西谷先生「人権としてのディーセント・ワーク」出版記念講演

2011年09月28日

弁護士 増 田  尚

 西谷敏・大阪市立大学名誉教授が「人権としてのディーセント・ワーク 働きがいのある人間らしい仕事」(旬報社)を出版されたのを記念して、7日、大阪労働者弁護団との共催により、西谷先生による出版記念講演会を開催しました。弁護士や労働組合員など74名が参加しました。
 同著では、1999年ILO報告が提示した「ディーセント・ワーク」を切り口に、現代日本における労働をめぐる書面大を網羅的に論じられており、労働運動のバイブルともいうべき内容になっています。そのキー概念となる「ディーセント・ワーク」について、厚生労働省は、「人々が働きながら生活している間に抱く願望」の集大成であると定義している(初めて知りました!)のに対し、西谷先生は、著作のタイトルにもあるように、何より「人権」としてとらえるべきだと指摘されました。「人権としてのディーセント・ワーク」の含意は、これに反する働かせ方が人権侵害として把握されるところにあり、「セクシュアル・ハラスメント」が労働における性的自由の侵害として広く国民生活に定着したように、労働のあり方を変える可能性を秘めていると示唆されました。
 その上で、ディーセントワークの条件として、①安定した雇用、②公正かつ適切な労働条件、③人間らしい働き方の3つを挙げられました。
 ①安定した雇用の意義については、何よりも労働者の生活保障であり、加えて、「働く」ことそのものが人間にとって意義のある行為であると位置づけ、労働者の権利を保障するために、実体法と法執行の仕組みを検討すべきであると述べられました。この観点から、解雇規制の緩和論を厳しく批判し、有期雇用についても、細切れ雇用、解雇規制の僭脱、労働者の地位の弱体化の3つの理由から、有期雇用とすべき合理的な理由を必要とする独仏のような規制が必要であると指摘されました。
 次に、②公正かつ適切な労働条件として、ヨーロッパ並みの最低賃金(時給1000円)の実現と、労働における差別の撤廃が不可欠であると述べられました。
 また、③人間らしい働き方の確保のためにも、労働時間規制の強化と労働時間時間の短縮の必要性を訴えられました。労働基準法においては、事実上、36協定において、時間外労働時間が青天井にされていることをただちに上限規制を徹底すべきであると述べられました。
 さらに、非正規雇用のあり方が反「ディーセント・ワーク」の典型であると糾弾され、自由な意思に基づいて選択したものではなく、いったん非正規になれば容易に抜け出せず、世代を継承するように固定化され、差別意識が牢固として存するなど、「身分」そのものになっているとの問題点を指摘されました。そのためにも、規制強化により正社員化を推進することや、均等待遇の確立が必要であると述べられました。
 続けて、出版後に生じた東日本大震災の問題にふれ、被災地における雇用保障を公的責任において実施すべきであると同時に、震災復興を口実にした財界の規制緩和要求を厳しく批判し、生活を優先する社会政策への転換を訴えられました。
 最後に、ディーセント・ワークの実現に向けて、法と労働組合の役割について論じられました。労働組合の組織率が低下している上、歪められた「労使自治」によって、ディーセント・ワークの実施が阻まれていた中、立法闘争が重要になっていると説かれました。また、労働組合に対しては、特に、長時間労働を許容する36協定の是正、年休未消化の解消、正規・非正規の格差是正の問題にとりくむことにより、存在意義を発揮するよう要望されました。
 講演終了後は、西谷先生をまじえて、大阪労働者弁護団の事務局との懇親を深めることができました。ディーセント・ワークの実現のために、労働組合、法律家が共同して、立法闘争や労働者の権利向上のとりくみをすすめていく民主法律協会の存在意義がますます重要であることを再認識することができました。