民主法律時報

松原民商まつり会場使用拒否事件 勝訴報告

弁護士 長岡 麻寿恵

 2016年11月15日、大阪地方裁判所堺支部第2民事部(橋本眞一裁判長)は、松原民商が民商まつり開催のために申請した松原中央公園の使用を不許可とした松原市の決定を違法と認め、市に対し民商への90万6200円の損害賠償を命じました。

2 提訴に至る経緯

2014年9月、松原民商は、設立50周年を記念して松原中央公園において「松原民商まつり」を開催することを計画し、公園の使用許可を申請しました。

松原中央公園は、その名のとおり松原市の中央部にあり公共施設にも隣接する、交通至便な松原市最大の公園で、同民商はこれまでも同公園で、設立20周年、40周年を記念した「松原民商まつり」を開催し、それぞれ4000人、5000人を超える市民が参加しました。今回のまつりも、体操やAED講習、河内音頭や腕相撲大会、ヨーヨー釣りなどの縁日、たこ焼きや焼きそば等模擬店など、誰でもが参加できる楽しいまつりとして企画されました。

松原市都市公園条例では、(1)公の秩序を乱し善良な風俗を害するおそれがある(2)暴力団の利益になり又はそのおそれがある(3)公園の管理上支障があると市長が認めるとき、には使用を許可しないとされており、逆に言えば、上記3つの場合に該当しない場合には許可しなければなりません。松原市では、平成 年に橋下元大阪市長の応援を受けた現市長が、松原民商理事の対立候補を破って当選、平成 年に同じ対決構図で再選されています。現市長は、上記条例について市の内規である許可審査基準を変更し、公園の使用許可には「市の協賛・後援の許可」を要件としてしまいました。

そして、松原民商まつりの公園使用許可について、市は平成 年9月「市の協賛・後援がない」ことを理由に上記条例の(3)に該当するとして不許可としました。松原民商は、後援名義使用承認も申請しましたが、市は「主催団体の宣伝、売名を目的とするものと類推されるおそれがある」(!)として不承認としたため、公園の使用は不可能になってしまったのです。

市の協賛・後援を要件とする上記「審査基準」により、公園を市民が自由に利用することはできなくなり、それまでは活発に行われていた労働組合による催し物、集会、メーデー会場、デモの出発点としての使用、学童保育OBによる運動会、個人のイベント等は行われなくなり、専ら市の催しや官製イベントだけが行われるようになりました。

33回もの長きに亘って市内諸団体の実行委員会形式で開催されてきた中央公園の「ちびっこまつり」も、平成24年までは松原市教育委員会が後援していたのに、市は平成25年には一旦付与した後援をわざわざ取り消しました。そして平成26年の34回まつりでは、労働組合が実行委員会に参加していることを理由に「政治活動を類推することにつながる恐れがある」として市の後援名義の使用は不許可とされ、公園を使用することができなくなったのです。やむなく労働組合に実行委員会から脱退してもらい、「子どもまつり」として企画しましたが、今度は「初めて開催される事業であるから事業遂行能力に疑義がある」(!)とされて後援名義を得ることはできませんでした。ところが、市の商工会が中心となった「松っこフェスタ」は、同じような内容のこども対象のイベントで初めて開催されるものであったにもかかわらず、市は速やかに後援を承認し、松原中央公園を使用させました。

このように、「市の協賛・後援」要件を通して、松原市の公園使用許可は極めて恣意的に運用されるようになったのです。

3 判決の内容

判決はまず、本件公園は地方自治法244条にいう公の施設に該当するから、市は正当な理由がない限り住民がこれを利用することを拒んではならず、不当な差別的扱いをしてはならないとした上、管理者が正当な理由なく住民の利用を拒否するときには、憲法の保障する集会の自由の不当な制限につながると指摘し、公園管理上の支障が主観による予測だけではなく「客観的な事実に照らして明らかに予測される場合に初めて」不許可とできると判示しました。

そして、本件まつりの使用によって生じる「管理上の支障」として市が主張した内容は、「集会による使用について当然生ずる支障として通常想定される範囲を超えるもの」ではないとし、本件「審査基準」については「後援等承認をする要件は、必ずしも公園の管理上支障があることを徴表するものとは言えない。むしろ、上記のような仕組みは、被告から後援等承認を受けられた者は公園の使用の許可を得ることができるが、これを受けられなかった者は、公園の使用の許可を得られないこととなり、公の施設である公園の使用の拒否を決するにあたり、集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことになる危険性をはらむ余地があり、その運用次第では問題がある仕組みである。」と断じました。そして、市に対し、慰謝料80万円、弁護士費用9万円、実損害1万6200円の合計90万6200円の支払いを命じました。

4 本判決の内容

(1) 憲法上保障された集会の自由
本件判決は、市福祉会館の使用不許可処分について「(管理上の支障発生が)客観的な事実に照らして具体的に明らかに予測されたものということはできない」と判示して違法とした最高裁平成8年3月15日第2小法廷判決(上尾市福祉会館事件)をベースとして、市民による公園の使用についても、「管理上の支障」により不許可とするには、憲法上の集会の自由を不当に制限することのないよう、客観的な事実に照らして明らかに予測される場合に限定したものです。

公園の利用は、1939年アメリカ連邦最高裁のHague v.CIO判決によるまでもなく、「集会や市民の間での思想の伝達、公の問題の討論という目的のために用いられてきた」ものであり、憲法上の重要な権利です。他方、この裁判で松原市が、他の地方公共団体における公園使用の規制、後援等を要件とする要綱を提出してきましたが、実際には問題のある規制がかなりの市の内規レベルで行われているようです。昨年姫路市が安倍政権を批判する駅前広場の集会を中止させた事件もあったように、今、集会等に対する地方公共団体の萎縮が目立つ中、本判決は、公園を市民が様々な集会に自由に使用する実践のために重要な意義を持ちます。

(2) 「協賛・後援」要件の問題性を指摘
松原市では、前述のように、橋下元市長や維新議員の応援を受けた市長が、「市の協賛・後援」要件を用いて、労働組合等の団体を敵視した運用を行っています。

このような公園の「私物化」に対して、本判決が「集会の目的や集会を主催する団体の性格そのものを理由として使用を許可せず、あるいは不当に差別的に取り扱うことになる危険性をはらむ余地があ」るとして問題のある仕組みであると指摘したことも大きな意義があります。松原市に対し、判決に従い、上記審査基準を廃止して憲法・地方自治法と条例を遵守するよう働きかけていかなければなりません。

かつてのように、松原中央公園で、子どもまつりや学童の運動会だけではなくメーデーの集会やデモ出発のための集会を自由に開くことを目指し、引き続き頑張りたいと思います。

(弁護団は、松尾直嗣、岩嶋修治、高橋徹、遠地靖志、長岡麻寿恵)

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