連載TPPリポート⑥(最終回) 食料と食の安全を脅かすTPP

2012年08月31日

 全大阪消費者団体連絡会事務局長 飯 田 秀 男

 今回は、TPPが日本の食の安全について及ぼす影響・懸念についてリポートする。

 TPPで食料自給率13%に

 TPPは、物品貿易の全品目について、例外を設けず、即時または段階的に関税を撤廃することを原則とする。2010年10月、菅首相(当時)がTPP参加を打ち出した際に、農林水産省はその影響を試算して公表した。この試算結果は、農業関係者をはじめ、各界に衝撃を与えた。食料自給率(カロリーベース)は激減し、13%にまで落ち込むという。今でも、先進国で最低の食料自給率の日本だが、それが極端に低下する。こうした状況下で、食料を武器に圧力をかけられたら、それがいかなる経済的・政治的圧力であろうと首を縦に振らざるを得なくなるのは必至である。また、自給率の低下は、輸入量の増加と裏表の関係であり、輸入検疫体制の問題に直結してくる。現在の輸入食品の検査は、393人(2011年度)の食品衛生監視員配置で、その検査率は数%でしかなく、民間の検査を含めても10数%となっている。200万件3千数百万トンの輸入量という現状の下においても、低い検査率である。政府が、輸入食品の検査体制の抜本強化の方針を持ち合わせていない中、関税撤廃されたら、大量輸入にどう対応するのかの不安・懸念だけが募る。

 地域経済への影響も甚大

 問題は食料自給率だけではない。農業生産額は4兆5千億円減少、国内総生産(GDP)の減少額は8兆4千億円、それによって就業機会を奪われる人が350万人にも及ぶという。それだけではなく、農業生産が果たしている国土保全、水田のダム機能、地下水の涵養などの多面的機能が失われることによる喪失額は3兆7千億円と試算された。この試算数値は、農家だけではなく、農産品を流通させる運搬業、食品加工業、肥料・農薬などの農業生産資材業、農業機械産業、それらで成り立っている地域経済などが崩壊の危機に瀕することを物語っている。

 非関税の規制撤廃促進へ

 TPPは、関税だけでなく、自由貿易の拡大に障壁となる事項を撤廃させようとする。外務省発表のTPP「分野横断的事項」では、「同一物品に対して適用される基準が国によって異なったり、重複する規制が国内規制当局によって適用されたりすることから生じる企業負担を減らすために、今後新たな規制を導入する前に当事国の規制当局同士の対話や協力を確保するメカニズムの構築を目指す」となっている。これまでも、日米の日米構造協議の場において、規制緩和・撤廃を求める両国政府の要望が出されてきた。その食の安全分野で、米国が日本に要求し続けてきた主要なものは、
①輸入牛肉の牛の月齢制限を20ヶ月齢以下から30ヶ月齢以下への緩和
②食品添加物の大幅な認可・緩和
③遺伝子組換え食品由来の製品の表 示義務の撤廃

 BSEへの不安を常に抱えて

 日本とは違い、米国では飼育牛の月齢管理がされていない。また、BSE検査も1%以下、杜撰な飼料規制がまかり通っている。輸出国ごとに異なるSRM(特定危険部位)除去ルールが食肉処理場の現場で遵守できないため、日本向けの輸出肉でSRM混入の事故が度々発生している。動物及び動物由来製品の国際貿易ルールを取り決めるOIE(国際獣疫事務局)から「管理されたリスク国」のお墨付きを得た米国は、それを盾に20月齢以下に限る輸入制限の撤廃を迫っている。

 ポストハーベストの不表示へ

 日本では、農薬は農産物の収穫前に使用するものであり、収穫後に添加するものは食品添加物になる。ポストハーベスト農薬は、農薬とは別の安全評価になるが、米国政府はそれを不当としている。また、農薬の最大残留基準値をコーデックス基準に合わせるよう、再三にわたって要求している。現在、ポストハーベスト防カビ剤は、イマザリル、OPP、TBZなど5品目だが農薬扱いになれば表示がされなくなる。また、表示義務がなくなり、コーデックス基準の残留値基準になれば、ポストハーベスト農薬の使用量が増えるのではないかと言われている。

 食品添加物の多用促進へ

 日本で承認された食品添加物は832品目だが、米国では約3000品目が使用されている。現行では、日本で認可されていない食品添加物を含む食品は輸入できない。米国の食品企業は、米国並みに食品添加物が自由に使えるようにすべきと圧力をかけている。食品添加物の日本の考え方は、「食品添加物の使用は極力制限する方向で措置すること」(1972年の食品衛生法改正時の衆参両院附帯決議)としている。しかし、米国の圧力に、「食品添加物の承認手続きの簡素化・迅速化」(菅内閣)を基本方針として確認し、米国要求に沿う対応をしている。

 GM食品表示がなくなる?

 また、遺伝子組換え(GM)食品由来の表示義務を課す日本の現行ルールに難癖を付け、「安全である食品」にGM由来かどうかの表示義務を課すのは不当だとその撤廃を求めている。米国は世界最大のGM栽培面積を誇り、とうもろこしや大豆などを日本に輸出している。今後は、農作物だけでなく、サケなどGM動物の商用化が予定されている。日本では、「GMである」ことが義務表示になっているが、「GMでない」旨の任意表示が大半を占める。これは、加工食品(しょうゆなど)や飼料には表示義務がないことが影響している。国内では、GM食品に対する抵抗感が根強くあり、現行の表示制度がつくられた経緯がある。しかし、モンサント社などGM作物開発企業は、GM表示制度が貿易障壁になると、その撤廃を求めている。

 このように、日本政府は、食品の安全分野においても規制緩和を推し進め、米国の要求ににじり寄っている。TPPに加入すれば、その動きはさらに加速することになる。
 TPP協定は、国際協定だから国同士の取り決めになるが、その本質は、国境を越えて自由な活動領域を求める多国籍企業の活動の場を整備することにある。