書籍の紹介

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書籍紹介 『これでいいのか 自治体アウトソーシング』城塚健之・尾林芳匡・森裕之・山口真美 編著

 弁護士 谷   真 介

 「公務の民間委託」や「指定管理者制度」といった自治体業務のアウトソーシング(外部化・民間化)に関する問題は、私たち民法協会員(自治体労働組合の方を除く)にとってすら、とっつきにくいとの印象を受ける分野であると思います。マスコミでは、「人件費が高く無駄の多い行政は民間を見習え」とばかりにこれを後押しする論調がほとんどです。負の側面については、「官製ワーキング・プア」として、その担い手の貧困化が単発的に取り上げられたくらいで、本体の自治体アウトソーシングそのものが、私たちの身近な暮らしに直結する問題であると認識するに至っていないのが、現状です。

 著者・編者の一人である城塚健之弁護士は、担当された「第一章 自治体アウトソーシングの現段階と自治体の課題」を次のように締めくくっています。「公務の市場化をめぐる問題は、自治体労働者や、福祉サービスを受けている人だけの問題ではありません。それは、私たちがどのような社会を築いていくのかという根幹に関わる問題なのです。」
 本書を読み進めるうち、その意味するところに、打ちのめされそうになります。

 本書では、私たちの暮らしそのものとして受けられるのが当たり前になっている、医療や保育、交通、水道、図書館、役所の窓口業務等のアウトソーシングが例にあげられています。例えば、お金のない人でも公平に医療を受けられること、どこに居住している人でも「足」として交通機関を利用できること、個人情報を侵されることなく安心して文化的な生活を送ることができること等、誰もが健やかに、また豊かに生きていくために、公平に受けられるべき行政サービスが、アウトソーシングという手法によって、企業の利潤追求の場として開放され、また拡大されようとしています。そこでは、企業の利潤が絶対的価値となり、住民の権利・生活は度外視されることになります。果たして、それでいいのでしょうか。「公共」「社会」とは、何でしょうか。

 いま安倍政権は、アベノミクス第三の矢として「成長戦略」を掲げ、「日本を世界一企業が活動しやすい国にする」と公言し、「岩盤」としてその妨げとなっているあらゆる規制を徹底的に緩和するとし、「国家戦略特区」を最大の目玉にすえるなど、これを加速度的に進めています。その一つとして、先ほどあげた医療や教育のほか、農業やその他の「公共」の分野を企業の利潤追求の場として開放し、誰もが公平に受けられるべき公共サービスを「商品化」しようとしているのです。

 本書では、安倍政権が加速度的にすすめている各政策について、全体に俯瞰して、またアウトソーシングし企業に開放しようとする分野ごとに、豊富なまた最新の情報を網羅し、これに的確な分析を加え、対峙する側が打ち出すべき方向性の示唆までなされています。この時期に、これだけ情報の質が高く、かつコンパクトにまとめられた著作は、ほかにないと断言できます。その意味でも、たくさんの方に、できるだけ早く手にとってお読みいただきたいです。また、本書を題材に、身近な暮らしの問題として「これでいいのか」と議論したり、また学習会を開催してほしいと思います。

 個人的には、(私のような)若手の弁護士にも、事件活動だけでなく(一生懸命事件活動に取り組むのは弁護士の基本ですが)、人権保障を具体化する「自治体」というものがどうあるべきかという、人権保障の最前線の問題として、この分野に一緒に取り組んでほしいと思います。そのきっかけとして、本書を手にとってもらえれば嬉しいです。どういう社会を築きたいかという問題として、ぜひ一緒に議論し、取り組んでみませんか。

2014年5月
自治体研究社
定価 1600円+税
民法協で少しお安くお求めいただけます。

書籍紹介『働く人のためのブラック企業被害対策 Q&A』

紹介者:出版ユニオン大阪 大久保 武 則

 違法な労働条件で若者を働かせ、人格が破壊するまで使いつぶすブラック企業。現在では「追い出し部屋」に見られるように、有名企業も含めて「ブラック」化し、政府も「若者の使い捨てが疑われる企業」対策を打ち出さざるを得ないほど、若者から中高年層も含め、被害者が拡大している。
 ブラック企業の告発はNPO法人ポッセ(POSSE・代表:今野晴貴氏)によりすすめられ、現在では多くの著者・編者、出版社から発行されている。しかし、実際に被害にあっている人やその親に対する、わかりやすい解説書は少ない。
 今回ブラック企業被害対策弁護団著の本書は、
 ①就職活動中や入社前に知っておきたい
 ②試用期間など
 ③賃金・労働時間
 ④その他の労働条件
 ⑤人事異動・休職
 ⑥解雇・退職強要
 ⑦非正規労働・その他
 ⑧相談したい・闘いたい
という8つの項目に分け、女性からの相談が多いと思われる項目については女性弁護士が答えている。民法協の中西基弁護士(インターントライアル)と谷真介弁護士(配転命令)も書かれている。一般の人にとってもわかりやすい本である。
 各項目は、Q&Aで始まり、その問題点と解説、対処法が記述され、最後に「ここがPOINT」で対処法が具体的に箇条書きで短くまとめられている。
 現在、労働者は個々ばらばらにされ、おかしいと感じながらもその問題点と対処法がわからず、諦めてしまう人が多いと思われる。また、組合に相談してもまともな対応をしてもらえなかったという話もよく聞く。
 このようなことが少なくなるためにも、組合活動に携わっている人や相談者に推薦したい本書である。

