民主法律時報

レッド・パージの歴史的あやまりをただす今日的意義―大阪レパ反対連絡センターが発足

弁護士 橋 本   敦

1 決意みなぎるレッド・パージ反対大阪連絡センターの発足

 思想・信条の自由を踏みにじった許すことのできない憲法違反のレッド・パージ、政府によるその不法な暴挙を今にただすたたかいは、戦後史の汚点をぬぐい、被害者の名誉とはかり知れぬ人生の損失を回復する重大な人権擁護のたたかいである。
 大阪においてそのたたかいの中核となるレッド・パージ反対大阪連絡センターが去る4月14日に発足した。それは、大阪におけるレパ犠牲者の怒りと名誉・損害回復の熱い決意を反映した意気高き発足集会であった。


2 レッド・パージの歴史的本質―戦前の治安維持法弾圧の戦後版と言うべき国家の犯罪―

 戦後朝鮮戦争の前夜に、平和・革新の日本をめざす労働者の陣営を襲ったレッド・パージ、それは国家による思想・信条の自由に対する明白・重大な人権侵害であり、戦後史の一大汚点である。
 東京都立大学の塩田庄兵衛教授は、その著『弾圧の歴史』で次のように書かれている。
 「レッド・パージは、朝鮮戦争勃発とともに、アメリカ占領軍の勧告と指導にもとづいて、日本政府と経営者の手で、公然と開始されました。まず、新聞放送関係の五〇社七〇四名を手はじめに全産業を軒なみに襲いました。(中略)
 レッド・パージの不法を訴えても、裁判所ではほとんどすべてが身分保全の申請を却下し、労働委員会も審問拒否の態度をとったため、労働者は法の救済を求める道がほとんどまったくとざされました。この大弾圧によって、組合や職場から戦闘的分子が一掃され、これまで労働運動のなかに強い影響力をもっていた共産党は、壊滅的打撃をうけました。
 レッド・パージは支配者にとって好ましくない思想を持っているという理由だけで、生活権を奪いとる明白な基本的人権侵害の弾圧です。こうして労働者階級の前衛であり、労働運動の先頭に立ってたたかいつづける共産党は、半ば非合法に追いこまれ、半身不随の状態におちいりました。幹部は地下に潜行し、警察の追求をのがれながら、活動をつづけました。また、戦闘的な幹部や活動家を失なって、労働組合は力を失ない、労働者の利益のためにたたかう力を抜きとられました。」
 また、今日のレッド・パージ研究の第一人者、北海道教育大学の明神勲教授は、国家による不法な弾圧であるレッド・パージの本質を次のように明らかにされている。
 「レッド・パージは、実質的には戦前の治安維持法体制下における弾圧の復活に類似するので『戦後における治安維持法体制現象』というべきものであった。
 レッド・パージは、米ソの冷戦体制の進行と超憲法的占領権力を背景に、GHQと日本政府および企業経営者の共同行為として強行されたものであった。
 レッド・パージという不法な措置を実施するにあたり、GHQ及び日本政府は、事前に裁判所、労働委員会、警察をこのために総動員する体制を整え、被追放者の『法の保護』の手段をすべて剥奪した上でこれを強行したのであった。違憲・違法性を十分認識し、法の正統な手続きを無視したレッド・パージは、『戦後史の汚点』とも呼ぶべき恥ずべき『国家の悪事』であった。」
 まさにこのように、日本政府は憲法を踏みにじるレッド・パージというこの「国家の悪事」を全国的におし進めた正犯として重大な責任があるのである。


