民主法律時報

ともに考えよう 子どもたちの未来と大阪の教育 教育基本条例に反対するシンポジウム

 弁護士 増 田   尚

 「大阪教育基本条例反対アピール」よびかけ人の主催により、1月28日、守口市文化センター・エナジーホールにて、「教育基本条例に反対するシンポジウム―ともに考えよう 子どもたちの未来と大阪の教育」が開催され、800名を超す参加者を得て大きく成功しました。
 シンポに登壇された方々から、口々に、教育基本条例案の問題点と、それが教育現場にもたらす悪影響について、語られました。
 池田知隆さん(前大阪市教育委員会委員長)は、大阪市でメンタルヘルスを害して休職する教職員が多いことを前夜の「朝まで生テレビ」で発言したところ、橋下市長から、申請の問題があるのではないか、診断書を調べる必要があるなど、何でも管理強化につなげる異常な対応をされ、また、それに対する聴衆の反応も、そんな教師は辞めさせろというもので、非常に攻撃的な対応が世間受けをしている問題点を指摘されました。また、自身の教育委員長としての経験からも、教育委員会が住民の意思を反映しておらず、形骸化していることは痛感しており、事務局主導にならないようにするための運営の改善は必要であるとしつつ、一足飛びに、首長が教育目標を決定し、ストレートに政治介入することは違法であると指摘されました。次いで、大阪の教育をめぐる状況として、学力の低下の事実を認めつつ、朝ご飯を食べる児童が全国平均10%低下など、家庭環境の悪化の反映でもあり、個々の教師の力量だけでは突破できず、社会全体でとりくむべき課題であると指摘されました。
 前田佐和子さん(前京都女子大学教授)は、橋下市長が知事時代に実施した学校選択制、学力テストの公表などは、イギリスのサッチャー時代に実施し失敗した教育政策であり、本家のイギリスでも、2006年には学力テストの公表を廃止し、2007年にはウェールズ州でテストそのものを廃止していることを明らかにしました。また、橋下市長は、学校選択制にするとコミュニティが破壊されるとの懸念に対しても、保護者にコミュニティ維持か他校への入学かを選択させればいいと言い、コミュニティ破壊も自己責任だという露骨な新自由主義の立場を表明していることを批判しました。橋下流の教育改革は、格差の拡大と固定化をもたらすものであり、阻止することを訴えられました。
 野田正彰さん(関西学院大学教授)は、橋下市長が、他者と対話をしながら意見を取り入れるのではなく、反対意見を徹底して排除する姿勢を厳しく批判されました。他方で、教師集団に対する国民感情として、自身を競争に追い立てた存在として屈折した像を持っており、そうした像が教組バッシングによって煽られる根底にあると指摘されました。
 香山リカさん(精神科医)は、教育基本条例案の導入によって、教育が市場化され、競争原理が導入されることへの疑問を示し、競争に追いやられている生徒・児童の精神的負担の解消にこそ、教育現場がとりくむべきであると訴えられました。
 佐藤学さん(東京大学教授)は、大阪の教育が抱える困難に教師、保護者、行政がどうとりくむのかが問われており、あらためて教育と民主主義の結合の重要性を訴えました。教育基本条例案に対しては、これに反対する運動が大きな広がりを示し、文部科学省も違法とする見解を発表し、最高裁も機械的な処分を違法とする判断を示すなど、大阪維新の会側も違法な条項を改めることを余儀なくされていることを明らかにされました。教育基本計画を首長が決定権限を有するという画策を打ち破り、条例案を廃案にする最後の攻防に立ち上がることを呼びかけられました。
 シンポでは、参加者各人による発言のほか、平松邦夫・前市長などからのメッセージも読み上げられました。
 この間の教育基本条例案など大阪の公教育を破壊する大阪維新の会の動きに対しては、各地でも、積極的に署名、街頭宣伝、集会などがとりくまれ、局面を変えつつあります。府議会での廃案、市会での提出阻止に向け、引き続き、運動を強めていきましょう。

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