民主法律時報

2017年権利討論集会を開催しました

事務局長・弁護士 井上 耕史

2017年2月18日(土)、エル・おおさかにて、2017年権利討論集会を開催しました。全体会・分科会合わせて223名の皆様にご参加いただきました。
記念講演は、森﨑巌さん(全労働省労働組合中央執行委員長)に、「現下の労働政策をどう見るか―『働き方改革』への対抗軸」との演題で、ご講演いただきました。森﨑さんは、安倍政権の「働き方改革」は、アベノミクスの行き詰まりが背景にあること、中身はこれからであり、労働側が主導権をとって積極的な改革の提起が必要であることを指摘されました。長時間労働規制の課題では、労働時間把握・義務の法定化が決定的に重要であること(現在は把握していない事業者ほど証拠なしとして野放しになる)を強調されたのが印象的でした。

講演後の特別報告では、昼馬正積さん(泉佐野市職労委員長)から泉佐野市長による不当労働行為とのたたかいについて、はるばる沖縄から来阪された安次冨浩さん(ヘリ基地反対協共同代表)から辺野古新基地建設阻止のたたかいについて、それぞれ報告と支援の訴えがありました。私からは、最近の民法協の取組みとして、大阪市労組組合事務所事件の最高裁不当決定への抗議、テロ等準備罪(共謀罪)法案阻止のたたかい、安倍政権の「働き方改革」(同一労働同一賃金、長時間労働)に対する運動について報告しました。

午後からは、7つの分科会に分かれて、約3時間半にわたり充実した討論が行われました。
午後5時からの懇親会には88名が参加しました。研究者、労働組合、争議団、弁護士、ゲスト講師、修習生が一同に会して日ごろの活動や集会の感想などを交流しました。また、民法協事務局の岡千尋弁護士が結婚を機に大阪を離れることから、参加者一同で新たな門出を祝いました。
今年の集会は、昨年に引き続き、エル・おおさかでの日帰り開催とし、昨年より更に参加費を引き下げました。大阪市中心部での日帰り開催方式は概ね好評ですが、他方で、酒を飲みながらもっとじっくり討論・交流したい、1泊での開催を、という声も少なくありません。参加しやすさと充実した討論・交流との両立が課題です。皆様の知恵もお借りして、来年はさらに充実した権利討論集会を作り上げていければと考えています。

分科会報告

第1分科会 労働争議について振り返り、学び、議論しよう (報告:弁護士 西川 大史)

1 はじめに
第1分科会では「労働争議について振り返り、学び、議論しよう」をテーマに、裁判所の訴訟指揮について考え、事案の教訓をどのように労働運動に活かすかについて意見交換を行った。参加者は38名であった。
また、今年の分科会の新たな試みとして、各参加者の発言時間を十分に確保し、討論を活発にすべく、問題提起後に2つの分散会に分けて討論を行った。
2 議論活発化に向けての問題提起
須井康雄弁護士から裁判と労働委員会の手続について、原野早知子弁護士から裁判所の現状について、それぞれ報告がなされた。とりわけ、裁判所では、労働者の権利を前進させる判断が乏しい現状などが報告された。
大阪労連の遠近照雄さんや、大阪争議団共闘の新垣内均さんからも、主に組合活動の観点から問題提起がなされた。自身の仕事のすべて、争議を決意した思いなどを率直に伝えて、市民の共感を獲得することが原点であると力強く語られた。ご自身も長年労働争議を経験されたからこその重みのある言葉だった。
3 分散会での報告・討論
分散会①では、それぞれの争議団から報告があった。公務労働争議の報告に対して、元裁判官の森野俊彦弁護士から「裁判官も、住民として税金を払う立場から考える部分があり、それが泉佐野や組合事務所の判断を分けているかもしれない」との発言がなされ、多くの参加者の印象に残ったのではないか。公務員バッシングに対して、市民に支持を広げるとともに、裁判官の心を掴むことの難しさを感じさせる発言でもあった。
分散会②では、「裁判官会同」の情報公開請求や、最高裁裁判官の国民審査の際に労働事件の判断について情報提供をするなどの提言もなされた。
議論を活発化するため、分散会に分けたが、それでも時間不足であり、討論・意見交換が十分にできていない。次年度の課題とするとともに、十分に議論できなかった点は今後の裁判・地労委委員会で議論を深めていきたい。

第2分科会 闘えば変わる!~改悪派遣法に負けない労働組合の闘いに学ぶ~ (報告:弁護士 細田 直人) 

