弁護士 脇 山 美 春
1 はじめに
2022年8月26日、大阪市食肉市場労働組合(以下、「組合」とします)が大阪府労働委員会に申し立てた不当労働行為救済命令申立事件について、救済命令が出ましたのでご報告します。
2 事案の概要
大阪市食肉市場株式会社(以下、「会社」とします)は、2019年12月に府労委の和解で、人員補充及び労働条件に際しては、組合と協議をすることを約束していました。
しかし、2020年6月に田中達夫氏が会社代表取締役に就任するや、組合との事前協議なく人員補充を繰り返しました。2021年3月には、組合との事前協議もないまま、労働条件変更通知書を従業員に交付し、賃金1割カットを行う旨通告し、2021年4月から実際に賃下げを行いました。また、賃下げに合わせて、組合執行役員ばかりあわせて4名を、合理的理由なく配置転換しました。
また、組合執行委員長である早瀬氏に対し、合理的理由のないまま懲戒処分(減給処分)を行い、組合書記次長(当時)である小林部長に対し、「(組合員として発言するなら)部長職、返上してもらわなあかん」等、組合員であることを理由に不利益を課す旨発言しました。
3 申立の内容
組合は当初、①事前協議なき人員補充について組合への謝罪②早瀬氏への懲戒処分撤回③小林氏への暴言への謝罪④ポストノーティス、を求めて救済を申し立てました。申立の後に、労働条件変更通知書の交付があったため、組合は⑤労働条件変更通知書の撤回⑥組合執行役員への配置転換の撤回の求めを追加し、併せて実効確保の申立をしました。その後、賃下げが強行されたことに伴い⑦賃下げの撤回の求めを追加しました。
その後、早期に命令を勝ちとるという観点から、裁判で獲得する点については請求を取り下げる方針となり、結局、①②③④⑤について、不当労働行為の該当性・及び命令発出の有無が問題になりました。
4 審尋の様子
2022年2月、審尋が行われ、ようやく田中社長を府労委の場に引きずり出すことができました。田中社長は、2019年12月の和解について「知らない」という対応に終始し、法令順守という意識をまったく欠いた人物だということがあきらかになりました。
5 和解不成立
審尋の後、田中社長がようやく府労委に来たということで、労働委員会からの強い働きかけがあり、和解に向けて田中社長と早瀬執行委員長のトップ会談の場をもつことが約束されました。
そこで早瀬執行委員長が、トップ会談での協議事項・要望事項を作成し申し入れたところ、田中社長は「へそを曲げて」しまい、結局、トップ会談は実施されず、和解も成立しませんでした。
6 命令の内容
2022年4月、最後陳述の期日がもたれ、府労委は結審しました。この際、命令は10月になる旨を告げられました。
しかし、会社による不当労働行為は明らかであったことからか、審査計画よりも2か月も早い、8月26日に、組合の申立てをほぼ認める内容で、不当労働行為救済命令が発出されました。
7 命令発出後の経過
会社は、命令について一切争いませんでした。
会社は、命令発出直後に、早瀬執行委員長に対し、田中社長が直接謝罪文を手交し、9月2日をもって、ポストノーティスも実行(会社に印刷を掲示)しました。早瀬執行委員長の減給分も、金額計算の上で支給される見込みです。
対会社との関係では、まだ未払賃金支払請求事件、配転無効確認事件が大阪地裁に系属しておりますが、両事件にも命令は証拠として提出しており、裁判官の心証形成に大きな影響を与えていることは間違いありません。
8 最後に
本件で早期の命令確定までこぎつけることができたのは、組合の皆さんが、絶えず団体交渉を申し入れて会社と交渉をしてきたために、会社が根負けしたから、という部分が大きいと思います。支援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
しかし、まだ紛争は完全に解決したわけではありません。引き続きのご支援、よろしくお願いします。
(弁護団は、村田浩治、井上耕史、脇山美春)