民主法律時報

組合員の昇格差別は不当労働行為

弁護士 西川 大史

1 はじめに

大阪府労働委員会は、2021年2月12日付で、株式会社コンステックが、同社で勤務する大阪・中央区地域労組こぶしの組合員の女性Aさんを昇格させなかったことが不当労働行為に該当するとの救済命令を交付しました。

2 事案の概要

株式会社コンステックは、大阪市中央区に本店を置き、鉄筋コンクリート建築物の調査・診断、補修・改修補強工事等を業とする会社です。Aさんは、2001年から同社で雇用され、主に、経理・事務などの仕事をしていました。Aさんは、2012年に組合に加入し、2014年には不当な賃金減額に対して労働審判を申し立てるなど、会社からの嫌がらせに抗してきました。

会社では組合員はAさんのみでした。Aさんが調査したところ、Aさんよりも以前に入社した事務職員は、少なくとも2014年時点で全員4等級に昇格しており、Aさんよりも後に入社した事務職員も大半がすでに4等級に昇格していたのですが、Aさんは3等級に留め置かれたままで、賃金が低く抑えられていました。Aさんの人事考課は低くなく、長年、3等級に留め置かれることは不自然であり、団体交渉での会社の説明も不合理な内容でした。

Aさんは、4等級に昇格できないのは、組合員であるが故の不利益取扱いであるとして、2018年9月に、府労委に救済申立てをしました。

3 府労委命令の判断・理由づけ

府労委は、Aさんを4等級に昇格させないことは、組合員であるが故の不利益取扱いであると判断しました。主な理由付けは、以下のとおりです。
① 会社の昇格制度の全貌が明らかではない。
② 会社は、各年度の昇格候補者や昇格者の人数を自主的に明らかにしてこなかった。
③ 組合が団体交渉で、Aさん同等程度の勤続年数の事務職員の等級の開示を求めたにもかかわらず、会社が開示を拒んだ。
④ 府労委の調査でも、申立人側が、Aさん以外の事務職員の等級を明らかにするよう求釈明を繰り返したにもかかわらず、会社はなかなか回答しようとしなかった(担当の審査委員(宮崎裕二会長)からも、会社に対して、申立人からの求釈明にできるだけ回答するよう求めていた)。
⑤ 会社は、昇格に関する情報をほとんど開示しておらず、昇格においていかなる点を重視しているのかも明らかではないため、公平性や客観性を担保した運用にはなっておらず、恣意的な決定が可能な状態だった。
⑥ 他の事務職員を4等級に昇格させる一方で、Aさんを3等級に留め置いた理由が明らかでなく、恣意的な評価がなされていたとの疑念が払拭できない。
⑦ 組合員はAさんのみであった。

4 本命令の意義

組合の主張をほぼすべて認めた完全勝利の命令であり、その理由付けが素晴らしい内容でした。Aさんは、長年、会社で誠実に勤務していました。不合理な昇格差別から、Aさんを救済してほしいという思いが府労委にも伝わったのではないかと思います。また、会社がAさん以外の事務職員の等級を明らかにせよとの求釈明を拒み続けたということも、会社の不誠実さを浮き彫りにし、府労委の心証に大きく影響したものと考えています。

府労委命令後、会社と組合で、Aさんを4等級に昇格させること、2018年度以降の差額賃金を支払うことなどの合意が成立し、勝利解決することができました。

不当な昇格差別に苦しむ組合員は多いことしょう。しかし、なかなか不当労働行為救済申立てをすることまでは躊躇してしまうことも多いのではないかと思います。本命令が、不当な昇格差別に苦しむ組合員の救済の後押しになることを強く願っています。

(弁護団は、馬越俊佑弁護士と西川大史)

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