決議・声明・意見書

声明

「安倍晋三元内閣総理大臣の国葬に反対し、公私を問わずあらゆる領域において弔意への同調、賛同を強制しないことを求める」5団体共同声明

1 安倍銃撃事件の発生と国葬の決定

2022年7月8日に奈良市内で選挙応援演説中の安倍晋三元総理大臣が銃撃されて死亡するという事件が発生した。いかなる動機があろうとも、殺人が絶対に許されない行為であることはいうまでもない。

安倍氏が死亡したことに対し、市民から追悼の思いが寄せられることは、自然なことである。しかし、個人がそれぞれ追悼の思いを寄せることと、国の行為として葬儀を行うこととはまったく別個の問題である。岸田内閣が、7月22日に閣議決定をもって安倍氏の『国葬』を9月27日に執り行うとしたことは、以下のとおり、政治的にも法的にも重大な問題を含むものであり、大阪で活動する法律家団体として、これに反対し、公私を問わずあらゆる領域において弔意を強制することはもとより、弔意への同調や賛同を強いたり、同調や賛同しないことに対してなんらかの不利益を与えたりしないことを求めるものである。

2 国葬令廃止後、国葬を実施することの根拠法令がないこと

明治憲法下では、1926年公布の勅令である「国葬令」があり、皇族と「国家に偉功ある者」に対し、国葬が行われてきた。戦時下の1943年に戦死した山本五十六連合艦隊司令長官が国葬に付されたことに表れるように、「国家に偉功ある者」とは軍功を立てた軍人がまず該当するものとされていた。「国葬令」は、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律(昭和22年法律第72号)第1条の規定により、1947年12月31日限りで失効した。現在、いかなる場合にいかなる人物を国葬に付すのか、国葬はどのように執り行うのかを取り決めた法令は存在しない。1967年の吉田茂元総理の国葬にあたっては、当時の閣僚も法的根拠はないとの国会答弁をしていた。

岸田内閣は、内閣府設置法4条3項33号により内閣府が「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務を行う。」ことをもって根拠とするが、同条の規定は法令の根拠をもって決定された儀式の事務分掌が内閣府であることを定めたものであり、国葬が行えることの根拠ではない。さらに国葬に関する費用も予備費から支出される予定であり、国葬の決定、費用の支出について国会が事前に関与する余地がない。このことは、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」とする憲法83条(財政民主主義)にも反するものである。かかる国葬への国費支出は憲法史上に重大な汚点を残すものである。

3 国葬の実施により、何が生じるのか

自民党葬などではなく、国の葬儀としての国葬を実施することによって、政権与党だけでなく、国が全体として安倍政治を肯定し、改憲論を含めて、その方向を踏襲するという宣言がなされることとなる。これは、たとえ服喪や弔意の強制がなくとも生じるものであり、国民世論を安部政治の肯定と改憲論に誘導する機会として利用されるであろう。

国葬である以上、国の機関はもちろん、自治体・民間企業に対しても服喪や弔意の要請がおこなわれ、有形無形の同調圧力が形成されるおそれがある。

国葬の後にあっても、国葬をしたという事実は残り、報道や教科書・学校現場で、安倍政治や改憲論が国によって公認されたという論調が強まるであろう。現に、7月12日に行われた安倍晋三元首相の葬儀に合わせ、東京都など8つの教育委員会が国旗の半旗掲揚を学校に求めていたことが明らかになっている。

これらによって、安倍政治批判者や国葬に反対する者はあたかも国民多数の意思に反する異分子と扱われるであろうから、安倍政治批判者の内心の自由、表現の自由を侵害するものである。また国が服喪・弔意を求めることは故人の冥福を「祈る」ことを求めることと同義であり、宗教的内心の自由を侵害するものである。

4 安倍氏は国葬に値するのか

岸田首相は国葬を決めた理由について、安倍氏が憲政史上最長の8年8カ月、首相の重責を担ったことなどを挙げている。しかし、そもそも政治家の業績については賛否が分かれるものであり、単に総理大臣在任期間が長いことをもって国葬に値する業績とはならない。第1次、第2次安倍内閣を通じて安倍政権が進めた立法および施策には、教育基本法改悪、全国一斉学力テストの実施、教員免許更新制の実施、防衛庁の防衛省への昇格、共謀罪の制定、集団的自衛権の行使容認があり、それぞれ国民から大きな反対の声があったし、私たち法律家団体もこれらの反対運動に取り組んだ。さらに、森友学園瑞穂の国小学校をめぐる国有地払下げ、加計学園獣医学部新設、「桜を見る会」をめぐる金銭支出など行政・国有財産の私物化疑惑、情報・公文書隠しについての批判が出たうえ、近畿財務局職員の自死という重大な事態が生じた。これらの疑惑・情報および公文書隠しについては、大阪で起こった問題があり、各団体に所属する弁護士が代理人となった事件もある。

世論調査では、安倍氏の業績は評価しながら国葬には反対であるとする意見もあるが、少なくとも私たち法律家団体は、安倍氏の業績を全く評価するものではない。

5 国葬に反対するとともに、弔意の強制をしないことを求める

以上に述べたとおり、安倍元総理を国葬に付すことは、重大な問題を生じさせるものであり、法律家団体として反対の意思を表明し、公私を問わずあらゆる領域において弔意を強制することはもとより、弔意への同調や賛同を強いたり、同調や賛同しないことに対してなんらかの不利益を与えたりしないことを強く求めるものである。

                      2022年9月5日

  自由法曹団大阪支部    支部長   藤  木  邦  顕

  大阪社会文化法律センター 代 表   池  田  直  樹

  青年法律家協会大阪支部  議 長   山  室  匡  史

  民主法律協会       会 長   豊  川  義  明

  大阪弁護士9条の会    事務局長  森  野  俊  彦

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