第2分科会では、派遣法改正後の取組みや、直用化をテーマに 名が参加し、報告、意見交換が行われました。
1 派遣法改正後の取り組み
平成28年3月に行われたホットラインの結果や、その後事件化した事案の報告がありました。また、派遣法40条の8に基づく労働局の対応が、脱法目的を自白する場合以外は、助言以外の指導・勧告を行わないという態度であることや、今後の直用化に向けた組合活動の必要性についての報告がなされました。
2 事件報告
①冨田弁護士から、パワハラや、不正な経理処理の内部告発などしたところ雇い止めをされ、労働局へ申告・訴訟継続中の事件の報告がなされました。②鶴見弁護士からは、違法な派遣契約に対し、労働者がみなし申し込みに対する承諾の意思表示をしたところ、派遣元が承諾書を取り下げれば無期での直用をする条件提示がなされ、いったんは派遣元の条件に合意し、現在、今後の派遣先との間で無期の直用を求めている事件の報告がなされました。
3 直用化の組合活動報告
①直用化を勝ち取ったKBS京都の古住公義氏から、KBS労組の偽装請負を摘発し、直用化・無期雇用を勝ち取った経緯や、非正規労働者の組織化に関する問題などを報告していただきました。②大経大労組の伊藤大一准教授からは、大経大の事務部門の派遣社員の直用化を勝ち取った経緯について、③科学一般D支部から、事前合意制度の確立、そもそも派遣・パートタイマーを採用させない労使関係について、それぞれ報告を頂きました。
4 討論
その報告内容を踏まえて、③D支部の事前合意制度についてや、非正規労働者の組合加入の状況、非正規労働者の組織化に伴う正規労働者に関する問題など、今後、派遣労働者の直用化を求めるムーブメントを起こすための活発な意見交換がなされました。
今後、非正規労働者の直用化に向けたムーブメントやその前提となる組織化を検討していく必要性や課題に関する解決法を考え合う良い分科会でした。

第3分科会 雇止めを阻止し、無期と均等 待遇を勝ち取ろう! (報告:弁護士 吉村 友香)

今年の第3分科会は、「雇止めを阻止し、無期と均等待遇を勝ち取ろう!」というテーマで、労働契約法18条の無期転換ルールと同一労働同一賃金について議論しました。
1 労働契約法18条について
はじめに、谷真介弁護士から労働契約法18条の無期転換について報告があり、これに続いて、参加者の方から、労働の現場で同法18条の脱法行為が横行しているとの報告が多数上がりました。
具体的には、神戸大学や立命館大学の「労働契約法の脱法行為」が紹介されました。神戸大学では、全ての非常勤講師に契約更新5年上限を適用することが画策され、立命館大学では、非常勤講師の雇用契約について、2016年4月以降は、5年を超える契約の更新は行わないという契約内容に変更されたとの報告がありました。
その他にも、同じような脱法行為が行われているとの報告が多数上がり、同法18条が新設された時に恐れていた使用者の脱法行為が早くも横行していることに参加者全員が憤るとともに、使用者の脱法行為を阻止する運動が重要であることを再確認し合いました。
2 同一労働同一賃金について
楠晋一弁護士から、同一労働同一賃金ガイドライン案の説明があり、それに続いて20条裁判の現状について報告がありました。昨年に続いて、大阪医科大学20条裁判の報告があり、さらには、昨年の権利討論集会(第3分科会)での議論を聞いて20条裁判を起こす決意をしたという参加者の方の報告もありました。新しく報告のあった20条裁判は、とある大学での専任講師と非常勤講師との間の夜間手当に関する不平等取扱いが争われているというものでした。
20条裁判がジワジワと広がりつつあるということを改めて実感できる報告でした。
3 官製ワーキングプア
本分科会では、公務の非正規雇用問題についても取り上げ、吹田市・守口市非常勤職員雇止め裁判不当判決の報告がありました。
参加者からは、民間が公務に入ってくることで公共サービスがおろそかにされるのではないか、民間が住民の個人情報を預かるという事態に恐ろしさを感じる等、様々な意見が出され、議論が尽きませんでした。
今年は、公務の非正規雇用(教育現場)の問題を寸劇でも学ぶことができ、盛りだくさんの内容の分科会でした。参加者数は34名でした。

第4分科会 取り戻そうまともな働き方 (報告:弁護士 稗田 隆史)

