わらない」という批判がありますが、社会というものは誰かヒーローが現れて変えてくれるものではなくて、一人一人様々な意見を持つ人たちの集合体が社会なのだから、お互いが意見を持ち寄ってお互いの意見を知り、そこで意見を交換しあうことによって相手の意見を変えていくこと以外には方法はありません。同じ意見を持つ者同士が集まって話をすることは簡単ですが、異なる意見を持つ者との意見交換を避けていては社会は変えられません。市民運動の側には、できるだけ自分たちの意見とは異なる意見の人に届くような工夫が求められます。また、仕事や生活に追われてじっくり政治のことや社会のことを考える余裕が持てない人も多くいます。そんな人たちとも意見を交換しあえるために市民運動の側は参加のハードルを下げる努力も必要です。

 つどいの最後に、森岡孝二会長から、「働き方について今日からできる10のこと」が発表されました。
◇職場の仲間と「働き方」について話す時間を持つ。
◇自分の労働時間を記録する習慣を身につける。
◇労働法の入門書を読んで、働くときに必要な基礎知識を学ぶ。
◇自分の労働契約書を隅々まで読み直してみる。
◇うつ病や過労死について自分と同僚を守るために基礎知識を持っておく。
◇労基署やハローワークが何をするところか、どこにあるか調べておく。
◇年次有給休暇を完全消化するために年に一、二度は連続休暇を取る。
◇過労死防止基本法の制定を求める署名用紙を常に携帯し周囲の人に署名を訴える。
◇労働相談ができるPOSSEを教えたり、「ユニオンに入ろうよ」と気楽に声をかけたりする。
◇「働き方ネット大阪」のHPにアクセスし、同会主催の「つどい」に参加する。
 

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