ブラック企業被害対策弁護団著
発行:LABO
定価:1700円

西谷敏著 『労働法 [第2版] 』をどう読み、どう活用するか

弁護士 鎌 田 幸 夫

1 今、何故「第2版か」
 西谷敏先生の労働法「第2版」(日本評論社)が出版された。「第2版」の意図は、「第2版はしがき」と「エピローグ 労働法はどこへ」で次のように端的に述べられている。
 2008年の初版発行後、労基法、労働者派遣法、労働契約法、高齢者雇用安定法など重要な法律改正が相次ぎ、労働者性や非正規を巡る重要な判例が次々と出された。また、2012年末に成立した第二次安倍内閣は、労働法制の全面的な規制緩和の動きを強めている。このような激動の時期に、労働法を「静態的」に描く体系書の執筆に「ある種のむなしさを覚えた」が、「労働法の存在そのものが根本的に問われている時期だからこそ労働法の原点を確認することが必要である」というものである。「第2版」が、今、出版された理由がまさにここにある。「第2版」は、「静態的」な労働法学の体系書であるとともに、この激動の時代に、労働運動、裁判闘争、立法闘争に立ち向かう労働者や実務家のために書かれた「動態的」な理論書・実務書でもある。前者の観点からの評釈は私の力量を超えるので、ここでは後者の観点から述べてみたい。

2 「第2版」の特徴
 「第2版」の特徴としては、初版以降の重要な法改正と判例と学説の進展を踏まえて、深く掘り下げられた新たな解釈論と法政策論が展開されていることである。
 解釈論としては、①最近の若者や高齢者等の雇用情勢を踏まえた「雇用保障法」、②最近の最高裁判例、中労委命令、学説の進展を踏まえた労組法上の労働者、使用者概念、③非正規労働について、労働契約法などの法改正や最近の判例を踏まえた有期雇用、パート労働、派遣労働、④整理解雇の法理、⑤改正高年法と継続雇用拒否などである。
 政策論としては、①労働者派遣法の再改正、②日本版ホワイトカラー・イグゼンプションの導入、③限定社員の制度化、④解雇の規制緩和による労働移動の促進、⑤有料職業紹介の規制緩和などが展開されている。
 いずれも、労働組合、実務家が、裁判闘争・立法闘争・労働運動において、今、苦闘している課題ばかりであり、本書は必読であると思う。そこで、私なりに、それぞれの場面で「第2版」をどう活用するかを考えてみた。

3 「第2版」をどう活用するか
(1) 裁判闘争における解釈論
 裁判の勝敗を決するのは大半の場合、「事実と証拠」である。「事実と証拠」にもとづき、より説得力ある事実の認定とルール(規範)へのあてはめを裁判官に提示できるかが勝負である。労働事件も例外ではない。ところが、労働法は、あてはめるべきルールが必ずしも自明ではない。例えば、「労働者」「使用者」、争議行為や組合活動やその「正当性」など基本的概念やルールそのものが不明確であり、「解釈論」によって解明・補充・修正する必要がある。それゆえ、より説得力ある解釈論を提示できるかによって裁判の結論が左右される事件も少なくない。例えば、労組法上の「労働者」に該当するかについて、事実と証拠が全く同じあるにもかかわらず、東京高裁は否定し、最高裁は肯定したことなどがわかりやすい例である。ここに、労働法学の解釈論の実践的な重要性がある。
 ところで、著名な民法学者である大村篤志教授は、今日の解釈論における判例の役割の重要性を指摘し、「判例は前衛で、学説は後衛」が基本的役割分担であり、学説は「判例の成果を整序し体系に取り込む作業に重点を置くようになっている」とする(基本民法Ⅰ「有斐閣」)。確かに、学説のそのような役割は大切であろうし、判例のルールを適用してその事件の妥当な結論が導ける場合はそれでよいだろう。しかし、先に挙げた争議行為や組合活動の正当性に関する判例(最高裁判決)のルールは極めて制限的であり、そのまま適用すれば争議行為や組合活動の自由を極めて制約してしまう。また、労組法上の使用者概念に関する朝日放送事件最高裁判決のルールを派遣型だけでなく親子会社類型にまで拡大し、使用者概念を狭く解釈する最近の判例・命令の傾向も妥当でない。
 このように、現代社会では、従来の判例の傾向を当てはめると不当な結論となるケースや、派遣法や高年法など新しい立法下で闘われるケースも増えている。そのような事件をかかえて日々悪戦苦闘しているのが民法協弁護士の現状である。そのような事件で少しでも前進するためには、従来の判例の整序にとどまるのではなく、憲法、労働法と実態から判例を批判的に検討し、あるべき方向性を示す解釈論を展開する体系書が是非とも必要である。「第2版」は、まさにその役割を果たすものである。
 困難な事件にぶつかったときには、是非「第2版」を紐解いてもらいたい。西谷説と「対話」しながら、基本原理に遡って判例や学説を批判的に検討するときに、必ずや、その事案の即した、解釈論における突破口や有益な示唆が得られると思う。