3 国の責任を問うレッド・パージのたたかいの重要性

 このようなレッド・パージの歴史的本質にもとづいて、国の責任でレパ被害者の名誉を回復し、損害を補償させることは戦後史のあやまりをただす正義のたたかいである。
 ここに、レッド・パージのたたかいの今日的国民的意義がある。そして、同時にこのたたかいは、憲法で保障された思想・良心の自由をまもり民主主義の確立をめざす今日においてもなお重要な国民的たたかいである。何故なら、橋下大阪市長の職員基本条例案や、不当な憲法違反の思想調査でも明白なように、現在でも基本的人権の最重要なその中核をなす思想・言論の自由が職場・地域で十分保障されているとは言えないからである。
 この点は、日本弁護士連合会がそのレパ人権救済勧告(2008年10月24日)でも「レッド・パージは『思想・良心の自由』と『結社の自由』という民主主義社会の根幹に関わる問題であり、現在そして今後も、わが国の社会や企業において鋭く問われて続ける重大な問題である。」ときびしく指摘しているとおりである。
 しかし、今世界は過去の歴史のあやまりを正して前進していることを直視しよう。
 スペインでは、フランコ独裁下の弾圧犠牲者に対する名誉と権利回復のため、「歴史の記憶に関する法律」(2007年12月)が制定され、ドイツやイタリアではナチズムによる犠牲者の名誉回復と損害補償が行われた。さらにアメリカでも、1957年、米最高裁は、共産主義者が弾圧された三つの事件でマッカーシズムによる反共攻撃は、言論・思想の自由を侵すもので許されないと断罪した。その時、アメリカの有力誌『世界週報』(1957年7月6日号)は「マッカーシズムも臨終へ・米最高裁判所は三つの重要な判決を下し、一つの主義(反共主義)に墓標をたてた」と書いた。
 日本もこの世界の正義の流れに背いてはならない。しかるに、日本ではいまだに戦前の治安維持法弾圧の犠牲者に対する名誉回復も、レパ犠牲者に対する権利回復も全くなされてはいない。この政府の責任は重大である。


4 今日のレパ反対のたたかいの展望

 発足した大阪レパ反対連絡センターは、すべてのレパ犠牲者に対して名誉回復と損害補償を行なうレパ救済の特別法の制定を要求する国会請願活動を行うことを決定した。
 これはレッド・パージの重大な国の責任を追及する正義のたたかいでもある。
 そしてこのたたかいは次のとおり、その正当性が憲法上も承認される重要な課題なのである。
 政府は1952年講和条約発効に際して、公職追放令廃止の特別法を制定し、軍国主義者らの追放をすべて解除するとともに、年金等の損失を回復した。
 また、2010年にはシベリヤ特措法を制定して、シベリヤ抑留者に対し特別給付金を支給して損害補償を行った。
 それなのに、政府は、レッド・パージの犠牲者に対しては名誉回復もなんの損害補償も行っていない。戦争に協力した軍国主義者には追放を解除して損害補償をしたのに、戦争に反対し平和のためにたたかったレッド・パージ犠牲者にはなんの補償も名誉回復もしないこの国の不当な差別は明らかに憲法第14条の法の下の平等原則に違反するものである。
 それにもかかわらず、レパ犠牲者に対してはなんの名誉回復等の措置もとらないこの国の責任は重大である。この国の責任を追及し、大阪連絡センターがかかげるレパ救済特別法制定の国会請願活動を大きく進めねばならない。
 大阪府下のレッド・パージは「大阪社会労働運動史」によると、新聞・交通運輸・金属機械・化学・国鉄・郵政など広汎な業界に及び、その犠牲者数は1、011の多数に及んでいる。そのレパの弾圧からはや60年となる今日、苦難の日々に耐え無念のうちに亡くなられた人々を思うと胸が痛む。そして今元気で頑張っている人々の多くも80才の老いの坂を迎えておられる。一日も早い勝利の日をねがわずにおられない。
 日本共産党の市田書記局長が「レッド・パージ被害者の名誉回復と補償措置を実現することは、歴史の一大汚点をただす大きな意義をもつとともに、現にいまも行われている、職場における思想差別を克服し、思想・良心の自由、言論表現の自由、結社の自由など、基本的人権を確立する今日的意義をもったたたかいだと確信いたします。」(レパ60周年記念のつどい挨拶)と述べられているとおり、レパ反対のたたかいは、われわれにとって憲法と人権・民主主義をまもる今日の重要な国民的たたかいであることをあらためて深く受けとめて一日も早く勝利の道を開くために奮闘しよう。

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