民主法律時報

労働法研究会「有期の使い捨てを許さない! 『雇い止め』の効力を考える」 報告

弁護士 南 部 秀一郎

 2013年1月28日、大阪弁護士会館1205号会議室において、労働法研究会「有期の使い捨てを許さない! 『雇い止め』の効力を考える」が開かれた。
 弁護士・研究者だけでなく、実際に有期雇用の雇い止め事案で争議を闘っている組合関係者、あるいは日頃、有期労働者からの様々な相談を受けている方々も含め34名が参加し、会場は満員となった。

 研究会ではまず、大阪市立大学の根本到教授から「有期雇用法制の動向と課題―労契法と判例の動向」と題して、基調講演が行われた。その中では、改正労働契約法18条~20条の改正内容について概括的な説明がされた。そして、特に本件改正の目玉である改正18条(同一使用者に対する有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、無期労働契約に転換できる条項)について、例えば「同一の使用者」とならないように使用者を変えて契約が継続される場合についてはどうするのか、あるいは、「無期労働契約」の契約内容がどのようになるのか、クーリング期間などの問題点についての説明がされた。
 そして、特に根本教授が問題となるものとして指摘されたのが、「不更新合意」である。根本教授からは、この「不更新合意」について、近畿コカコーラボトリング事件(大阪地判 平成17.1.13  )、明石書店事件(東京地決 平成22.7.30 )等や、いわゆる派遣切りの中でのダイキン事件(大阪地判 平成24.11.1 現在大阪高裁に係属中)、本田技研事件(東京高判 平成24.9.20 最高裁に上告中)について紹介があった。その中では、唯一雇い止めを認めなかった明石書店事件について、経営側は例外的事例判断と描こうとしていることが紹介された。そして、根本教授からは、契約の締結状況について、説明があっても不利な契約を締結せざるを得ない労働者の状況を、積極的に主張していくことが大事であるとの意見が述べられた。

 そして、この根本教授の講演を受け、実際に不更新条項について争われた、ダイキン、本田技研の事案について、弁護団からの報告がされた。
 まず、ダイキン事件については、村田浩治弁護士から、事案についての報告、裁判の経過が説明された。そして、地裁の判決について、「短い判決文」で、事実については原告の主張を認めているものの、「更新の合理的期待」を否定する方向に全ての事情を結びつけ、長期の違法派遣により不利な立場に置かれ続けたことなどの、労働者側の事情に、深い検討もしない不当な判決であったことが説明された。
 続いて、本田技研事件については、弁護団の代々木総合法律事務所の林治弁護士から、報告がされた。その中では、労働者が契約を強いられた、年末までで更新をしない旨の契約について、労働者が解雇に応じる事情がないことを考慮にいれずに、契約意思の存在を認めたとの高裁の判決内容が伝えられた。
 いずれの事件についても、不更新条項の入った契約書に署名・押印した事実をとらえて、不更新合意の有効性を認める内容であるとの報告であった。
 更に続いて、増田尚弁護士から、「更新の合理的な期待」について、厚生労働副大臣の更新の合理的期待を奪う不更新条項無効化を認めた答弁、及び契約締結前の同一業務を「合理的期待」の考慮に入れた裁判例の報告があった。

 以上の各報告を受けて、参加者による討論が行われた。まず、改正労働契約法の評価についての意見が出された。この中では、西谷敏先生から、改正法について、法政策的観点から、有期法制の悪い点はどういう部分なのか、その改善をどうすべきか、という疑問に答えたものではないとの批判がされた。そして、特にダイキン事件について、偽装請負からの連続性が無視される結果となったことについて、改正法自体が、当初から5年以内に契約期間を限定して更新されないという不当な契約内容を規制していないとの指摘があった。一方で萬井隆令先生から、今までの雇い止めにおける、解雇権濫用理論の適用とのとらえ方が、雇用の継続を法で定めるという形に変化したことをとらえて、従来の枠を超えたものであると肯定的に評価し、その法意を拡張していくことで積極的に利用すべきではないかとの意見が出された。
 討論の後半では、不更新条項について、実際に現在、ダイキン・本田技研の事件を闘っている弁護団、ダイキンについては原告、組合も交えて、事案について突っ込んだ議論がされた。そしてダイキン事件については、契約更新の合理的期待についての具体的立証について、本田技研事件については不更新条項の効力を否定する法理論について、様々な意見が交わされた。特に不更新条項については、法律相談を受けている組合の方から、どうアドバイスすべきかの質問も寄せられた。
 この労働契約法改正18条と不更新条項の問題は、法制化を受けて「5年」の年限が迫ってくる。今後、労働相談にあがってくることが確実な問題である。今回の研究会の深く有意義な3時間の討論を受けて、継続的に議論していかなければならないとの思いを強く持った。
 今後も民主法律協会では、労働法の様々な問題について、労働法研究会を開催していく。その際には、多くの方々の参加を願いたい。

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