第4分科会では、「取り戻そうまともな働き方」というテーマのもと、46名の方に参加していただき、過労死防止に向けて、どのような取り組みを行うべきか、議論を重ねました。
第一部では、政府が働き方改革の一つとして推し進めようとしている「時間外労働の上限規制」の内容に触れ、厚労省が公開している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」や「過労死白書」などを参考にしながら、過労死の現状やその原因を学習しました。そして、参加者同士で、36協定の問題点や仕事に対する意識改革の必要性などについて議論を重ね、過労死防止を図る手段の一つとして、「労働時間の適正把握」が最も重要な課題であるということを確認しました。
第二部では、過労死防止に向けた労働組合の役割の重要性を学習するため、参加者の方から、労働組合における取り組みやユニオンでの運動内容、さらには過労死防止大阪センターの活動について報告をしていただきました。いずれの団体においても、労働時間の管理やインターバル規制を重視しており、「まともな働き方」を取り戻すための取り組みに向けて、試行錯誤をしているとの印象でした。とりわけ、エステユニオンでは、エステ業界全体における共通ルール(過重労働抑制に向けた労働協約)の策定を目指すなど、働き方改革への対抗策としての取り組みも行っており、大変感心させられました。
第三部では、昨年から実施されている過労死防止に向けた啓発授業の取り組みについて、実際に講師を担当した遺族や弁護士、さらには受け入れ先の学校側からの報告をしていただきました。ワークルール教育の現場の声を聞き、これから社会に出て行く若者達に向けて、十分な知識を与えることの大切さを改めて確認することができました。
最後に、実際にご家族を過労死で亡くされた遺族の方々から、遺族としての気持ちや過労死防止に対する思い等を報告していただきました。
過労死・過労自死をなくすためには、政府の改革案に強い反対姿勢を示すことが絶対的に必要です。私も、この分科会で得ることができた知識を活用し、より一層、過労死防止に向けた活動に取り組んで参りたいと思います。

第5分科会 貧困とたたかう  (報告:弁護士 安原 邦博)

「貧困と闘う 」がテーマの第5分科会は、労働組合、研究者、弁護士ら計20名が参加して、貧困と社会保障をめぐる様々な課題や運動の報告、及び、社会保障の活用と充実のための議論がなされた。
まずは大阪市立大学の木下秀雄教授から、「社会保障の課題と労働運動」と題した講演がされた。相次ぐ社会保障削減や保険料増は、低所得層や高齢者だけでなく、むしろ中所得層が主な標的であること、貧困(生活費、子どもの学費や教育、親の介護の問題等)が、必然的に、組合員の未結集など労働組合活動に影響を及ぼすこと、そして、社会保障が賃金など労働条件と相関関係にあることが明らかにされ、労働組合が、現にある社会保障制度を活用した活動を行い、その切下げに対して闘うべきことが提案された。
全国一般東京ゼネラルユニオン(東ゼン)のルイス・カーレット氏からは、「社会保障は、労働組合と同様に、社会の中での助け合いの制度で、権利でもあり義務でもあって、それは外国人も日本人も関係がない」という理念のもと、外国人労働者の社会保険加入につき従来労働組合がとってこなかった、健康保険法、厚生年金保険法に基づく「資格確認請求」を活用している等の取り組みが報告された。また、喜田崇之弁護士からは、年金削減に係る一連の法改正等の報告がされた。
そして、藤木邦顕弁護士から、大阪府・大阪市子どもの貧困調査、大阪府子どもの貧困対策等についての報告がされ、大阪教職員組合の園田浩美養護教諭からは、大阪市内における小学生の貧困実例(免除を受けていない家庭でも給食費が払えない、夏休み後に体重が減っている、おにぎりなど食べ物を万引きする、歯ブラシは家族で1本しかないので学校に持ってこられない等)が報告され、子どもや保護者の支援のために、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーを増員する等、学校や地域だけでなく公的な支援施策が必要であるとの提起がされた。

第6分科会 沖縄の現在を知る! (報告:弁護士 長瀬 信明)