 (2) 立法闘争における政策論
 安倍政権下では規制改革会議等の主導で、派遣法の再改正など労働法制の全面的規制緩和が進められようとしている。労働組合や労働弁護士は、その本質を見抜き、危険性を広く知らせていくことが求められている。その際に、各課題ごとに情報を知らせるのだけでは十分ではないと思う。労働法体系全体のなかに各課題を位置づけて、労働法の原理や存在そのものを危うくする本質論や危険性を訴えることが大切だと思う。「第2版」では、体系書に取り込まれた各課題の解釈論の後にじつにホットな「政策論」が展開されている。類書にはない試みであり、立法闘争に関わる者にも必読であろう。

(3) 労働運動における運動論
 労働運動に携わる人は「集団的労働法」の部分(約140頁の分量)だけでも通読されると、日々の団交や労働組合活動の理論的な確信を得ることができると思う。また、政策論やエピローグなども是非お読みいただきたい。
 ところで、本書は、規制緩和による労働法の危機とともに、わが国の労働組合の組織率、機能、存在意義の低下による労働組合の危機も指摘する。労働法は、労働者保護法と労働組合による集団的な交渉という二本の柱によって、労使の実質的な対等を実現しようとするものであるが、そのいずれもが危機に瀕しているのである。
 労働法の規制緩和の時代であるからこそ、もう一つの柱である労働組合の役割が相対的に重要となる。そして、職場で労働組合をどのように組織化し、拡大し、活性化するかは、労働組合の大きな課題である。この労働組合の組織化について、西谷説は、個々の労働者の自由の尊重の視点から「ユニオンショップ協定」(組合員でない者の解雇を使用者に義務付ける協定)を違法・無効とし、有効とする通説・判例と激しく対立している。西谷説は、「労働者は団結することによってのみ真の自由を獲得する」ものとしても、それは「強制」によってではなく「自発性と説得」によって実現されるべき、というのである。労働者の「自発性」と労働者による「説得」は、労働組合の組織化の場面だけでなく、労働組合活動や市民運動一般にも通じるものであろう。もっとも、それは、決して平坦で容易な途ではないように思える。労働組合の再生と活性化にとって、何が必要か、本書からは、様々な課題と問いかけがなされているといってよい。

4 終わりに
  本書は、読者によって、 様々な読み方、活用の仕方があるように思える。いずれにせよ、大切なことは、本書で展開されている解釈論や問いかけに触発を受けて、その根本にあるものを議論し、検証し、実践・応用していくことであろう。そのことが、これまでの学究生活の大成として「初版」「第2版」を執筆された先生の労苦に少しでも報いることになるのではなかろうか。

日本評論社
2013年10月20日発行
定価 4,935円
※民法協にて少しお安くお求めいただけます。

書籍紹介 和田肇・脇田滋・矢野昌浩編著「労働者派遣と法」

派遣労働研究会・弁護士 南 部 秀一郎

 6月15日に日本評論社より和田肇・脇田滋・矢野昌浩編著「労働者派遣と法」(日本評論社)が出版されましたので、ご紹介します。

 本書ではまず、第1章で労働者派遣法制定に至る経緯と改正の過程が解説されています。同章第3節では、最新の2012年改正についてまとまった解説がされており、大変参考になります。特に、本改正の目玉である派遣法40条の6の「使用者側の労働契約申し込みみなし」規定について、その根拠を使用者が常用雇用において、自らの危険を負担することなく「使用すること」すなわち「間接雇用の禁止」においているとの解説は簡明でわかりやすいものです。2012年改正については、立法担当者の断片的な解説程度しかない状況ですので、実際に改正法の積極的利用を考える上で、研究者からの解説は貴重であると思います。

 そして、続く第2章では労働者派遣法の理論課題として、派遣法の理論上の問題点が、そして第3章では労働者派遣裁判例の分析がされています。両章の中で特に挙げるべきは、松下PDP事件最高裁判決に集約する違法派遣・偽装請負事件について、研究者と弁護士が共同して、多くの判例を集積し、分厚い批判的解説を行っている点です。本書のはしがきに、本書刊行の経緯について書かれていますが、本書は編著者の一人であり、当民主法律協会の脇田滋教授が違法派遣を中心とする派遣問題について、ホームページを作成し、派遣法の解説や労働問題の相談を行っていたところに、弁護士・研究者がネットワークを形成し、会議・研究会を行うところに、本書の出版に至る端緒があります。私は、弁護士2年目で、裁判当時はロースクールの一学生であったために、詳細を知りませんが、松下PDPをはじめとする違法派遣の裁判においては、その主張・立証の組み立てにおいて、弁護士と研究者そして当事者との協働関係がなされていたと聞いています。本書はそういった協働関係から生み出されたもので、特にその協働が広く行われた違法派遣事件の解説に、その成果があらわれていると思います。違法派遣に関して主に判例解説の形でされた多くの論文について、本書ではリファレンスがされており、様々な学説がまとめられています。本年になって、山口地裁でマツダ派遣切り裁判に勝訴判決が出ましたが(山口地裁 平成25・3・13判決)、今後違法派遣事件を争っていくにあたって必読であると思われます。

 続いて第4章では、諸外国の労働者派遣法として、ドイツ、フランス、韓国の3カ国の派遣法についての解説がなされています。これらの国々は、例えばドイツの派遣法が日本の派遣法のお手本になっている、韓国法が正規と非正規の格差を抱えるなど日本との労働関係上の共通点をもつ、あるいは、フランス・ドイツなどのように外国人労働者の流入という、これからの日本の派遣労働の課題となるべき事柄に対処しているなど、参考とすべきものであると思われます。

