1 2025年4月13日から開催している大阪関西万博では、同年6月現在まで、複数のパビリオンについて、工事代金が下請業者に支払われていない問題が発生している。報道によると、アンゴラ館では、電機や通信設備の工事に携わった下請業者が、上位の下請業者からの入金が滞っている事態となっている。複数の下請事業者が同様の状況にあり、5月末には、被害者の会が立ち上げられた。また、建設業許可を得ていない業者が複数関与していたことも判明した。なお、アンゴラ館は4月13日の1日だけ開館したが、以降は休館が続いている。
また、マルタ館では、パビリオン建設を下請で行った建設業者が、工事代金の未払いを原因として、元請けの外資系イベント会社に対して約1億2000万円の支払いを求める訴訟を提起している。工事を行った下請事業者は、度重なる工事内容の変更などの状況に対して、長時間労働で対応しつつ万博開幕の4月13日に工事を間に合わせたにも関わらず、工事代金が支払われないばかりか、元請業者からは同業者の負担分を下請業者に請求すると通知されているようである。この元請業者は、マルタ館のほかにもルーマニア、セルビア、ドイツのパビリオン工事を元請けしていたが、いずれの工事についても未払いがあり、被害者の訴える未払い額を合計すると3億円を超えるという。
その他にも、工事が停止していたネパール館のほか、中国館、アメリカ館でも、同様の工事代金未払問題が相次いで報道されている。これらのパビリオン以外にも、複数の国家のパビリオンにて、いまだ明らかになっていない未払問題が生じていることが懸念される。
2 万博のパビリオン工事は、工事規模が大きいうえ、多数の人出が必要な業務であり、支払われる代金は高額である。そのため、代金が未払となると、下請け業者は多大な不利益を被ることになる。また、上記被害者の会の業者らによると、パビリオン建設の現場では、万博開催に間に合わせるために、直前の建築内容変更も含む突貫工事が行われている。これらの工事では、昼夜を問わない長時間労働など、労働規制に反した労働が行われていた可能性もある。そのような過酷な環境でようやく工事を進めたにもかかわらず、工事代金が支払われないため、下請業者・孫請業者などの事業規模の小さい事業者の被る損害は甚大である。また、これらの工事業者の資金繰りが悪化すると、工事業者の取引先への支払いも滞る事態となるため、その影響は下請・孫請工事業者だけにとどまらない。多数の関係者の生活を脅かす事態が生じてしまっている。
3 パビリオン建設工事費未払代金問題について、2025年6月26日、大阪府の吉村知事は、アンゴラパビリオン工事で建築業無許可営業と工事費未払いの事実が確認できたとして、建築業法に基づく行政処分に向け勧告を行った。また、工事費が支払われるよう相談を受けており、万博協会が窓口となって万博協会、経産省、大阪府一体となって対応すると述べた。しかしながら、上記被害者の会によると、万博協会は、「民民の問題」であるとして、あくまで当事者間で解決すべきとの方針を示していたのであり、現時点では実態把握に向けた調査や経済的支援の方向性を示すなどの具体的な対応について明らかにされていない。万博は公益事業であり、国や大阪府・大阪市が主導的に行うものである。国や地方自治体の協力のもと万博協会が設立されており、大阪関西万博の開催のために国際博覧会担当大臣も新設されたことは、その証左である。
しかも、万博開催によってインバウンドや国内旅行者による副次的利益も、国や地方自治体には生じている。工事内容の変更に振り回され、過酷な労働環境の中で万博の成功のために尽力した工事業者が甚大な不利益を被る中、国や大阪府・大阪市は利益を得ているのである。
そもそも万博パビリオン工事で未払いが頻発している背景には、軟弱な地盤上にある夢洲での万博建設工事が困難であったため、工事を受注する企業がなかなか見つからず、建築を専門としないイベント会社などに発注せざるを得ない状況になったことや、発注遅れによって工期が大幅に遅れたことなどがある。今回の工事費未払い問題は、万博協会の見通しの甘さによって引き起こされたと言っても過言ではないのであって、これを放置することは許されない。
4 多くの工事業者が倒産の危機に瀕するほどの苦境に立たされている状況に対して、万博協会、経産省、大阪府・大阪市は、工事費未払いの実態を早急に調査した上で、被害を受けた工事業者に対する緊急の融資など具体的な経済的支援策を講じるべきである。このまま、万博協会や大阪府・市が立場の弱い現場の労働者や零細事業者に負担を押し付けて具体的な対応をせず、利益のみ追い求めるものであれば、公共事業性を有する万博の運営者として不適切と言わざるを得ない。民主法律協会は、建設労働者や下請け・孫請けとなる零細事業者、一人親方などの人々の権利擁護のために問題に取り組む団体であるところ、万博パビリオンの工事に関わった多数の業者が直面している現在の苦難に対して、万博協会、国および大阪府・大阪市が、問題解決に向けて、早急に具体的な対応を行うことを求める。
2025年7月9日
民主法律協会
会長 豊川 義明