第6分科会は、「沖縄の現在を知る!」をテーマに、辺野古・ヘリ基地反対協共同代表の安次富浩さんをお呼びし、主に辺野古や高江の現状についてご報告いただいた上で、参加者全員でざっくばらんに議論をしました。なお、安次富さんには全体会でも、日々問題が起こる沖縄の現状についてご報告いただき、支援を訴えていただきました。
安次富さんのご報告は、映像を交えつつ、政府による選挙へのあからさまな介入、オール沖縄で勝利するまでの道のり、辺野古と高江での工事強行、それに対する反対運動、伊江島の基地強化、辺野古、高江、伊江島のトライアングルの完成、オスプレイの「墜落」、MXテレビによる偏見放送等、多岐に亘るものでしたが、我々が知っているようで知らないことがたくさんありました。
例えば、もはや米軍基地で経済的に潤うことはないということも、明日をも知れぬ米兵がお金を使いまくるベトナム戦争の頃とは違うからで、観光の方がよっぽどお金になるということや米軍が撤退してもその後には自衛隊がそのまま居座る可能性があること、伊江島ではあまり反対運動が活発化していない理由等です。
また、オスプレイが「墜落」した際の海中からの生々しい写真は衝撃的でした。これのどこが「不時着」なのかと。報道機関は真実を報道すべきですが、やはり情報は選別されているのだということをまざまざと知らされました。
安次富さんによれば、沖縄の運動は「しなやかに」「したたかに」「非暴力を徹底」するとのことでした。そして、我々ができることは、必ずしも沖縄へ行くことではなく、沖縄へ思いを馳せつつ、日々直面している問題(例えば、原発反対運動など)に取り組み、連帯していくことであり、そうしないとこの国を変えていくことはできないとおっしゃられました。こうした運動の姿勢はとても共感できるものですし、我々もすぐに実践できると思いました。
安次富さんのご報告の後、安保破棄大阪実行委員会の植田保二さんからも、長年携わってこられた沖縄の諸問題への取り組みについて、語っていただきました。
その後、参加者全員で議論をしました。参加者の思いも様々ですが、議論も沖縄の独立論、沖縄と同じように国から棄民政策とでも言うべき仕打ちを受ける福島県との共通点と相違点、沖縄の問題を一個人としてどう捉えるべきか等多岐にわたり、いくら時間が合っても足らないくらいでした。

第7分科会 SNS・インターネットは、これからの労使紛争・社会運動に不可欠なツールである! (報告:北大阪総合法律事務所 事務局 三澤 裕香)

インターネットが普及し、誰もがパソコン、スマホ、タブレットのいずれかを持つ時代になりました。分からないことは辞書をひくよりインターネットで調べ、情報を探すのも、拡散するのも、紙媒体より、SNSが使われることの方が多くなりました。
私自身、FacebookとLINEをしていますが、多くの人に見せることを目的にしていないので、限られた範囲でしか公開していません。
法律事務所や組合が情報発信をするとき、より多くの人に見てもらうためにどのような工夫が必要なのか。SNSをどのように活用すればいいのか。「見せる」ホームページの作り方、投稿の仕方について知りたくて参加しました。
労働運動・弁護士業務においてSNSを活用する意義について、清水亮宏弁護士・POSSEの坂倉さん・渡辺輝人弁護士から話がなされました。
その後、実際の活用事例がPOSSEの坂倉さん(しゃぶしゃぶ温野菜ブラックバイトの事例)、プレカリアートユニオンの清水さん(アリさんマークの引越社の事例)から紹介されました。
個人的に「なるほど!」と思ったことを何点か。
写真付きで投稿する。投稿は、短く、分かりやすく、インパクトを持たせる(特にTwitterは140字という制限の中で伝えたいことをまとめなければならないので、短い文章で伝えたいことを書く訓練になる。Facebookは字数は自由だが、150字以上は「続きを読む」として省略されるので、150字までに読ませるための工夫を)。
Twitterは実名でなくても登録できるが、あえて実名で肩書き・写真付きの方がフォロワーが増える(信頼も増す)。
情報発信はこまめにする。タイミングよく投稿をする。「すぐに」投稿する方がいい(団体交渉の後にすぐ報告を載せるなど)。その時々の社会問題に専門家としてコメントをすると、意外と記者などが見ている。ニュースのTV画面を写真に撮って、コメントをする(何のニュースか分かるよう、TVは敢えて字幕表示にしておく)。
共感を得るために敢えて情報を制限するなど戦略的に考える(悪徳店長の個人名・顔写真を載せるより、ひどい会社であることを強調した方がいい場合など)。
基本的に自分の家族や友達に言えない話は書かない。運動に使うアカウントでプライベートなことは書かない。炎上は気にしなくていい。
会場からも質問や発言がなされましたが、意外とSNSに対して苦手意識を持っている人が多いようです。特に年齢が高い世代には、SNSを運動に活かすことについて理解が得られにくいようです(具体的なイメージができないからかも知れません)。いろいろなことを経験し、人が束になることの力を知っているのは上の世代なので、下の世代から諦めずに提案をしつつ、これまでの取り組みと上手に組みあわせながら進めていくことが大事です。
民法協主催で、初心者向けの「SNSの使い方」講座をしてみてもいいかも知れませんね。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP