民主法律時報

生活保護基準引下げ取消大阪訴訟、 控訴審で逆転敗訴

弁護士 青 木 克 也

1 控訴審判決までの経過

2012年12月に自民党が「生活保護給付水準の10%引き下げ」を公約に掲げて衆議院議員総選挙に大勝した後、厚生労働省は、2013年から2015年にかけて、生活保護給付のうち最も基本的な生活費部分である「生活扶助」を、平均6.5%、最大10%という前代未聞の大きな幅でもって引下げを強行した。これに対しては、「生活保護問題対策全国会議」が2013年に1万人審査請求運動を組織し、2014年からは29の都道府県で次々と引下げ処分の取消訴訟が提起された。

大阪訴訟では、2021年2月22日、一審大阪地裁第2民事部(森鍵一、齋藤毅、日比野幹各裁判官)が、本件に関し全国で初めて、原告ら勝訴の判決を打ち立てた。その理由は、厚生労働大臣の判断が「統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いており」、「裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある」から、生活保護法3条及び8条2項に違反するというものであった。

その後は全国で連敗が続き、一時は原告らの1勝8敗という苦境に陥ったが、東京地裁などでの勝訴判決で流れが大きく変わり、大阪訴訟控訴審判決の前日である2023年4月13日には9勝10敗(すべて一審判決)まで持ち直していた。

しかし、本件に関する全国で初めての控訴審判決として注目を集めた2023年4月14日の大阪高裁第1民事部(山田明、川畑公美、柴田義人各裁判官)判決は、国(自治体)側の控訴を認容して一審判決を取り消し、原告らの請求をすべて棄却した。

2 一審判決と控訴審判決の対比

一審判決と控訴審判決が結論を分けた最大のポイントは、端的に言えば、「厚生労働大臣の裁量判断の当否について、裁判所がどこまで厳しく審査をするか」という基本姿勢に関する相違であった。

すなわち、一審判決は、厚労大臣が①物価が前年から特異に上昇した2008年を起点にして物価の下落を考慮したことや、②「生活保護相当CPI(消費者物価指数)」という、通常のCPIよりも生活保護世帯についての物価の下落率が大きく出る独自の指標に基づいて基準引下げを行ったことについて、それらの方法をあえて選択するだけの(統計や専門的知見による)裏付けがないことを理由に、基準引下げを違法とした。

これに対して、控訴審判決は、前記①・②について、厚労省の諮問機関である社会保障審議会生活保護基準部会での検討を経ずに行われたことを認め、かつ、同部会等による検証が、保護基準の改定に関する厚労大臣の判断の「合理性を担保するための手段として重要な役割を果たしてきた」と認めながら、「生活保護法は、厚生労働大臣が保護基準を改定するために基準部会その他の外部専門家による検証を要件としているわけではないから」、「基準部会による検証が行われていない場合であっても、その他の手段により判断の合理性が証明された場合には」、「確立した専門的知見との矛盾」がなければ専門的知見との整合性を欠くことにはならない、と述べた。このような行政責任の限定の仕方は、従来の判例には見られないものである上、原告側は自ら「確立した専門的知見との矛盾」まで証明しなければ勝てないという、きわめて高いハードルを課されることになる。

そして、具体的な判断に当たっては、厚労大臣の判断を「一定の合理性」や「それなりの合理性」という緩やかな基準のもとに支持した上、それと矛盾するような「確立した専門的知見」はないなどとして、原告側の主張をことごとく排斥した。

控訴審判決は、生活保護基準(全国民の最低生活費)の設定というきわめて重大な問題について、従来の判例よりも広く行政裁量を認める判断枠組みを採用した。このことは、裁判所が司法権の担い手としての職責を放棄し、基本的人権から目を背け、行政の追認機関に堕した悪例というほかない。

3 上告審に向けて

本訴訟の原告団・弁護団・支える会は、2023年4月25日に大阪高裁に上告状を提出するとともに、裁判所前アピールや記者会見を行い、その様子は大手マスメディアの報じるところとなった。今後も全国の訴訟団と緊密に連携しつつ、生存権や法治国家を守るため、最高裁での再逆転に向けて力を尽くしていく。

(上告人ら代理人は、民法協会員複数名を含む20名)

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