 最後に編著者の和田肇教授による総括的検討がされ、派遣法に横たわる(はずの)直接雇用の原則(と例外としての派遣)、そして、違法派遣訴訟などで直面する公法私法二分論、取締法規違反の私法上の効力といった問題がまとめられています。資料として、派遣研によせられた法律相談の概要などもまとめられています。

 本書の画期的な点は、何をおいても、労働者派遣を含む「非正規労働」の分野に取り組む一線の労働法研究者と、実際に多数の労働事件の労働者側弁護を行っている弁護士とが、それぞれの成果を持ち寄って作った本であるという点です。まさに研究と実践の融合です。
 本書には派遣研メンバーだけでなく民主法律協会の多くの研究者、弁護士会員が執筆しています。派遣法研究の現状の到達点を示す決定版の一冊ですので、皆様是非入手され、お読みください。

 ※日本評論社 定価5000円+税 民法協で少しお安くお求めいただけます。

書籍紹介 『高速ツアーバス乗務員は語る 家族は乗せたくない!』自交総連大阪地連編

紹介者・自交総連大阪地連 松 下 末 宏

 東京―大阪間で4000円。このような低下価格への驚きもなくなり、すでに激安バスの存在は当たり前になりつつある。しかし、苛酷な労働が低価格を支えていると、本書は指摘する。
 とくに、問題となった高速バスツアーを含む貸切バス運転者による座談会は生々しい。運転中に宿泊先に電話をせざるえないほどの過密なスケジュールが居眠り運転を招く。語られる労働実態は深刻だ。旅行会社にもの言えず、低価格で仕事を請け負わざるをえない業界構造にも言及している。2012年4月の群馬県から出発したバスの乗客7名が居眠り運転の犠牲になった。この事故の運転手も非正規で、きちんとした休息を取れずにハンドルを握っていた。
 副題は「家族は乗せたくない!」。ここまで労働環境が悪化したのは2000年の規制緩和以降だ。当時は規制緩和によりサービスが向上すると唱えられたが、現実には過当競争が進んで最低の安全性すら担保されずにいる。本書は政府・国交省の検討する事故防止では解決しないと指摘し、必要な法規則を具体的に提示している。バス業界を熟知し、交通の安全と労働者の生活を守るために警鐘を鳴らし続けた自交総連が新たな犠牲者が出る前に抜本策を講ずべきと提起している。

日本機関紙出版センター
2012年11月30日発行
定価 900円

西谷敏先生の『労働組合法 第3版』を読む

弁護士 出 田 健 一

 第2版刊行後6年を経て、昨年12月に西谷敏先生の『労働組合法第3版』(有斐閣)が出版されました。
 同書の「はしがき」にもあるとおり、主な改訂箇所は労組法上の「労働者」概念に関する部分(同書77頁以下)と「使用者」概念に関する部分(149頁以下)です。いずれも当協会の会員が取り組んだ事件に関係しますが、前者は三つの最高裁判決が出て判例命令の前進面が顕著です。これにつき、「新たな最高裁判決の結論そのものは広く支持されているが、判決がいずれも事例判断にとどまっていることもあって、理論的な決着にはほど遠い状況である」として、著者は労組法3条の「労働者」は憲法28条の「勤労者」と基本的に同義で、「その意味内容と範囲は、基本的には憲法28条の趣旨から導かれるべきである」として、全逓中郵事件の最高裁大法廷の判旨も引用しながら、「使用者(労務供給の相手方)との関係で社会的経済的に従属的な地位にあり、そのために労働基本権の保障を必要とする者」と定義し、最高裁判決や労使関係研究会報告を批判的に検討されています。これは「経済的従属性」を基準とする説です(先生の『労働法』459頁も参照)。
 一方、「使用者」概念についての判例命令は複雑です。派遣・下請関係や偽装解散・事業譲渡の場合には相当の前進面が見られますが、関西航業事件・大阪証券取引所事件や近年の高見澤電機製作所事件のような支配企業の使用者性をめぐる判例命令は、派遣・下請型に関する朝日放送事件最高裁判決の判断方法を形式的にあてはめて、支配企業が従属企業の労働条件等の具体的決定に関与することを求めています。先生は、「支配企業が、株式所有、役員派遣その他を通じて従属企業の経営全体に支配的な影響を及ぼしている場合には、・・・支配企業が従属企業と重畳的に使用者となることを認めるべきである」といわれます。ここは旧版にあった「間接的」「実質的」影響という文言がないので一瞬無限定ではないかと感じましたが、代わりに、158頁で義務的団交事項や「誠実」交渉の程度は支配の内容、程度に応じて異なると限定されているので、この相関関係に注意して読む必要があると思います(この理解は本書注29引用の竹内(奥野)氏の論文129頁を参照しました)。なお、経営協議会を利用した複数組合間差別の例として本書でも引用していただいたNTT西日本事件は、種々の理由で被申立人としなかった持株会社が主導し、東西NTTが同席する東京で開かれた中央経営協議会が舞台で、持株会社の使用者性が隠れた、しかし重要な論点でした。その経験で申しますと、理論とは別に弁護団・労働組合の証拠収集・立証の工夫の問題もあります。理論・実践の両面にわたってここを突破するのが次の大きな課題です。
 本書では国家公務員労働関係法案等、公務員の労働基本権の展望(73頁)や大阪市に見られる公務員と不当労働行為に関する記述の補充もされています(158頁)。その際、「行政改革」・民営化と国鉄・電電公社を含む官公労働者への攻撃(35頁)の箇所はもちろん、是非とも第1章全部を読まれることをお勧めします。
 これは何も公務員の問題に限られません。本書初版の「はしがき」に書かれたように、本書の基本的特徴は、①労働組合法体系の頂点に位置する憲法28条の労働三権を重視していること、②労働基本権の理解において、その自由権的性格をふまえつつ、全体としてそれを労働者の関与権として位置づけていること、③労働者個人の自由意思を尊重する立場から、そうした自由意思が制限される場合にその根拠(正統性)の明確化が要求されるという点にこだわっていることにあります(③は組合民主主義と統制処分の根拠、労働協約の不利益変更とその限界、ユニオンショップ等の諸問題の考察の際に関連)。その真髄を把握するには第1章をよく理解することが必須です。
 「憲法28条は『労働組合法』のアルファでありオメガである」(第1節)。それを知るには内外の長い歴史を振り返る必要があるとして、第2節・第3節で詳述されています。北港観光バス事件異議審で強力なヒント・確信になったのもワイマール憲法118条1項(263頁)から説き起こす著者の鋭い論述でしたが、今回正月に読み返して改めて感銘を受けたのは、第3節の大正デモクラシーと労農運動の高揚→戦前の農商務省・内務省・政府の労働組合法案と末弘厳太郎博士らのワイマール・ドイツ労働法の研究→戦後の労働改革と終戦の年の年末に早くも自らの力量で作成できた旧労組法→憲法28条の作成という一連の歴史過程の人的担い手・内容面の連続性・発展性の指摘です(旧労組法までの条文の資料として、さしあたり東大労働法研究会『注釈労働組合法』上巻参照)。その後の占領政策の転換による公務員に関する諸法の制定と労組法改正・・・とずっと続いて現在の情勢と法現象に至る訳です。これは他に類を見ない日本国憲法の労働条項の優れた教科書でもありますし、「GHQ押し付け論」に対する雄弁な反論です。憲法問題を考える際にも必読文献だと思います。
 現行労組法制定時には55.8%の労働組合組織率がいまや20%を切り、争議行為件数85件、半日以上の同盟罷業(ストライキ)が年間38件?!、労働組合がある事業所で労使協議機関を設置するのが 83.3%という困難な状況下で(すべて本書に統計資料が引用されていますのでお探し下さい)、著者は「労働組合とは何のために存在するのか、憲法28条はなにゆえにすべての勤労者に労働基本権を保障したのかを問い続け」ます。それは憲法前文、11条、97条等が強調する、過去現在未来にわたって「侵すことのできない永久の権利」の呼びかけです。多くの方々が本書を学習し、明日の糧にしていただきたいと思います。

 有斐閣2012年12月発行
 A5判並製カバー付536ページ
 定価 4,305円
民法協で特別価格にてお求めいtだけます。

ジョン・ニコルス著『市民蜂起  ウォール街占拠前夜のウィスコンシン2011』

大阪・日本の労働者・市民への呼びかけにどう答えるか

評者・弁護士 小 林 保 夫

 私の親しい友人である梅田章二さん・喜多幡佳秀さん監訳、おおさか社会フォーラム実行委委員会日本語版編集による標記の著作が出版された。 本稿は、私の切実な読後感を踏まえて、みなさんにこの著作を紹介し、購読をお勧めするものである。

1  本書の概要
 ――公務員労働者の団体交渉権を守るためのウイスコンシン州市民のたたかい――

 資本主義の行き詰まりを新自由主義的な方向と政策で打開しようとするアメリカの企業・富裕層は、ウィスコンシン州で共和党のスコット・ウォーカー知事のもとで緊縮財政政策を推し進めるにあたって、これに対する抵抗を排除するために、2011年2月11日、公務員労働者、教員等から団体交渉権を奪い、労働組合の権利を制限する内容を含む財政改革法を提案した。これに対して、同州のみならず全米の民主主義勢力が反対の声を上げ、同州首都マディソン市において、当初の50人から、10万人にも及ぶ集会参加者を得、ついに同月20日、州議事堂を占拠するに至った。3月3日占拠を終結し、またさきの団交権制限法案の可決を見るが、その後も共和党議員や同上知事のリコール運動への展開とその成功をかちとった。
 ウィスコンシン州におけるたたかいは、他の諸州におけるたたかいとともに、さらに2011年7月に始まる全米の市民による「ウォール街の占拠」と思想的・運動的に連動するものであった。
 本書は、ウィスコンシン州におけるたたかいを跡づけ、その正当性をアメリカ合衆国憲法(修正第1条 抵抗権)、民主主義の観点から解明するとともに、このたたかいについてのメディアの対応やあり方を検証したものである。
 著者は、アメリカのオピニオン誌「ネイション」の政治記者・ジョン・ニコルスであり、みずからも、ペンと行動によってこのたたかいに参加し、立ち上がった市民を鼓舞激励した。

2 著者の日本の読者への呼びかけ 
 
――たたかいと連帯の必要――

 著者は、「日本語版への序文」において、日本の読者に以下のように呼びかける。
 「ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事が州の公務員の団体交渉の制度を解体しようとした。」のに対して、州民たちは「アメリカの現代史の中で最大の、最も戦闘的な、労働者の権利を擁護する運動を展開した。」
 世界の多くの国で、政治的利権グループは、「『緊縮財政』の旗を掲げ、経済的な混乱と財政の困難な中では労使関係や、社会福祉や、国家の役割の根本的な変革が必要であると主張している。緊縮政策は嘘である。彼らは『負担を分かち合う』べきだと言っているが、現実には、勤労大衆の賃金や福利が犠牲にされ、若者、高齢者、失業者、貧困層に対するサービスが切り捨てられる一方で、企業と富裕層は保護され、冨と権力を上に向けて再配分する政策によって、一層富裕化している。」
 「ウィスコンシンの闘いは、労働者の権利と組合の力に対する攻撃に反撃し、生き延びた経験の物語である。それは、純然たる勝利や、たやすい勝利ではない。後退もあった。ウォーカー知事は、彼の政策のいくつかの要素をすでに実施した。労働組合と労働者は大きな打撃を受けた。知事による州議会上院の支配を終わらせることができたが、ウォーカー知事を失職させることはできなかった。」
 「ウィスコンシンの教訓は、反労働者的な政策との闘いは可能であるだけでなく、必要であるということである。」
 「ウィスコンシンのもう一つの教訓は、国際連帯である。」
 そして彼は、日本の読者に対しても「連帯を!」と呼びかける。

3 私たちはウイスコンシン州のたたかいから何を学ぶか
 ――ウィスコンシン州における攻撃とたたかい、大阪における橋下・維新の会の攻撃と私たちの闘いの共通の普遍的性格――
 
   本書が紹介するウィスコンシン州における労働者・市民への攻撃の内容は、まさに今大阪で展開されている橋下・維新の会の労働者・市民に対する労働基本権侵害、福祉攻撃と驚くほどの共通性を有するものである。
 橋下氏は、府知事当時、大阪府の職員・教員に君が代斉唱を義務づける条例を制定し、その後大阪市長に就任すると同市においても同様の条例を制定したうえ、さらに維新の会所属の府知事とともに、憲法や地方公務員法はもちろん、改悪教育基本法さえ無視して、府市職員・教員の組合活動・政治活動の権利、教育活動を徹底的に抑圧する条例を制定した。
 橋下・維新の会は、これらによって労働者・市民の抵抗を排除して、労働者の権利に敵対し、市民の福祉を切り捨て、核武装まで可能にするような新自由主義的・反憲法的・反民主主義的な内容の政策(「維新八策」)を推進しようとしている。
 しかも、これらの政策への志向は、橋下・維新の会に限らず、日本の支配層に共通するものである。
 この点で、ウィスコンシン州における事態は、わが国の労働者・市民にとってよそごとではない。
 ウィスコンシン州における市民の反撃は、私たちに多くの教訓と示唆を与えるものではないだろうか。
 橋下・維新の会が「維新八策」に掲げる政策は、客観的には、大阪府市民の99%の利益に敵対し、圧倒的多数の市民の平和への願いに敵対するものである。
 したがって、このような勢力に対するたたかいは、客観的には圧倒的多数の市民の理解と支持を得る性格を持つものであろう。

4  マイケル・ムーアは言う
 ―― 「ウイスコンシンで起こっていたことはどこででも起こりうる」――

 本書について、マイケル・ムーアは、「ジョン・ニコルスはウィスコンシンの闘いの意義が1つの州にとどまらないことをすぐに理解した。それは私たちみんなが待っていた闘いである。人々は『もうたくさんだ!』と叫んだ。ジョンはウィスコンシンで何が起こったかを語っているだけではない。ウィスコンシンで起こっていたことはどこででも起こりうることを私たちに教えている。」と語った。
 私も、マイケル・ムーアのひそみにならって、「2011年にウィスコンシンで起こっていたことは日本でも起こりうることを私たちに教えている。」と語って、とりわけ橋下・維新の会が、新自由主義の政策を振りかざして、大阪をはじめとするわが国の労働者・市民に加えようとしている憲法・民主主義破壊の攻撃に対して、スコット・ウォーカー知事らの労働基本権攻撃とたたかって成功を勝ちとったウィスコンシン州の市民のようにたたかうことを訴えたい。

株式会社かもがわ出版
2011年10月1日発行
定価 1800円+税

書評 「橋下『大阪維新』と国・自治体のかたち」

国政進出を企む橋下・維新の会への反撃の書

評者・弁護士 増 田   尚

 橋下徹・大阪市長は、9月、国政進出の母体となる政党「日本維新の会」を立ち上げ、「近いうち」に行われるとされる総選挙に向けて活動を始めた。その綱領(と呼ぶにはあまりに未成熟だが)となる「維新八策」には、橋下市長が地域政党「大阪維新の会」として強行してきた大阪府・市における様々な政策や制度を国の法制度にまで押し上げることがうたわれている。特に、行財政「改革」や、職員基本条例をはじめとする地方公務員制度、教育関係条例に見られる公教育「改革」については、大阪をモデルケースとして法制化することとされている。

 日本維新の会に対しては、「決められない」民主・自公の政治に対するアンチテーゼとして、閉塞した経済状況を打開する救世主として、バブル的ともいわれる期待が寄せられていたが、徐々にそのバブルもはじけつつある。しかし、今なお、橋下市長のメディア戦略は奏功しており、高い人気を維持している。民主勢力の批判も、いきおい、その政治手法に集中するが、橋下・維新の会が大阪府・市で何をしてきたのかという実像については、期待する側・反対する側とも、的確に把握できていないうらみがある。
 編者である鶴田廣巳・関西大教授(大阪自治体問題研究所理事長)は、同研究所に、「大阪発・地域再生プラン研究会」を立ち上げ、こうした橋下・維新の会の政策を検討してきた。その結果をとりまとめて、橋下・維新の会が目指す「改革」の実像を明らかにするために緊急に出版したのが本書である。

 鶴田教授は、大阪市が策定した「市政改革プラン」の反市民性と反人権性を暴露することを通じて、「大阪維新」の政治的本質が人権、地方自治、民主主義の危機にあると指摘する。
 この分析を受けて、「地方自治の危機」を鋭く指摘する森裕之・立命館大教授、中山徹・奈良女子大教授、城塚健之弁護士、初村尤而氏、柏原誠・大阪経済大准教授の論攷が続くが、橋下市長が府知事時代から実行してきた開発戦略を並べて、失敗を繰り返している事実を突きつける中山教授の論述には、私たち自身も「くるくる王子」と揶揄されつつも次々と新奇さを打ち出す橋下市長の手法に眩まされていたことを思い知らされずにはおれない。また、城塚弁護士は、職員基本条例に見られる職員管理支配や、公務員・公務員組合に対する執拗な攻撃の非民主性、反人権的な問題を浮き彫りにする。初村氏は、「市政改革プラン」に見られる関―平松市政との連続性を指摘し、橋下市長のトップダウンのもとで問題が深刻化することを懸念する。

 橋下・維新の会の「改革」の弱点が、基本的人権の尊重や、地方自治の本旨、民主政といった根本理念に反する点にある。本書のサブタイトルにもあるとおり、「人権・地方自治・民主主義の危機」に立つ中で、私たちがなすべきことは、愚直に、「人権・地方自治・民主主義」の価値を実践することにある。全国に波及しつつある「維新の会」あるいは「維新の会」的な政治勢力と対峙するためには、本書を読み、橋下・維新の会の実像を把握する必要があるといえる。

自治体研究社 2012年9月10日発行
定価 1575円(税込み)

本書ご注文は大阪自治体問題研究所へ TEL 06-6354-7220 FAX 06-6354-7228 

書籍紹介『自治体ポピュリズムを問う 大阪維新改革・河村流減税の投げかけるもの』

評者・弁護士 河 村   学

榊原秀訓 編著
自治体研究社 発行
2400円+税

  1.  本書では、橋下大阪市長や河村名古屋市長が行う手法や政策の問題点が検討されている。全7章の論考は独立して分担執筆されており、それぞれのテーマでの現時点でのまとまった論考としては最良のものとなっている。とりわけ橋下大阪市長・大阪維新の会の手法や政策の問題点、その背景、運動の要点等を議論し検討している民法協会員にとっては、まことに時宜を得たものであり、「大阪問題」を考えるにあたっての必携の書といえる。なお、テーマ及び執筆者は以下のとおりである。
     ・自治体ポピュリズムの憲法政治―プレビシットと民意―(植松健一)
     ・ポピュリズム首長と議会・住民参加(榊原秀訓)
     ・国会と地方議会の改革のゆくえ(小沢隆一)
     ・大阪都構想と「国家改造」(森裕之)
     ・大阪府「職員基本条例」の法的問題点(城塚健之)
     ・大阪における「国家起立斉唱強制条例」と「教育基本条例案」の法的検討(丹羽徹)
     ・名古屋市の「河村流減税」の検証(山田明)
  2.  本書の一つの特徴は、自治体ポピュリズムの背景や問題点を明らかにしつつも、それに留まることなく、現行制度や実態のかかえる矛盾や問題点にも向き合い、その運用のあり方や制度的な解決方向も示唆している点である。例えば、1章では、現行地方自治法が採用する二元代表制は「実は運用難度の高い制度」とし、「議会優位の二元代表制」として把握することを含め、首長と議会の関係をどう位置づけるべきか検討が進められている。また、1章・2章では、「直接民主制のリスク」についても言及がなされるとともに、ポピュリズム首長が、政策に対しては「積極的な(住民)参加制度を採用していない」ことを指摘し、住民参加制度のありようについても検討が加えられている。さらに、3章では、衆院比例定数削減の問題にも言及しながら、地方議会の議員数や議員報酬をどう考えるべきかの検討がなされている。
     いずれも、あるべき制度を検討し、市民・府民に共感を広げる運動を行うために避けてはとおれない課題であるといえる。
  3.  もう一つの特徴は、政策部分にかかわる論考では、政策の問題点が、網羅的に、その理由を詳しく述べながら論じられている点である。4章では、大阪都構想が住民のために使われるべき財源を大阪都が吸い上げてしまう制度であることが具体的な数字をもって明らかにされている。5章では、法律にも違反して公務員組織を知事の「私兵集団」にする条例であることが暴露されている。6章では、各条例は戦後教育のあり方を根底から覆えすものであること、教育を政治に従わせ、学校を財界のための人材を作り出す「工場」に変容させるものであることが、多面的な角度から論証されている。さらに7章では、河村減税が、名古屋市の財政に与えた悪影響や、これをテコにかえって住民の利益に反する施策が進行している事態が暴露されている。
     いずれも、市民・府民との対話や運動への確信をもつために必要な知識・理論であるといえる。
  4.  本書では、随所に、自治体ポピュリズムの背景・手法と、ナチス・ヒトラーのそれとの類似性が指摘されている。「「ワイマールの悲劇」という歴史を喚起させる」こと自身が、自治体ポピュリズムの「決断主義」に抗するために必要とさえ述べられている。
     ナチスの台頭は、社民=リベラル派政権の掲げる政策がご破算になっていく失望と、政争に明け暮れる議会・政党政治家への不信を背景にしたものであり、「現在の日本の閉塞状況こそ、ナチス登場前夜の雰囲気に重なる」というのである。
     歴史に学びながら、自由と民主主義の意義を喚起する作業もまた必要である。
     なお、ナチスの歴史とその宣伝が国民に与えた影響については、「写真・ポスターに見るナチス宣伝術」(鳥飼行博著。青弓社)が詳しい。

