民主法律時報

ブラック企業対策! 労働判例研究ゼミ

弁護士 足立 敦史

1 2019年6月のブラック企業対策! 労働判例ゼミ
2019年6月11日18時30分から、民法協事務所でブラック企業対策! 労働判例研究ゼミが開催されました。今回のテーマは、「労働時間の立証と推計」です。

2 検討した判例・裁判例
まず、労働時間の立証と認定について、立証責任は労働者側にあるのが原則であることを確認したのち、立証責任の合理的処理としての推計について学びました。厚生労働省が平成29年1月20日に策定した労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインを踏まえることも重要であることが確認されました。

その後、立証責任の合理的処理の具体例として、日本コンベンションサービス事件(大阪高裁平成12年6月30日労判792号103頁)について筆者から報告させていただきました。原告らの時間外労働がなされたことが確実であるのに、タイムカードがなく、正確な労働時間を把握できないという理由のみから全面的に割増賃金を否定することは不公平であるとして、労働者側が主張する時間外労働時間の2分の1について労働したものと推計した裁判例です。タイムカードがなくても推計を認めた点は評価されますが、なぜ2分の1なのかその根拠が明らかでないとの指摘がありました。

続いて、西川翔大弁護士から、ゴムノイナキ事件(大阪高裁平成17年12月1日労判933号69頁)について報告いただきました。タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは会社の責任であり、労働者の不利益に扱うべきではないことなどから、全証拠から総合判断して概括的に時間外労働時間を算定した裁判例です。この裁判例は労働時間の概括的な算定をしましたが、現在は、パソコンやスマホ等の発達で立証手段も変わってきており、裁判所もケースごとに個別に認定しつつあることが確認されました。グーグルマップのタイムラインの活用についての指摘もありました。

その後、加苅匠弁護士から、スタジオツインク事件(東京地裁平成23年10月25日労判1041号62頁)について報告いただきました。帰宅時間しか記載されていない労働者の妻のノートにより労働者の退社時刻を確定することはできないが、会社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している労働者が存在することを把握しながら、これを放置していたことがうかがえることからすると、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかでないことをもって、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当でないとして、提出された全証拠から総合判断し、ある程度概括的に時間外労働時間を推認するほかなく、平均して午後9時ころまでは就労しており、同就労については、超過勤務手当の対象となるとした裁判例です。労働者側に立証方法がない場合でも、使用者が合理的な理由なく、本来、容易に提出できるはずの労働時間管理に関する資料を提出しないときには、公平の観点から、「合理的な推計方法」による労働時間の算出が許される場合があることがわかりました。また、労働者側は、業務内容について定時に終わることができないことを詳細に主張することが重要であるとの指摘がありました。

最後に、清水亮宏弁護士から、労働時間の推計が認められる限界を知るために、実労働時間を推認できる程度の客観的な資料がない場合に時間外労働時間の存在を認定しなかった事件(東京地裁平成28年3月18日判例秘書登載)について、触れていただきました。

3 最後に
次回のブラック企業対策!労働判例研究ゼミは、2019年7月25日(木)18時30分から民法協事務所で開催予定です。引き続き労働時間を扱う予定です。組合活動、弁護士業務にも直結する内容ですので、皆様のご参加お待ちしております。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP