民主法律時報

アラブの春~世界に投げかけたもの 世界の民主化運動に学ぶシリーズ第2回

弁護士 中 西   基

  1. はじめに
     2月1日に、民法協・国際交流委員会の主催する学習会「世界の民主化運動に学ぶシリーズ『アラブの春~世界に投げかけたもの』」を開催しました。今回から「市民社会フォーラム」の協賛を得て実施しており、民法協の企画に初めて参加していただく方もいらっしゃいました。参加者は32名でした。
  2. エジプトの「1月25日革命」
     2010年12月にチュニジアで始まった民主化を求める市民のデモは、2011年1月25日には、エジプトに飛び火しました。
     初めは、首都カイロのタハリール広場に数千人の市民が座り込みを始めました。翌日26日には治安当局に強制排除されました。28日は金曜日。毎週金曜日の正午にはイスラム教徒はモスクに集まる金曜礼拝が行われます。そこで集まった多くの市民がそのまま反政府デモに発展することを恐れたムバラク政権は、28日午前0時からすべてのインターネットと携帯電話網を遮断しました。前日27日にはツイッター上で大規模な反政府デモが呼びかけられていたことから、事前に政権側が押さえ込みにかかったのです。夕方からは主要都市で夜間外出禁止令が出され、街頭には軍隊が出動しました。それでも、多くの市民が「ムバラク退陣!」を叫んで路上でデモを繰り広げました。連日のように、タハリール広場には10万人から20万人の市民が詰めかけ、口々に「ムバラク退陣」を求めました。そして2月4日金曜日、正午からの金曜礼拝を終えた市民らが続々とタハリール広場に集まり、その数は100万人を超えました。ムバラク退陣を求める市民のデモはエジプト全土に広がり、ついに、2月11日、ムバラク大統領は退陣を表明しました。歓喜の声に包まれたタハリール広場の様子はYou Tubeなどを通じて全世界中に配信されました。
     民主化を求める市民のデモが、アラブ世界の中でももっとも盤石と思われていたエジプトのムバラク政権を打倒したこの出来事は、デモが始まった日をとって「1月25日革命」と呼ばれています。
  3. 1月25日革命の背景にあるもの
     1981年から30年も長期政権を維持してきたムバラク大統領のもとで、エジプト社会には抑圧(権威主義体制、言論統制、弾圧)と腐敗(歪んだ新自由主義、貧富の格差、貧困層の増大)が蔓延していました。これに対して、若者世代を中心として「社会的公正」を求める声が高まり、彼らが市民デモの中心を担いました。
     若者たちの運動の原点になったのは、2008年4月6日にエジプト北部のマッハラ市で起きた織物工場の労働者から始まった大規模なストライキと反政府デモでした。このとき、労働者に連帯した若者たちが運動に立ち上がりました。この運動は「4月6日運動」(6th of april youth movement)と呼ばれています。この時の運動は、結果的には政府に弾圧されて失敗に終わってしまいましたが、「4月6日運動」に参加した若い活動家たちは、その後、セルビアでミロシェビッチ政権を倒した学生運動組織(「オトポール」)の活動家たちに市民運動のノウハウを学び、腐敗したムバラク政権に対する反対運動を持続してきました。彼らの運動が「1月25日革命」の成功に大きな影響を与えています。
     若い活動家たちは、事前に入念な打ち合わせをし、「ムバラク大統領の退陣」という共通の目標を設定しました。また、既存の政治勢力とは一線を画しつつ、既存の政治勢力とも大同団結を目指しました。さらには、徹底的に非暴力・平和的な運動に徹しました。
     エジプトの1月25日革命の背景にある以上のような状況に関しては、英語版アルジャジーラの番組「Seeds of Revolution」(革命の種)が詳しいです。You Tubeで見ることができます(英語です)。
    http://www.youtube.com/watch?v=BSZ7Ln5KzRU
  4. 私たちの運動にどう活かすか
     「アラブの春」の成功には、私たちの運動に学ぶべき点がいくつかあります。
     例えば、①市民の生活実感に根ざした不満を引き出すこと、②多くの市民が共感できる共通の課題(敵)をわかりやすく提示すること、③既存の政治勢力・党派とは一線を画して市民ひとりひとりが主人公になって運動すること、④非暴力・平和的な運動に徹すること等々。これらの点は、スペインでの「  M」運動やアメリカでの「Occupy Wall Street」運動とも共通している特徴です。また、日本の脱原発運動とも共通しているところが多いと思います。
     これらの特徴を踏まえて、私たちの運動のあり方を検証してみる必要があるのではないでしょうか。
  5. 講師の石黒先生
     今回の学習会の講師は、神戸大学のポスドクの石黒大岳さんでした。
     面識がまったくないまま、いきなり研究室にお電話して、講師をお願いしたところ、こころよくお引き受け下さいました。とてもまじめで誠実な研究者でした。二次会にも最後までおつきあい頂きました。ありがとうございました!
     石黒先生も執筆されている『アラブ民衆革命を考える』(国書刊行会)、お勧めです!

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