*本書において、「ポピュリズム」とは、「政治的再配分による支持調達という側面がないまま、問題の単純化と二項対立式の敵の設定をもって有権者の感情に訴えかけ、新自由主義の犠牲となる層からも支持を調達する」政治手法を指し、「自治体ポピュリズム」とは、このような支持調達を、「自治体住民の生活実感や「地域」・「地方」への愛着」を利用して行う政治手法を指すようである。ただ表題として判りにくいのは残念である。

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書籍紹介『問われる正義  大阪・泉南アスベスト国倍訴訟の焦点』

 評者・弁護士 松 丸   正

大阪じん肺アスベスト弁護団 編
かもがわブックレット
600円+税

 平成23年8月25日午後2時、大阪高裁(三浦潤裁判長)は、泉南地域でかつてアスベスト製造の事業所で働いていた労働者や地域住民に対する国の賠償責任を認めた大阪地裁判決を取消し、逆転敗訴の判決を下した。
 「問われる正義」と題したこの書は、泉南地域のアスベスト被害の歴史を明らかにするなかで、「戦前から石綿の危険性を『知っていた』、やろうと思えば必要な規制や対策が『できた』、でも産業の発展を優先し、それを『やらなかった』、この歴史的真実とそれを否定した高裁判決の不当性」(同事件弁護団長芝原明夫氏の言)を鋭くえぐった書である。
 この書で「問われる正義」とは何か、国に問われるべきは生命・健康は最も尊重されるべきであるという当たり前の正義か、工業技術の発達や産業社会の発展のためには生命・健康が犠牲になってもやむを得ないという産業発展の正義(利益)か、との問いかけである。
 同様の問いかけは、過労死・過労自殺についての企業責任の損害賠償事件でもなされている。大学を新卒で東証一部上場会社である大庄が経営する日本海庄や石山駅店で働いていた青年が過労死した事件では、会社のみならず社長ら取締役の個人責任も追及した。会社や社長らは、企業競争のなかで社員にいかなる働き方をさせるかは企業利益を追及するなかでの経営判断の問題と主張した。これに対し大阪高裁は平成23年5月25日、「責任感のある誠実な経営者であれば自社の労働者の至高の法益である生命・健康を損なうことがないような体制を構築し、長時間勤務による過重労働を抑制する措置を採る義務があることは自明」であるとして、会社のみならず社長ら取締役の個人責任も認めている。「至高の法益」という言葉からは、企業利益を優先し労働者の命と健康をないがしろにする労働現場に対する危機感さえ伝わってくる。
 アスベスト被害についても、過労死・過労自殺についても、生命・健康は最も尊重されるべき至高の法益なのか、企業や産業の利益という判断からは受忍せざるを得ない法益にとどまるのか、いずれの正義の立場に立つかによって判決の判断は決定される。原告勝訴の地裁判決は前者の立場、そして高裁の逆転判決は後者の立場で下された判決と言えよう。
 この書では、この裁判の最大のポイントは、国が局所排気装置の設置の義務づけを昭和30年代前半になすべきであったか否かと述べている。高裁判決は、「実用的な工学的知見」が確立、普及しておらず、コスト面から事業主が導入に積極的でなかったこと等をあげて国の責任を否定している。しかし、国は戦前からアスベストの生命・健康に対する危険性を認識していたのである。生命・健康は最も尊重されるべきであったにも拘らず、その対策を国がとらなかった責任について、「国は知っていた! できた! でもやらなかった」と端的に述べるとともに、歴史的な事実を克明に追うなかで国の責任を解明している。
 アスベスト被害は戦前から発生した古くからの問題であるとともに、将来においても命と健康の被害がより顕在化する問題である。アスベスト国賠訴訟は、最高裁での審理が続いている。この訴訟に勝訴することは、原告や、日本にとどまらず、世界のアスベスト消費量の半分以上となっているアジア諸国における被害の拡大の防止と、必要な救済・補償制度の確立に貢献するという国際的な役割を果たすものとこの書は結んでいる。
 私たちは今、過労死防止法の制定に向けての100万人署名に取り組んでいるが、この訴訟で勝訴し「命と健康は至高の法益」との正義を実現することは、この防止法の制定にとっても大きな後押しとなることを期待している。(書評でなく、弁護団への応援歌となったことをご容赦下さい。)