民主法律時報

ヘイトハラスメント裁判 ―― フジ住宅及び今井会長に対し110万円の 賠償命令! 職場において労働者の内心の自由が強く保障されることを明確に示した判決

弁護士 安原 邦博

 フジ住宅ヘイトハラスメント裁判の判決が、2020年7月2日に大阪地裁堺支部(中垣内健治裁判長)で言い渡された。2015年8月31日に提訴して、約5年を経ての原告勝訴判決である。

判決が違法性を認めたフジ住宅及び今井会長の行為は次の3点である。

 フジ住宅及び今井会長は、社内で全従業員に対し、ヘイトスピーチをはじめ人種民族差別的な記載あるいはこれらを助長する記載のある文書や今井会長の信奉する見解が記載された文書を大量かつ反復継続的に配布した。

この点、判決は、人は自己の欲しない他者の言動によって心の静穏を乱されないという利益を有するとし、就業場所において、国籍によって差別的取扱いを受けるおそれがないという労働者の内心の静穏はより一層保護されるべきとした。本件においては、原告のように韓国の国籍や民族的出自を有する者にとっては著しい侮辱と感じ、その名誉感情を害するものであり、韓国人に対する顕著な嫌悪感情を抱いているフジ住宅や今井会長から差別的取扱いを受けるのではないかとの現実的な危惧感を抱いてしかるべきものであるとした。

そして、文書を就業時間中に大量に配布しており、また随所に今井会長がアンダーライン等で強調した修飾をしていること等の行為態様から、思想教育にあたり、フジ住宅及び今井会長の行為は、労働者の国籍によって差別的取扱いを受けない人格的利益である内心の静隠な感情に対する介入として社会的に許容できる限度を超え、違法であるとした。

 また、フジ住宅及び今井会長は、地方自治体における中学校の教科書採択にあたって、全従業員に対し、特定の教科書が採択されるようアンケートの提出等の運動に従事するよう動員した。

この点について、判決は、業務と関連しない政治活動であって、労働者である原告の政治的な思想・信条の自由を侵害する差別的取扱いを伴うもので、その侵害の態様、程度が社会的に許容できる限度を超えるものといわざるを得ず、原告の人格的利益を侵害して違法であるとした。

 さらに、フジ住宅は、本件訴訟の提訴直後の2015年9月に、社内で、原告を含む全従業員に対し、原告について「温情を仇で返すバカ者」などと非難する内容の大量の従業員の感想文を配布した。

この点について、判決は、被告らが行った不法行為についての救済を求めて本件訴えを提起した原告を批判し報復するものであるとともに、原告を社内で孤立化させる危険の高いものであり、原告の裁判を受ける権利を抑圧するとともに、その職場において自由な人間関係を形成する自由や名誉感情を侵害したとして違法であるとした。

 判決は、公刊物を配布したに過ぎない、政治的論評に過ぎないなどとのフジ住宅及び今井会長による反論をしりぞけ、職場において労働者の内心の自由が強く保障されることを明確に示して、他の類型のハラスメント事案にも広く妥当しうる重要な規範を提示した。

他方で、判決は、フジ住宅及び今井会長の文書配布行為について、原告個人に向けられた差別的言動とは認めなかった。人種差別撤廃条約及びヘイトスピーチ解消法の趣旨に照らして不当であり、人種差別の本質・問題性を理解していないといわざるを得ない。その結果、人種差別による原告の深刻な被害を適切に捉えたとは言い難い賠償額になっている。

 闘いの舞台は大阪高等裁判所に移る。原告及び原告弁護団は、一審判決の不十分な点を控訴審で改めさせる所存である。

原告は、会社に変わって欲しい(働きやすかった元の会社に戻って欲しい)という思いで、提訴前にもフジ住宅に申入れをし、尋問でも今井会長らの前でその気持ちを述べ、判決後の記者会見でもそう述べた。しかし被告らは、申入れをした原告に対し逆に退職勧奨をして提訴を余儀なくなせ、さらに尋問でも原告に対し「あなたのやってることは間違っている」「フジ住宅や、うちの社員に対して傷つけているわけだから、それこそ大損害ですわ。だからそれをあなた方は、やってはるわけですから。こんな良心的な会社に対して」などと言い放ち、判決後も、報道によれば、「企業での社員教育の裁量や経営者の言論の自由の観点から到底承服し難い判決だ。すみやかに控訴し適正な判断をあおぎたい」などと述べて憚らない。

原告は今も、会社が変わってくれることを信じてフジ住宅で働き続けている。今後とも大きなご支援をお願いしたい。

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