2026年5月27日
民主法律協会 会長 豊川 義明
1 厚生労働省は、2026年3月5日、働き方改革関連法施行後5年の状況を把握するために行った、労働者を対象とするアンケート調査及び企業・労働者を対象とするヒアリング調査である「働き方改革関連法施行後5年の総点検」(以下、「ヒアリング調査」という)の結果を公表した。
自由民主党日本成長戦略本部は、2026年4月15日、ヒアリング調査の結果の公表を受け、「政府の『働き方改革関連法施行後5年の総点検』調査により『もっと働きたい』と希望する層が約1割存在する一方、時間外労働の実態と上限規制との間に『隙間』があり、現行の労働時間制度が必ずしも十分に活用されていない実態も明らかになった」とし、36協定の活用促進や労働基準監督署における時間外労働を月45時間以内に削減することを求める一律の指導を見直すこと等を求める提言を高市首相に行った。高市首相が、2025年10月に、労働時間規制の緩和の検討を厚労大臣に指示していたという経緯があるなか、本提言によって、労働時間規制の緩和に向けた動きが進むことが危惧される。しかし、以下の通り、かかる提言の内容は、公表された調査結果には沿わないものである。
2 すなわち、ヒアリング調査において労働時間を「増やしたい」と回答した労働者は約10.5%であり、その3倍近い約30%の労働者はむしろ、労働時間を「減らしたい」と回答している。また、労働時間を「増やしたい」と回答した10.5%の労働者のうち、1週間当たりの平均実労働時間が50時間以上の者はわずか0.9%であり、直近3か月平均の時間外労働等時間が10時間以下の者が5.4%と約半数にのぼる。現状の労働時間があまり長時間ではない労働者が労働時間を「増やしたい」と回答していることが分かる。
また、時間外労働等の時間として、1か月当たり何時間程度が妥当と考えるか、との質問に対しては、45時間以下と回答した人が93.0%、20時間以下と回答した人が65.6%である。労働時間を増やしたいと回答した労働者も、決して現状の上限規制を超えて働くことを望んでいるわけではない。
さらに、労働時間を「増やしたい」と回答した10.5%の労働者の約3割は所定労働時間35時間以下、年収200万円未満の者であり、そのうち41.6%の者が「たくさん稼ぎたいから」、15.6%の者が「所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)が無いと家計が厳しいから」を、労働時間を増やしたい理由として挙げている。半数以上の労働者が経済的理由から労働時間を増やすことを望んでおり、他の選択肢である「仕事の完成度や業績をより高めたいから」や「会社や社会に貢献したいから」という理由を挙げた者の割合をはるかに上回る。
これらのことから、ヒアリング調査において労働時間を「増やしたい」と回答した労働者が1割程度いたとしても、その多くは、現在の労働時間が短いために増やすことを望む者、生活のためにやむを得ず労働時間を増やすことを望む者であることがわかる。真に労働者が求めているのは労働時間を増やすことではなく、賃金の引上げ等により収入を増やすことであることは明白である。
ヒアリング調査の結果をもって、単純に労働時間を増やして欲しいというニーズを読み取ることはできない。そして、労働時間を「増やしたい」労働者よりはるかに多くの労働者が労働時間を「減らしたい」と回答している調査結果を無視することは許されない。
3 以上の通り、上記自民党の提言は、「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の調査結果から導き出される労働者の真のニーズに全く沿わないものである。長時間労働による労働災害や過労死等が後を絶たない現状において、調査結果から見える実態を無視し、安易な労働時間規制の緩和を促すような提言は、長時間労働の蔓延を助長するものであり容認できない。調査結果から判明した労働者の真のニーズは、決して労働時間規制の緩和ではなく、労働時間の削減と、労働時間の適正な管理・把握、そして労働時間を増やさなくとも安定した生活が維持できる賃金水準の実現である。
当会は、このような労働時間規制の緩和の動きに対して抗議するとともに、労働者が安心して働き、生活を送ることができるよう、長時間労働の根絶・適切な労働時間管理・抜本的かつ大幅な賃金水準の引上げが実現されることを強く求める。



