民主法律時報

取材を受けたら懲戒処分? 帝産湖南交通「しんぶん赤旗」記事・懲戒処分事件、控訴審逆転勝訴!

弁護士 安原 邦博

1 はじめに

本年(2018年)7月2日、帝産湖南交通事件(地裁敗訴時の報告「新聞記者の取材に応じると懲戒処分か? ――帝産湖南交通事件」http://www.minpokyo.org/journal/2017/06/5297/)の高裁判決が言い渡された。
しんぶん赤旗の取材を受けたことに対する懲戒処分を違法、無効とした、原告の逆転勝訴である。

2 事件概要

滋賀県の路線バス会社帝産湖南交通(株)のバス運転手であり、帝産湖南交通労働組合の委員長であった原告、八木橋喜代友氏(以下「原告」という)が、2014年6月、バス運転手の長時間労働の実態及びパート労働者の労働条件改善の取組みについて「しんぶん赤旗」の取材を受け、それが同年8月22日に同紙上で記事となったところ、会社は、記事に誤りがあり信用を毀損するなどとして、2015年2月に原告に対し出勤停止10日の処分を断行した。

3 しんぶん赤旗記事(のうち会社が懲戒事由とした部分)

・記事①
「帝産湖南交通労働組合は、パート運転者の不満をとりあげて会社と交渉しました。しかし、会社は、非組合員の問題だといって組合との交渉に応じませんでした。」
・記事②
「正社員の運転者が『君しか走るものがおらんのや』と会社に言われ、1日に早い時間帯と遅い時間帯など2人分の勤務をかけもちするよう迫られました。断り切れずに、3日間連続の長時間労働をした翌日に、心筋梗塞で入院しました。」

4 地裁(大津地方裁判所・山本善彦裁判長)

原告は、2015年4月1日に、懲戒処分の違法、無効を明らかにするため提訴をした。
(1) 地裁判決
2017年4月13日に言い渡された地裁判決は、記事①は真実としたものの、記事②については、恒常的な長時間労働のもと心筋梗塞となったバス運転手につき、心筋梗塞の直前に「3日間連続」の長時間労働にあったとした点をとらえ、同記事が虚偽であるとして、会社の信用を毀損し懲戒処分は相当である、などとの不当判決を言い渡した。

(2) 地裁判決の不当性
しかしながら、同記事の核心部分は、心筋梗塞となった者をはじめとするバス運転手が恒常的な長時間労働にあったという点にあるのであり、かように枝葉の部分で真実性が立証できないことで責任を問われるのであれば、今後、労働者、労働組合も、報道機関も、職場の不当・違法な労働実態を世に訴えることができなくなる。
さらに地裁判決は、不当にも、「従業員が会社の内部情報を外部の報道機関に提供する行為は、~一般に、平時においては企業秩序に違反するものとして厳に慎まれるべき」などとして、職場の不当・違法な実態を報道機関に情報提供すること自体が一般的に許されないかのような判示をしており、労働運動を抑圧するものという他なかった。

(3) 負けられない闘い
かような不当判決を捨ておいては、今後の労働運動に多大なる悪影響が生じかねない。原告、労働組合及び弁護団は、何がなんでも控訴審で逆転勝利しなければならない、という窮地に追い込まれたのである。

5 高裁(大阪高等裁判所第5民事部・藤下健裁判長)

(1) 高裁での審理
高裁では、実質的審理の口頭弁論期日を5回開かせ、更なる尋問も実施させ、毎回傍聴席を支援者で埋めて(私鉄「連帯する会」に大奮闘いただいた)、主張立証を更に尽くした。

(2) 高裁判決
その結果、本年7月2日に言い渡された高裁判決では、記事②について「3日間連続の長時間労働という以上の過酷な労働をしていた」という正当な認定をさせることができ、記事①及び②につき、双方ともその掲載ないしそれに係る情報提供行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであり、①は真実、②についても核心部分で真実であって、原告の情報提供行為は懲戒事由に該当せず、懲戒処分が違法、無効であることが認められたのである。

6 さいごに

バス運転手の長時間労働の是正とそれによる労働者の健康・生命の保護及び乗客たちの安全確保は、喫緊の課題である。ところが、本年6月 日にはまやかしの「働き方改革」法が強行採決され、運転業務の規制は5年間先送りされるなど、長時間労働の是正は一向に進んでいない。
かかる状況のもと、労働者、労働組合が、職場の長時間労働の実態を社会に広く訴え、使用者に是正を迫ることは必要不可欠であり、これは、正当な組合活動、表現の自由として保護され、また国民の知る権利を実現するものである。この点において、このたびの逆転勝訴判決は、運転業務の長時間労働を是正するための今後の取組みに資するものである(なお、会社が上告をしたので本判決はまだ確定していない)。

弁護団は、藤木邦顕、鎌田幸夫及び安原邦博である。

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