民主法律時報

内閣官房機密費・情報公開訴訟 最高裁判決と開示文書

弁護士 谷  真介

1 内閣官房機密費情報公開訴訟とは

内閣官房機密費(報償費)は、内閣官房長官の政治判断によって支出される経費として、国民の税金から毎年 億円以上が予算に計上され、国庫から月約1億円が継続的に内閣官房長官に支出されてきました。内閣官房長官は毎月約1億円の税金を使途を明らかにせず自由に使ってきたのです。

内閣官房機密費は、2002年に日本共産党にもたらされた内部資料によって、初めて世の中で問題視されました。加藤紘一氏が官房長官だった時代の1991~1992年の か月間の機密費の一部の使途を記したものでした。これには、党内対策や野党対策の流用、「パーティ券」等の事実上の政治献金としての党略的流用、「長官室手当」、「秘書官室手当」等の私的費用としての流用を疑われる内容が記載されていました。その他、野中広務氏や鈴木宗男氏などがマスコミのインタビューで、機密費が国会対策、選挙対策等で使用されてきた事実を告白するなど、常々不適切な使用が疑われていました。

2006年10月、上脇博之教授(神戸学院大学)が、2005年4月から2006年9月までの細田・安部の両官房長官時代の官房機密費の支出関係文書の情報公開請求を行いましたが、「内政外交等の事務の円滑効果的な遂行に重大な支障」、「他国との信頼関係が損なれ、交渉上不利益を被るおそれ」に該当するという理由で全面不開示決定がされ、2007年5月、大阪地裁に不開示決定処分の取消訴訟を提起(1次訴訟)しました。その後、2009年8月に衆議院総選挙で自民党が民主党に歴史的惨敗を喫して政権交代が実現した際、政権を明け渡すことが決まっているにもかかわらず自民党政権最後の河村官房長官が交代までの約10日間に2億5千万円もの官房機密費を請求したことが発覚し(通常は月1億円)、不正利用があったのではないかという疑いで別途情報公開請求、提訴しました(2次訴訟)。さらに、第2次安倍政権における菅官房長官が2013年に支出した官房機密費の支出関連文書についても、別途情報公開請求、提訴しました(3次訴訟)。

2 分かれた高裁判決と最高裁判決

裁判になってはじめて、官房機密費の支出が官房長官自体が出納管理をする「政策推進費」、事務取扱者にさせる「調査情報対策費」、「活動関係費」という3類型に分類されていること、また支出関係書類として、政策推進費受払簿、出納管理簿、支払決定書、報償費支払明細書という文書が存在することが判明しました。

地裁での判決はいずれも、若干開示の範囲に差はありましたが、概ね支払相手方と具体的使途が判明しないものについて開示を命じる判決でした。これは1次・2次訴訟の高裁判決でも維持されました。ところが、3次訴訟の高裁判決では、一転、相手方や使途の記載が無い文書でも、そのときどきの情勢によって相当程度特定され内閣の事務の遂行に支障が生じるおそれがあるとの理由で実質全面不開示の逆転敗訴となりました。

結論が分かれた高裁判決が最高裁で争われることになり、2017年12月に最高裁第二小法廷(山本庸幸裁判長)で弁論が開かれ、2018年1月19日に3件の最高裁判決が言い渡されました。結果は、1次訴訟・2次訴訟の大阪高裁判決より開示範囲を狭める一部開示ではあったものの、国側が抵抗を示していた官房機密費の本丸である政策推進費に関する文書を開示せよという内容でした。開示範囲を狭めたとはいえ、これまで一切開示しない態度を貫いていた国にとっては痛手であり、最高裁は最低限の仕事をしたと評価できます。

3 その後の国の対応と開示された文書

最高裁判決後、菅官房長官は会見で「最高裁判決を重く受けとめ、適切に対応したい」と述べたにもかかわらず一向に開示されず、2か月が経ちついに10年越しで文書が開示されました。

開示された文書からは、各官房長官が官房機密費を月1億円あまり支出していること(これまでは国庫からの入金しか明らかになっていませんでした)、そのうち約9割が官房長官自らが領収書無しに自由に使用できる「掴みガネ」「闇ガネ」の政策推進費として使用されていること、河村官房長官は民主党政権への交代直前のわずか6日間で2億5000万円もの巨額の政策推進費を支出したこと、年度替わりや官房長官交代時には一度使い切り金庫をカラにしている実態等が判明しました。

原告弁護団は、文書開示を受け、菅官房長官に対し、官房機密費の支出について記録を残すこと、政治家やマスコミ(世論誘導のおそれがあるため)への支出を禁止する内規を策定すること、5~25年後に使途も含めて開示し不正使用を抑止することを提言する要求書を提出しました。

最高裁判決直後、原告弁護団は「闇支出の一端に光」という勝訴の旗を出しました。税金使途に関する情報は本来は主権者たる国民のものです。「一端に光」を与えたこの最高裁判決をきっかけに、国民自身、そして国民の付託を受けた国会において、「官房機密費は本当に必要なのか」、「国民が監視できなくて良いのか」について真剣に議論されることを期待します。

(弁護団は阪口徳雄、徳井義幸、谷真介ほか)

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