書籍の紹介

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西谷敏著「労働法の基礎構造」を読んで

弁護士 河村  学

 「書評」を引き受けたものの、読んで見るとやはり難しく、クチンスキーが出てきて、ラートブルフが出てくると、正直「辛いなあ」という感じだった。ただ、そこを遮二無二乗り越えて行くと、平たく言えば、「労働法って市民法とそんなに違うものなの?」(2章)、「労働法って民法の特別法なの?」(3章)、「労働法の理念って生存権なの?」(4章)など、根本的な議論が展開されている。その後、「労働法における公法と私法」(5章)という毛色の違う論考を挟んで、西谷先生の自己決定論とそれを下敷きにした「労働契約と労働者意思」(6章)がある。労働者の(自由)意思の問題は、有期労働契約の不更新条項の解釈など労働法の多くの論点に関わり、「労働者」「労働法」観が問われる極めて実践的な問題である。

 ただ、読後感としては7章からが面白い。7章の「『労働者』の統一と分裂」では、有期労働・派遣労働・短時間労働・均等待遇の法政策の視点、管理職や多様な正社員をどう捉えるのか、労働者概念をどう考えるのかなど、表面に現れている基本的問題の考え方が述べられている。非正規労働のうち「実際に労働者自身が真に希望することがありうるのは短時間労働のみ」「日本の法制では、有期労働そのものが制約されないので、労働者の雇用生活の不安定性は解消されない」「労働者派遣という間接雇用の形態自体が労働者にとって有意味ということはない」など明快で、痛快でさえある。
労働者概念については、労組法と労働者保護法とで異なるだけでなく、労働者保護法内部でも異なり、例えば労基法上の各条項においても完全には一致しないとされる(西谷先生としては、指揮命令関係に関わる条項と、労働者の経済的地位に着目した条項に分け、その適用が異なる二種類の労働者として分類する立場を支持するようである)。さらには労働者概念に包摂されない労務提供者(非労働者)についても、「そうした存在を正面からとらえて保護・保障を与えることを考えるべき」とする。労働契約法との関係はあまり触れられていなかったが、賛否いろいろ考えさせる内容だった。

 8章は「労働組合と法」。労働組合の(もっと広く労働法における)個人と集団の問題は西谷先生の自己決定論からも関心の高いテーマであると推察されるが、その到達点が簡潔に示されている。その結論部分は、「個人と集団が『自律にもとづく連帯』の形で結合しなければならない」ということである。労働組合の歴史的成り立ちや法的位置づけ、日本の組合状況なども概観してのこの考察は今後の労働組合運動の方向性を考える上でも重要である。「ユニオン・ショップにもとづく企業別組合に発展の展望を見出すのは容易でない」、「地域ユニオンには、…『連帯』の精神が育ちにくい」など論争的な言及もあり、明示はされていないが一つの方向性を示しているようにも読める。

 9章から11章は労働法の解釈や裁判に関する問題である。学説の実務重視の風潮、利益衡量論の隆盛、労働判例の一貫した方法の欠如など、理論的・法的基礎を欠き、首尾一貫しない法解釈のあり方についての批判と考え方が述べられている。労働者保護規制の貧弱さ(労働法における立法の消極性)を補うという側面もあるが、最近の解釈のあり方として、一方では法律の形式的な解釈を貫き、他方では法律の文言を逸脱した目的論的解釈を行い、いずれも労働者保護を拒否する裁判例が続出している状況は「本当にひどいよな」と思ってしまう(p.283~292)。こうした判例・学説の現状、またこうした実務に振り回されている労働組合や労働弁護士の現状が、先生が本書を書かれた動機なのではないかとも思う。

 元にもどって1章から6章は、こうした労働法をめぐる現状を踏まえて、「労働法の基礎構造を解明し、かつ労働法がいかに変わろうとも守らなければならない基本的な価値と原則を明らかにする」(はしがき)ために設けられた諸章といえる(特に4章と6章)。そう読めば、ラートブルフもまた重要なのかも知れない。

法律文化社 2016年6月発行
A5版354頁 定価4000円+税

書籍紹介 『自治体職員の働く権利Q&A』と『新基本法コンメンタール地方公務員法』

弁護士 大江 洋一

4月に相次いで地方公務員の法律関係についての書籍が刊行された。どちらも日本評論社による出版であるが、一つは、自治労連弁護団のメンバーである弁護士たちの手になるものであり、もう一つは研究者による執筆である。

自治労連弁護団は平成6年に結成されているが、その前史として、労働戦線の統一を巡っての労労間の熾烈な「組合費裁判」を通じて、事件に関わった全国の弁護士たちの交流と連携があり、自治労連の結成とともに、その繋がりをもとに生まれ、発展してきたものである。その意味では、まさに、自治体労働者の権利擁護の第一線の実践部隊と言ってよい専門家集団である。

私もその末席をけがした一人であるが、結成の当時も『自治体労働者の権利』というような表題で類似のものをつくった記憶がある。しかし、当時の時宜に適ったものではあったが、パンフレットというのが相応しい体裁と中身であった。

ところが今回は、れっきとした出版社からの書籍である。自治労連弁護団が、広く社会的な存在として認知されたことを示すものと言ってよかろう。内容的にも、まさに今、職場で様々に問題化している実践的な項目が広く取り上げられており、検討すべき問題点を平易に示し、判例・学説・実例等を偏りなく引用して現状の到達点を明らかにしつつ、今後の方向性についても示す努力をしている。

