弁護士 徳田 寛生
1 はじめに
2026年5月18日(月)18時30分から労働法研究会を開催しました。今回は、最高裁からの差戻し後、2026年2月26日、名古屋高裁の差戻審で定年後再雇用労働者の基本給及び賞与の待遇格差が不合理とする判決を勝ち取った名古屋自動車学校事件の弁護団からご報告いただき、参加者との間で議論が交わされました。会場のエルおおさかには14名、オンライン上には全国から25名が参加しました。
2 名古屋自動車学校事件の報告
今回は、同事件の弁護団である中谷雄二弁護士から事件の概要、差戻審における主張・立証の経過、差戻審判決の意義と課題、再度の上告審での今後の闘いなどについてご報告いただきました。原告2名は、名古屋自動車学校において定年退職(60歳)まで指導員の職に従事し、定年後は65歳まで嘱託職員として従前の業務を継続し、期間1年ごとの労働契約を更新してきました。ところが、定年退職時と比較して、基本給は40%台への減額、手当の減額・不支給、賞与の大幅な引き下げなどが行われたため、原告は正職員の就業規則を適用して、同一額の賃金請求等をしたという事案でした。
これに対して、名古屋地裁第1審は基本給と賞与について「嘱託職員時の基本給が正職員定年退職時の基本給の60%を下回る限度」で不合理性を認め、差額の賃金払については控訴審である第1次名古屋高裁判決も原判決の結論を維持しました。第1次最高裁判決では、基本給には職務給・職能給の要素があり、賞与とともに性質・目的を明らかにすべきなどとして高裁に差し戻しました。そして名古屋高裁の差戻審判決では、賃金実態に基づく分析結果から、基本給について職務給的要素が強いと判断し、定年前と定年後の基本給の性質・目的に差異がないことを認め、あるべき基本給額を原告Aについては10万円、Bについては9万5000円と設定し、それとの差額を損害額と認定しました。
3 意見交換での議論
まず、労働政策研究・研修機構の若手研究者である岩堀佳菜先生から弁護団の先生方に対し、①基本給の性質・目的の認定について、今回用いたAIによる立証方法を具体的に教えてほしい、②基本給のような複合的な性質を有する賃金の性質・目的の具体的な立証の程度、不合理性判断への影響の内容等についてご質問がありました。この点に関し、中村和雄先生や青木先生、中谷先生、鎌田先生が、労契法旧20条の解釈における賃金の性質・目的の位置づけや、労働者側に求められる立証の程度、立証責任の転換等について議論されました。またAIを用いた立証方法について、仲松先生によると、主にジェミニを利用してPDFの賃金台帳データをエクセルやグーグルスプレッドシートに転記し、相関係数や特定の要素を持つグループの中央値や標準偏差を算出させたそうです。しかし、ハレーションや外れ値を考慮してくれなかったため、修正作業が必要となり大変だったそうです。
全国一般労組大阪本部の竹口さんは、自動車学校で再雇用後に時間給化や出勤日制限により手取り賃金が大幅に減少し、賃上げや賞与も拒まれる実態を踏まえ、パート有期法8条による救済の可能性を質問されました。これに対し岩堀先生は、今後はより一層、賃金の「性質・目的」をどのように考慮するかが実務上の焦点になると指摘しました。
4 最後に
今回の労働法研究会では、弁護団の先生方の報告に加え、全国から弁護士、労働組合関係者、若手研究者が参加し、多角的な検討を深めることができ、民法協らしく、理論と実践をつなぐ研究会となりました。今後も、このような充実した議論の場を築けるよう努めてまいります。





