民主法律時報

建設アスベスト大阪2・3陣訴訟 建材メーカー12社に責任を認め被害救済を拡げる勝訴判決

弁護士 谷  真 介

1 建設アスベスト訴訟と大阪2・3陣訴訟

建設アスベスト訴訟は、建設作業に従事し建材に含まれた石綿粉じんにばく露し、肺がんや悪性中皮腫、石綿肺等の重篤な疾患に罹患した被害者らが、危険性の警告もせず石綿建材を製造・販売した建材メーカー、規制を怠った国を被告とし、法的責任を求めた訴訟です。2008年に東京・横浜地裁で初提訴、現在まで大阪を含め全国で1200名を超える被害者・遺族が裁判に立ち上がっています。

2021年5月の最高裁判決で初めて国と建材メーカーの責任が認められ、国はその翌日に原告団と基本合意書を締結して、既提訴者については和解により解決し、未提訴者については救済制度を創設することに合意しました。翌6月には議員立法で建設アスベスト給付金法が成立、2022年1月に施行され、現在まで約1年半で既提訴者の和解と合わせすでに5000人以上の被害救済が実現しています。

一方、最高裁は、建材メーカーの警告義務違反の責任について、必ずしも被害者の発症の原因となった建材を証言などの通常の立証方法によって特定できなくても、市場シェアを基にした確率計算を用いて原因企業を特定するという立証方法の正当性を認めるという画期的判断を示しました。しかし、建材メーカーらは、各被害者への自社の建材の到達について他社へのなすりつけ合いをするなど、各地で争いを続けており、早期の和解解決や救済制度の創設などに背を向ける姿勢を取り続けています。

最高裁判決後も、札幌や京都など建材メーカーの責任を認める4つの判決が相次いで出されており、特にエーアンドエーマテリアル、ニチアス、ノザワ、エム・エム・ケイ、太平洋セメントという主要5社の責任は否定しがたいものになっています。そのような中、最高裁判決後の判決では被害者数最大規模の大阪2・3陣訴訟(2016年提訴、被害者単位73名)の判決が、今般、大阪地裁で言い渡されました。

2 大阪地裁判決の内容

2023年6月30日、大阪地裁(石丸将利裁判長)は、被害者73名中64名について、過去最多12社(エーアンドエーマテリアル、ニチアス、ノザワ、エム・エム・ケイ、日鉄ケミカル&マテリアル、太平洋セメント、大建工業、日東紡績、パナソニック、神島化学工業、日本インシュレーション、積水化学)に対し、総額約9憶4300万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。これまで判決で責任が認められていなかったパナソニックと日本インシュレーションについて、初めて責任を認めました。

また責任の始期について1975年とする判決が多い中、大阪地裁は、吹付工との関係で1971年4月、その他の被害者について1974年1月とし、被害救済を拡げました(これにより救われた原告が1名いました)。

さらに個別被害者に対する主要原因企業を特定する認定手法についても、数十年前のばく露であることの特殊性も踏まえ、被害者らがばく露した石綿建材の種類を特定し、その上で、特定された石綿建材の種類の中で市場シェアに基づく確率計算によって主要原因企業を特定するという原告の立証手法の合理性を認め、図面等の客観的証拠や被害者の供述についても丹念に検討しており、高く評価できます。

加えて、アスベストによる原告らの深刻な被害を踏まえ、慰謝料額についても死亡被害者については2950万円とこれまでの最高額に近い金額としました。しかも、被害者ごとに責任を負う各建材メーカーらの寄与度(責任割合)についても、概ね30~40%とする判決が多い中、平均で50%を超える認定をするなど、被害救済を大きく前進させる判決でした。

一方で、外装材を取り扱った屋外作業者とされる3名と、解体作業者3名については、これらに警告表示義務を否定した最高裁判決を踏襲して義務違反を否定した点、またその他3名について被告らの建材の到達を否定して請求を棄却した点は、課題として残りました。

3 最後に

判決を言い渡した石丸将利裁判長は、読み上げ前、「呼吸器疾患を抱えている方がおられる中ですが、マスクを外してお話ししてもよいでしょうか」と切り出し、判決要旨を約30分にわたり読み上げました。

その中でアスベスト被害について、時折建材メーカーの代理人らが座る席を見やりながら、「身体的な苦痛は甚だしいものがある」、「もがき苦しむといってもよい状態のものさえあった」、「人生における楽しみも奪われることになった」、「無念さも図りしれない」、「死亡した被災者については、死に対する恐怖の末、生命を奪われるという最悪の結果を招来している」等、法廷で述べられました。深刻なアスベスト被害に向き合い、加害者である建材メーカーらが今なお解決に背を向けていることに対し、判決で応えるという裁判官としての強い気概を感じ、法廷にいた原告や支援者の方々とともに、弁護団としても胸が熱くなりました。

建設アスベスト訴訟が始まりすでに15年が経ちます。全国の原告・弁護団・支援者と連携し、今こそ建材メーカーらの責任を前提とする最終解決を勝ち取るため、よりいっそう奮闘しますので、今後ともご支援ご協力のほどよろしくお願いします。

(大阪訴訟は、村松昭夫弁護団長ほか大阪アスベスト弁護団が担当)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP