前事務局長・弁護士 藤井 恭子
1 記念講演「ファクトチェックと民主主義」
2025年8月30日、第70回定期総会を開催しました。会場とZoom配信のハイブリッドで開催し、会場参加は61名、Zoom参加は25名、合計86名の会員にご参加いただきました。昨年は台風の影響で完全オンラインで開催したため、会場での総会開催は2年ぶりであり、参加者の熱気を十分に感じることができました。
前半は、元NHK記者でジャーナリストの立岩陽一郎さんに「ファクトチェックと民主主義-メディアの公共性を問う-」と題して記念講演をしていただきました。今回、立岩さんにこのテーマで講演をお願いした背景には、この間、兵庫県知事選挙においてN党の立花党首がSNSを使った言説を拡散し、有権者の投票行動に影響を与えた問題や、トランプ大統領によるSNSによる偽情報の拡散などが報じられるようになったことがありました。SNSが民主主義に悪い影響を与えているとすれば、これに対してどのような運動ができるのか、といった問題意識を持っていたのですが、立岩さんの講演を聞いて、そもそもファクトチェックの定義すら理解していなかったことに気づかされました。ファクトチェックとは、影響力のある政治家などの発言が事実に基づいているか否かをチェックするジャーナリズムに基づく活動であり、党派によらず中立な立場で行われるものであることを説明されました。特定の立場から発言そのものを断罪したり、「検閲」をするものではない、というファクトチェックの原理原則について、特に強調されました。
私たちの周りには、あまりにも多くの情報があふれかえっています。ファクトチェックは、「事実か否か」だけを基準にチェックするものですが、それだけに公正で客観的だと言えます。政治家や影響力のある人物が、事実に基づかない「ウソ」を簡単に広げることができる世の中で、ファクトチェックがその機能を発揮できれば、社会にとってなくてはならないものになっていくのではないでしょうか。立岩さんが懸念されていたように、ファクトチェックが権力によるネット上の検閲へとなっていかないように、その役割と意義を正しく理解し広げていく必要があると感じました。ネット上の情報に振り回されている日本社会で、どのようにファクトチェックを広げていくかが今後の大きな課題であるように思います。
2 討論・特別決議
後半は、労働問題、憲法と平和、社会保障、維新政治の4項目に分けて発言と討論を行いました。労働問題については、藤井から過半数代表者制の立法提言について発言しました。憲法平和については、安原邦博弁護士より、世界の法律家との連帯や国際的なつながりの重要性を念頭に、民法協ウェブサイトを英語表記にすることを提案されました。社会保障については、脇山美春弁護士から、「いのちのとりで」裁判、最高裁判決の意義や、原告弁護団の活動について発言をされました。維新政治については、辰巳創史弁護士から、カジノ住民訴訟の現状と今後の展望について発言をいただきました。いずれも民法協が取り組むべき重要なテーマであり、会員の多様な活動や問題意識に触れることができたと思います。会場からもご意見をいただき、活発な討論をすることができました。
討論の後、特別決議「生活保護基準引き下げ違法判決に基づき、迅速な被害回復及び継続的な検証体制の構築を実施するよう求める決議」を、事務局の島袋博之弁護士から提案しました。2025年6月27日、最高裁は生活保護基準引き下げを違法とする原告勝訴判決を出しましたが、国は判決に沿った被害者救済策を何ら示さず、原告団との面談すら応じていません。これを強く批判し速やかに措置を取ることを国に求める決議であり、参加者の皆さまの承認を得て採択されました。この決議は、自由法曹団大阪支部や青法協大阪支部など他の法律家団体と連名で執行する予定です。原告・弁護団の活動を支える一助になればと思います。
3 本多賞
今年度の本多賞は、生活保護基準引き下げ「いのちのとりで」裁判原告・弁護団と支援の会に対して、最高裁判決を勝ち取った活動を表彰しました。2021年度においても、大阪地裁で勝訴判決を得られた際に表彰しましたが、6月の最高裁判決を得たことの意義は極めて大きく、改めて活動を讃え表彰することになりました。原告の小寺アイ子さんと弁護団の青木克也弁護士に、壇上でスピーチをしていただきました。勝利の喜びがにじむ笑顔でのスピーチに、私たちも大きく励まされる思いがいたしました。
4 新役員選任
今年度は役員の顔ぶれが一新しました。まず、副会長・菅義人さん、幹事長・村田浩治弁護士、事務局長・藤井恭子、事務局次長・吉村友香弁護士、事務局・金星姫、江藤深、榧野寛俊、片桐誠二郎各弁護士が退任しました。そして、新たに加わっていただく新副会長・福岡泰治さん、新幹事長・河村学弁護士、新事務局長・清水亮宏弁護士、新事務局次長・佐久間ひろみ、垣岡彩英各弁護士、新事務局・吉川亮太、谷口真由、徳田寛生各弁護士が選任されました。新たにスタートする新執行部の今後の活躍に期待します。
5 さいごに
第70回定期総会もハイブリッドかつ内容盛りだくさんでしたが、会員の皆さまのご協力をいただいて、無事盛会のうちに終えることができました。ご協力頂いた皆さま、ありがとうございました。また、民法協の取り組むべき課題の多様さを再認識することができました。民法協の活動がより一層充実していくよう、新執行部にもご協力をよろしくお願いいたします。