民主法律時報

いのちと健康守る取り組み推進させる判決、職場に活かすことが求められる――三星化学工業膀胱がん損害賠償請求裁判

化学一般関西地方本部書記長 海老原  新

 三星化学工業(本社・東京)福井工場に勤務していた田中康博氏は、化学一般関西地方本部の大阪合同支部に個人加盟していた。以前から安全管理体制に危惧を覚えていたが、2015年9月大阪合同支部の定期大会において、「職場で膀胱がんが多発している」と訴えた。

調査を進めると、同工場では膀胱がん発生リスクがあるオルトトルイジン(以下OT)等の芳香族アミンを大量に取り扱っており、相当のばく露があることが判明した。労災申請をさせまいと様々な圧力をかける会社に対抗すべく年内に労組結成をめざして学習会等準備を進めるなか、田中氏本人もがんを発症。

労組結成は翌年1月に繰り越されることになるが、12月摘出手術を終えた田中氏から告発を受けた福井労基署が同日福井工場の立ち入り調査を実施。会社から5人の膀胱がん患者が発生していると連絡を受けた福井労働局が現地調査を実施したこと等を経て、厚労省が芳香族アミンの取り扱いがある工場での膀胱がん多発事案を報道発表し、田中氏らは記者会見をするに至った。

2016年より労組は三星化学工業本社及び厚労省等要請行動を強め、6月に発足した業務上外検討会は年内に報告をまとめ、労災申請者全員(7名)が労災認定された。

労組は会社での職場環境改善に取リ組み、設備の囲い込みや私服から作業服に着替える際の交差汚染の防止対策等、積極的に提案し実現していった。さらに労働安全衛生体制の確立および膀胱がんの発症・再発・検査等に伴う補償協約を会社に提案したが、会社が交渉テーブルにつかない状態が続き2018年2月福井地裁への提訴に至る。

裁判のなかで会社は、終始膀胱がん多発の責任を認めず、この裁判の公開を拒み続けた。判決では、「具体的な法規制等がなくとも、SDSの有害情報で健康被害の危惧が生じれば、使用者は適切な処置を講じる責任がある」と会社を断罪した。損害賠償額には課題は残るが、職場の労働環境改善に繋がる判決と大いに評価したい。

一方、厚労省がOTを取り扱った事業場の膀胱がん調査を進めるなかで、新たにMOCAという化学物質による膀胱がん多発も発覚、2017年4月に法改正された。ところが、MOCAによる17名もの発がん者がいながら労災申請者が一人もいないため、2018年9月厚労省を質し本年1月労災認定に繋がった。MOCA事案は労組らの取り組みがなければ、闇に埋もれたままだったであろう。

三星事案等を受け、国の化学物質管理のあり方は大きな改革を迫られ、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」において、「自律的管理」へと法改正が検討されている。本判決は、職場環境改善や安全対策の強化、それへの労働者の参画、労働安全衛生教育の徹底を大いに推進するものであり、今後の運動の拡大と強化へ繋げていきたい。

【本件に関する経過】
2014年2月 福井工場で1人目発症(50代・在職)
2015年2月 2人目発症(40代・退職)
同年8月 3人目発症(50代・在職)
同年9月 4人目発症(40代・在職)
同年11月 5人目(50代・在職)
同年12月 厚労省が膀胱がん多発を報道発表
2016年1月 本社・厚労省要請行動、労組結成
2016年6月 業務上外検討委員会発足
同年9月 厚労省がMOCAによる膀胱がん多発発表
同年12月 検討委員会が報告書をまとめ、申請者全員が労災認定される(この時点で7名)
2017年 労働安全衛生管理体制の確立および膀胱がんの補償協約案を会社に提出するも進展せず
2018年2月 会社に対し損害賠償請求を求め福井地裁に提訴
2020年12月 MOCAの業務上外検討委員会が報告書をまとめ2021年1月より労災認定がされる
2021年5月 福井地裁が三星化学工業の安全配慮義務違反を認め原告への損害賠償の支払いを命じ、互いに控訴せず判決確定。膀胱がん患者は福井工場のみで現在11名

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