民主法律時報

生活保護基準引き下げ違憲訴訟を提起しました

弁護士 楠   晋 一

 2013年8月から2015年4月にかけて3度にわたって実施される生活保護基準の引き下げは、同基準の生活費相当部分を3年間で約670億円も削減するというもので、削減幅は平均6.5%、最大10%にも及び、影響を受ける人の数は200万人を超えるという現行生活保護制度が始まって以来、例を見ない大幅引下げでした。この引下げの取消を求める訴訟を2014年12月19日、原告51人で大阪地裁に起こしました。
 そもそも、生活保護基準額は、学識経験者が参加する社会保障審議会・生活保護基準部会で2011年から専門的・客観的に検証されてきました。同部会は2013年1月18日に報告書を発表しましたが、決して生活保護基準の引下げを是とするものではなく、むしろ厳しく釘を刺すものでした。
 ところが、2012年12月の衆議院選挙で、自民党が「給付水準の原則1割カット」を政権公約に明記し勝利しました。すると、厚生労働省は、基準部会の報告書を無視する形で2013年1月27日「生活保護基準の見直しについて」を発表し、引下げを打ち出しました。
 とりわけ問題なのは、厚生労働省がこれまでに一度も使ったこともなく、生活保護基準部会においても一切検討されたことがなかった「生活扶助相当CPI(消費者物価指数)」という、厚生労働省独自の特異な計算方式によって物価の下落率(2008年と2011年を比較した物価下落率が4.78 %)が偽装され、その偽装された物価下落率にかこつけて生活扶助費の削減を正当化したことでした。

偽装1:デフレ傾向が続く中唯一物価が上がった年(2008年)を比較対象にした
 生活保護費が変動した最後の年は2004年でしたが、その年ではなく2008年を基準に据えました。物価の上がった年から比較すれば下落率が大きくなるのは当然です。

偽装2:生活保護世帯に調査した統計がありながら、一般家庭の支出統計を用いて物価の算定をした
 厚労省は社会保障生計調査という生活保護世帯への調査結果を持ちながら、あえてそれを使わずに一般家庭の支出統計を用いて物価の算定をしました。
 一般家庭と貧困な生活保護家庭では電化製品の購入頻度は大きく異なります。しかも、2008年からの物価下落率4.78 %のうち4.09 %分は、生活保護世帯がほとんど買わない電化製品20品目の下落によるものでした。

偽装3:通常の物価算定方式(総務省統計局方式)ではない厚生労働省独自算定方式(生活扶助相当CPI)で算定した
 総務省統計局方式では、5年ごとに基準年を定め、その基準年に設定した品目と各品目のウエイトに基づいて、基準年から以後5年間の物価指数を算出します。つまり、2005年から以後5年間の物価指数は2005年を基準として算出し、2010年からの5年間は2010年を基準として算出します。そして、基準年をまたいだ物価の変動(たとえば2008年と2011年)を比較するのであれば、2005年を基準として算出された2008年から2010年までの物価変動と、2010年を基準として算出された2010年から2011年までの物価変動を掛け合わせて算出します。
 ところが、生活扶助相当CPIでは、2008年と2011年の物価の比較をするに際し、どちらも2010年を基準としてその年の品目・ウエイトを用いて算出したのです。これは、2005年基準よりも2010年基準のほうが、大幅に価格が下落している品目についてのウエイトが大きく、計算結果として物価下落の度合いが大きく算出されるためでした。
 この結果、総務省方式だと下落率2.26%に過ぎないものが厚労省方式だと4.78%の下落率になったのです。

 政府の物価偽装によって強行された生活保護の基準引下げは、利用者の生活を追い詰めています。この物価偽装を法廷で暴いていきますので今後ともご支援をお願い致します。

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