民主法律時報

ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟 勝利和解

ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟弁護団
団長 弁護士 徳井 義幸

  1. はじめに

     去る3月28日、大阪地方裁判所において、ノーモア・ミナマタ近畿訴訟の和解が成立した。これは、3月24日の東京訴訟、翌25日の熊本訴訟での和解に続くもので、これにより2005年10月の熊本地裁の第1陣提訴(原告50名)以来、2009年2月の近畿訴訟提訴、2010年2月の東京訴訟提訴と全国に広がったノーモア・ミナマタ訴訟の全原告について和解が成立したことになる。和解成立時の原告数は、三つの訴訟の合計で2,992名に達する。
      2004年の国・県の水俣病被害の拡大に対する責任を認めた最高裁判決以降も国が被害者救済を放置したことに対して、多くの被害者が行政認定や訴訟を提起する動きが拡大してきたが、この間の特措法の制定ともに今回のノーモア・ミナマタ訴訟の和解解決によって、水俣病被害者救済は大きく前進すると共に新たな局面に入ったことになる。なお、訴訟ではなく特措法による行政救済を求めている被害者は4万人に達している。
      水俣病の公式確認された1956年5月よりすれば、すでに55年近い歳月が経過したことになり、公害の原点とされた水俣病の被害者救済のこのような驚くべき歴史的遅延には、日本の公害行政の怠慢が集中的に表現されているということができよう。

  2. 今回の和解とその成果と評価について
     ところで今回の和解では、熊本・近畿・東京の全原告2,992名のうち、一時金210万円の他療養費支給等の対象者が2,772名の92.6%、医療費のみの対象者が0.7%、あわせて93.4%の原告が救済対象となり、近畿訴訟では原告306名のうち、282名(92.2%)が一時金等対象者、1名が医療費のみの対象者となり、多くの原告が救済対象(92.5%)となった。従来の行政認定では到底達成することのできなかった高率の救済率である。
     これは、従来の加害者(国・県)が被害者を選別するという不合理なシステムを打破し、被害者切り捨てを許さないための判定機関として、被害者側の医師も参加する「第三者委員会」という公正・公平な判定の仕組みが実現した成果である。また、従来の行政認定が、複数の症状の組合せを要求してきたのを変えて、四肢抹消優位のみならず全身性の感覚障害のみで水俣病と認めるという判断条件の変更も大きい。
     さらに大きな成果としては、行政が水俣病の発生を否定してきた「指定地域外」の居住者や「昭和44年12月以降」の出生の被害者についても一定割合の救済者を出したことがあげられる。そもそも、水俣湾や不知火海の魚は当然のことながら回遊しているのであり、行政的な線引きによって、同じ汚染された魚を食べたのにある地域では水俣病になりある地域では水俣病にならないなどと言うことがありえないことは歴然としているのである。また加害企業チッソは昭和43年5月に水銀の排出を停止したが、行政はそれ以降は水俣病は発生しないとの論理に立ってきた。汚染された海や魚がある日突然無害になるなど、これほど非論理的な被害者切り捨ての論理もなかろう。
     今回の和解に基づく「第三者委員会」の判定は、不十分ながらも従前のこのような行政の論理を打破することになったものである。
     まさに、被害者救済の枠組を量的にも質的にも拡大したものであった。
     また、水俣病に関する情報の欠如と適切な医療機会の欠如という障害をかかえるなかで被害者救済が放置されてきた近畿・東京等の県外居住者についても、平等の救済が実現できたことは、県外居住者の被害救済にも改めて光を当てたものである。
  3. 今後の課題

     前記の如く、今回の和解は、大きな成果を生み出したが、しかし未だ救済されていない水俣病被害者の存在をも浮かび上がらせている。全ての水俣病被害者の救済のためには、「指定地域外」の居住者や「昭和44年12月以降の出生者」を含めて、不知火海沿岸住民の健康調査の実施に基づく被害の全貌の把握が必要不可欠であるが、国は未だにこの健康調査の実施には消極的である。
     私たちは、和解で定められた原告ら関係者も参加した下での「メチル水銀と健康影響との関係を客観的に明らかにする」「調査研究」「そのための手法開発」や県外居住者の水俣病関係の情報不足、適切な検診の機会の欠如等の「障害を極力克服する措置」の早期の実現を国に対して求めていくものである。
     そしてすべての被害者救済が終わるまで、加害企業チッソが分社化による責任逃れをしないよう引続き監視していく必要がある。
     また、特措法による行政救済を求めている4万人の被害者のフォローも今後の大きな課題である。特措法による行政救済が、従前の行政認定と同様の被害者切り捨ての運用となれば、またまた多数の被害者が未救済になるおそれがあるのであり、特措法はその運用を3年を目途に終了するとされている点も被害者救済を狭いものとするおそれがある。
     全ての被害者の救済とノーモア・ミナマタの声は、被害が未救済である限り続かざるを得ないのである。

  4.  最後に、この戦いを支援されてきた全ての人々に感謝を申し上げ、ノーモア・ミナマタ近畿国賠訴訟の勝利和解の報告とします。         

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