民主法律時報

裁判・府労委委員会例会報告 ――パナソニック遠隔地配転事件をテーマとして

弁護士 原野 早知子

 2017年7月31日、裁判・府労委委員会の例会を開催した(エルおおさか第1研修室)。個別事件検討の第1弾として、パナソニック遠隔地配転事件をテーマに取り上げた。参加者は30名だった。
弁護団の中西基弁護士及び電機・情報ユニオン大阪支部西野健一委員長より報告いただいた。

2 事案の概要

2014年8月1日、パナソニック社は回路部品事業部SAWデバイス事業を、別会社(スカイワークス社)に事業譲渡した。同事業に従事する労働者179名について、2015年3月末まではスカイワークス社に在籍出向、2015年4月1日よりスカイワークス社に転籍させる計画を立てた。

2014年9月より、スカイワークス社への転籍に同意するように面談(2~3回)が実施されたが、同年10月20日の転籍同意書の提出締切には、179名中36名が同意書を提出しなかった。

2014年12月1日、転籍に同意しなかった 名に対して、パナソニック社は2015年1月1日付での遠隔地(北海道、福井、但馬)への配転を発令した。

配転命令を受けて、36名のうち12名が電機・情報ユニオンに加入した。団体交渉の結果、12名のうち6名(身体障害4名及び地域限定社員経験者2名)について遠隔地配転が撤回され、門真勤務となった(2015年2月)。また、1名は配転先が北海道から福井に変更となった。

原告は、門真工場から福井の工場への配転命令がなされた勤続 年以上の女性労働者で(入社以来大阪ないし京田辺で勤務)、大阪市内で両親( 歳の父・ 歳の母)と同居していた。2015年5月、大阪地裁に提訴したが、2016年10月6日の一審判決は敗訴だった(内藤裕之裁判官・単独)。

控訴して大阪高裁で本年2017年7月11日に結審、10月26日に控訴審判決言渡予定である。

 中西弁護士の報告では、事案及び争点の概要、一審判決が東亜ペイント最高裁判決の規範を形式的に適用したこととその法的な問題点を解説いただいた。

西野委員長は、電機情報関連産業で大リストラが進んでおり、中でもパナソニックの人員削減が最大であること、電機産業のリストラでは会社分割・事業譲渡の手法が多用されていることを報告した。本件は訴訟は一審敗訴したが、12名の労働者が電機ユニオンに加入し、団体交渉での6名の配転撤回はパナソニック相手に最大の成果を上げた団体交渉であったこと、一方で会社分割・事業譲渡のスキームに係る法令等を組合が学習して知識をつけ、労働局の活用や要請行動などあらゆる方法で闘うことが重要だと指摘した。

 報告後の質疑・議論は非常に活発だった。

転籍が個別合意により、労働契約承継法によらなかったことについての質疑があった。転籍後将来、労働条件を下げることが予定されているからではないかとの指摘があった。

また、裁判官が東亜ペイント最高裁判決から一歩も出ないことについての問題が指摘されるとともに、東亜ペイント最高裁判決を前提とするとしても、本件で不当な動機・目的や、労働者の著しい不利益が認定されなかった原因についても議論した。背景として、連合の労組が事業譲渡・転籍のスキームに同意していることや、ILO家族的責任条約(本件原告の場合、父母が高齢のところ転居を伴う遠隔地配転となり、毎週福井から大阪に帰っている)に対する裁判官の理解の乏しさなどが指摘された。

運動については、「正社員である以上、会社の言うことに逆らえない」という意識(マインド)が、会社及び社会の中にないか、それを乗り越える運動が必要なのではという議論がなされた。団体交渉や国際機関への訴えなど運動の幅を広げられないかという意見も出た。

法律上の論点及び運動論の双方について、有益な意見交換がなされ、議論が深まったと思う(懇親会含む)。個別事件について、多数・集団で討議することの重要性を改めて感じた。

 本件は、会社の方針(事業譲渡に伴う転籍)に従わなかった労働者への報復・見せしめの色濃いものであり、労働者の生活への不利益も大きい(私事であるが、親と離れて生活している筆者から見て、原告の負担は他人事とは思えない)。高裁では問題意識を持った審理を行ったようであり、裁判所と運動の双方で、一審を乗り越える結果を期待したい。

また、こうした問題ある事例・判決であるにも関わらず、これまで民法協で正式に報告されていなかったようである。本件に限らず、会員には個別事案についての節目節目での報告をぜひお願いしたい。

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