民主法律時報

枚方市組合事務所事件、大阪地裁で勝訴判決

弁護士 中 西  基

1 はじめに

枚方市(伏見隆市長)は、2018年12月、枚方市職員労働組合(市職労)が組合の機関紙に政権を批判する記事を掲載したことを理由として、職員会館内にある組合事務所の使用許可を取り消すことを予告して、即刻退去するように通知した。

これに対して、市職労は、大阪府労委に救済申立したところ、2020年11月30日、枚方市の対応は不当労働行為にあたるとして、誓約書の交付を命じる等の救済命令が出された。

枚方市が、この府労委命令の取り消しを求めて提訴していたが、2022年9月7日、大阪地方裁判所第5民事部(横田昌紀裁判長)は、枚方市の請求を棄却して、枚方市の対応が不当労働行為にあたるとする府労委命令を維持する判決を言い渡した。

2 事案の概要

市職労は、1964年頃から、平日にはほぼ毎日、「日刊ニュース」を発行して、職員らに配布してきた。2015年9月に市長に就任した伏見氏は、日刊ニュースに政治的な記事が掲載されているなどと容喙するようになり、2016年度の組合事務所の使用許可にあたって、使用目的を「組合事務所としての利用(職員の勤務条件の維持改善及び職員の福利厚生の活動に限る。)」という条件を付した(カッコ書き部分が付け加えられた)。そのうえで、「職員の勤務条件等と密接に関連していると解釈することが困難な活動」を行うことは、職員会館の使用目的には含まれないとし、具体的には、「政治的活動(機関紙の記事の掲載内容についても同様)」は使用目的外であるとする基準を設定した。総務部が作成した基準には、機関紙の記事内容については、「①法案に対する是非のうち、その法が本市職員の勤務労働条件等と密接に関連付けることが困難なもの【具体例】戦争法廃止、TPP断固阻止」、「②特定の個人や政党を名指しで批判するもの【具体例】安倍政権打倒、維新政治反対」などは基準に抵触すると例示された。

市職労は、このような条件・基準に抗議し、その後も日刊ニュースの発行を続けたが、市当局(総務部長、職員課長、人事課長など)は、逐一、その内容について「説明」を求める「依頼」や「要請」、「警告」を繰り返した。

最終的に、伏見市長は、2018年12月27日付の通知書により、「貴組合は、平成30年度においても、政権や特定政党への批判的な記事を掲載する日刊ニュースの発行を繰り返しており、このような行為は、この間、本市と貴組合との間で積み上げてきた職員会館の使用に関する確認事項に反するのみならず、本市と貴組合との信頼関係をも覆す行為であり、本市としては、到底、看過することができません」として、職員会館の使用許可を取り消すと予告するとともに、「即刻、自主的に職員会館から退去」するよう通告してきた。市職労は、これに対して、団体交渉を申し入れたが、市は、管理運営事項であるとして、交渉を拒否した。

3 府労委命令

2020年11月30日、府労委は、労働組合による機関紙の発行は、組合活動上極めて重要な役割を持っており、団結権を保障する観点から十分な保護が必要であるとして、組合事務所からの退去要求とその後の団交拒否について、いずれも不当労働行為にあたると判断して、誓約文手交と団交応諾を命じる救済命令を出した。もっとも、市職労が求めていた、日刊ニュースの記事内容に対する個々の干渉行為が不当労働行為であるとの主張については、疎明がないとして、不当労働行為とは認定しなかった。

そのため、現在、市職労が中労委に再審査申立を行い、命令待ちの状態である。

4 大阪地裁判決

2022年9月7日の大阪地裁判決は、労働組合が「組合活動に関連して、表現の自由の範囲内において、一定の政治的意見を表明すること」は許容されると明言した。

加えて、40年以上にわたって組合事務所として使用してきたことを考慮すると、組合が組合事務所で政権や特定政党への批判的な記事を掲載した機関紙を印刷・発行したことを理由に組合事務所の明渡しを求めたことは、組合の弱体化やその運営・活動に対する妨害の効果を持つ等として支配介入の不当労働行為にあたると判示した。

また、組合事務所に関する事項は団体的労使関係の運営に関する事項であるとして、市には団交応諾義務があると判示した。

5 その後

伏見市長は、早々に控訴の方針を明言し、市議会でも賛成20、反対9で控訴議案が可決されたため、今後は大阪高裁に舞台を移すことになる。引き続きご支援いただきたい。

(代理人は、豊川義明、城塚健之、河村学、谷真介、西川大史、加苅匠、中西基)

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