弁護士 西田 陽子
平成29年4月25日、被告学校法人奈良学園(以下、「被告法人」という。)によって同年3月31日をもって解雇・雇止めされた(以下、「本件解雇雇止め」という。)奈良学園大学教員8名が原告となり、奈良地方裁判所に提訴した。また、提訴の約2週間前である同年4月13日に、原告らは、奈良県労働委員会に対して、被告法人による不当労働行為に対する救済申立て(支配介入、不利益取扱い)を行った。
本件は、被告法人が過去に起こした不祥事等により、奈良学園大学ビジネス学部・情報学部の後継学部として設置する予定であった現代社会学部の設置申請を取り下げざるを得なくなり、現代社会学部の設置が不能の場合にはビジネス学部・情報学部の募集を継続するとしていた付帯決議を削除し、両学部教員を整理解雇する方針に急遽転換したという事案である。
原告らは、奈良学園大学教職員組合を結成し同法人と団交を続けていたが、議論は平行線であった。その後、奈良学園大学教職員組合の組合員は、奈労連・一般労働組合に個人加入し、労働委員会におけるあっせん及び団体交渉を続けた。しかし、被告法人は、労使双方が受諾した「労使双方は、今後の団体交渉において、組合員の雇用継続・転退職等の具体的な処遇について、誠実に協議する」というあっせん合意に反し、「事務職員への配置転換の募集に対するお知らせ」と題する書面を配布したり、本件解雇雇止めの通知を一方的に送付したりした。
本件のもう一つの特徴は、被告法人が、現代社会学部設置の計画が頓挫した後も、社会科学系の学部である「第三の学部」の設置を模索しており、これを一方的に凍結して原告らに対して本件解雇雇止めの通知を行った後、再び「第三の学部」の設置を検討し始めたということにある。この事実は、原告ら組合員を排除する目的の表れであり、また、解雇回避努力を尽くしていないことの表れでもある。
原告らの専門性を活かす場としての教育・研究センター(仮称)の設置についてまともに検討しなかったこと、他学部への配置転換を認めなかったことなども、被告法人が解雇回避努力を尽くしていないことの裏付けとなる。
さらには、被告法人は、既に本件解雇雇止めを通告されていた原告らに対して、平成29年3月下旬になって、突如非常勤講師として出講することを打診したが、その後撤回した。当該打診は、被告法人にとって原告らを解雇雇止めする必要性がないどころか、被告法人の大学運営にとって不可欠の人材であることを示している。
以上のような事実関係を前提に、訴状においては、①原告らに対する解雇及び雇止めの本質は、組合嫌悪の不当労働行為に他ならないこと、②だからこそ、整理解雇の4要件(要素)も満たしていないことを、主張した。
訴状提出後、同年4月25日午後1時より、佐藤真理弁護士、山下悠太弁護士、原告らが記者会見を行い、被告法人による不当労働行為及び整理解雇の不当性を訴えた。原告である川本正知教授は、記者会見において、被告法人が欺瞞的大学再編を推し進め、その大学再編を口実として、大量の不当整理解雇をおこなったことに対する経営責任が厳しく追及されなければならない、また、特定の教員の解雇を目的とした学部・学科廃止は絶対に許されることではない、と述べた。また、川本教授は、労働運動に対する不当きわまりない攻撃であり、労働三権の否定であって、これはまさに、憲法の保障する基本的人権の侵害であることも主張した。
杜撰な経営を行ってきた被告法人によって、被告法人の発展に寄与し、正当な組合活動を行ってきた原告らの権利が脅かされるようなことがあってはならない。組合の粘り強い団交の結果、被告法人は、ついに、原告らを非常勤講師として雇用する意向を示した。
本件は、執筆者にとって初めての本格的な労働事件である。先輩弁護士の背中から大いに学び、原告らとともに熱意をもって戦うことで、早期に事案が全面解決されることを切に望む。
(弁護団:豊川義明、佐藤真理、鎌田幸夫、中西基、西田陽子、山下悠太)