個々の論稿には執筆者の名がない。これは、まず全体討議が尽くされ、個々の原稿について、編集にあたった者が全体に十分目を通して、偏りがないかをかなり厳しくチェックしたことが窺える。文字通り弁護団が集団責任でその叡智を集めたものと言ってよい。
労働者や労働組合幹部などにとってのみならず、弁護士にとっても、検討の指針と解決の方向性を探る上では、この本が極めて有益であり、是非推奨したい。

あわせて、より突っ込んだ検討を希望されるときは、後者の『コンメンタール』と一緒に活用されることをお勧めしたい。こちらはそれぞれの問題について精通した研究者の執筆であり、理論的要請にも十分こたえるものであって、この両書が相まって地方公務員法を正確かつ遺漏なく学ぶことができる。

現業・非現業・特別職・期限付き職員や臨時職員など地方公務員法制は錯綜しているが、編者の西谷先生が、スマートに整理されており、私のもやもやを吹き飛ばしてくれた。継受したドイツ法には無いこの混乱が、正されるどころか悪乗りされていることに対しての憤りがひしひしと感じられる。「抜本的な発想の転換」によって「労働法と行政法の統一」を図る課題が、今後を担う後輩たちに託されたと言えよう。

『企業誘致の闇 ―住民訴訟6年―大阪・堺市のシャープ誘致にみる問題点の分析と提言』を発行しました

弁護士 牧  亮太

 シャープに対する大阪府・堺市の公金支出差止(10年間にわたり、大阪府は補助金262億円を支出し、堺市は184億円の減税を行うことへの差止を求める)訴訟は、2009年7月の訴訟提訴から6年以上が経過しました。2016年1月に尋問を終え、佳境を迎えています。

このタイミングで、シャープへの公金支出差止の住民訴訟と運動を記したブックレット『企業誘致の闇』が発行されました。ブックレットでは、この6年に及ぶ訴訟の内容のみならず、シャープ工場誘致が決まった当時の各地域での多額の補助金を使った誘致合戦とその失敗の模様や、地域経済の発展を大企業誘致に頼ることの誤りが明らかになった今でも総合型リゾート(IR、カジノ)を誘致しようとする大阪の問題にも言及しています。

ブックレットを手にしていただく前に、この住民訴訟の特徴についてお伝えさせていただきます。
本訴訟の最大の特色は、2009年7月の提訴(住民監査請求は2009年4月)以降、シャープ工場誘致を正当化する根拠としての「公益上の必要性」がなかったことが次々と明らかになったことです。
この6年間のシャープの凋落は、改めて述べるまでもなく、多額の公金が流れている「シャープ工場」も今や、実質的には台湾資本である鴻海の所有となっています。また、大阪府も堺市も企業を立地するための条例を改正し(大阪府は、補助金の交付対象を1企業ではなく、1地域に変更。堺市は、減税期間を  年から5年に制限。)、企業誘致に多額の税金をつぎ込んだ自治体(三重県亀山市、兵庫県尼崎市・姫路市)では工場閉鎖が相次ぎ、企業が自治体に補助金を返還する事態も起きています。
そして、最も重要なことは、大阪府・堺市が多額の公金を支出する根拠として掲げた「経済的波及効果(シャープを誘致すれば、府民・市民にも経済的な効果が及び、それが公益に資するという意味)」が全く明らかにされていないことです。シャープ工場は訴訟をしている6年間も稼働し続けているわけですから、液晶パネルを作成するための労働者の雇用、材料の仕入れ、パネルの出荷等、どのように地元の企業に恩恵があり、府民・市民が経済的に恩恵を受けたのか、本来であれば明らかにできるはずです。
しかし、訴訟がはじまり6年以上経過した今も全く明らかにされていません。
上記で述べた明らかになった事実は、決して結果論ではありません。私たちは、一企業に膨大な税金をつぎこみ、優遇することの危険性を6年前から指摘しており、その指摘が正しかったことが時の経過とともに明らかとなったのです。

訴訟の内容を知り、結果にご期待いただくとともに、今後の地域経済やまちづくり、企業誘致のあり方を改めて考えるという意味でも、是非、本ブックレットを読んで下さい
ブックレットは、定価600円ですが、民法協会員の方は500円で購入していただけます。購入希望をされる方は、堺総合法律事務所までご連絡ください(電話:072―221―0016) 。

大川真郎 著 『裁判に尊厳を懸ける 勇気ある人びとの軌跡』

弁護士 宇賀神   直

 人が困難な裁判に臨むとき、試されるのは信念、勇気、忍耐、すなわち人間性である。事件の当事者はいかにして裁判を乗り越えるのか。その思いから大川真郎弁護士は自分が担当した事件から当事者らの知られざる素顔を描き出す思いで7つの裁判の当事者の闘いを書いています。私の読後感ではその思いは達成されています。

 その7つの裁判は、第1話 権力犯罪とたたかった二人の青年―和歌山大学生「公務執行妨害」事件。第2話 守り抜いた憲法の理念―杉山弁護士接見妨害。第3話 暴力から議会制民主主義を守った市議―斎藤八尾市議会議員除名事件。第4話 私たちに青空を―四日市公害訴訟。第5話 それでも私は働き続けたい―日本シェ―リング労働裁判。第6話 『嘘構の嵐』に立ち向かった医師―近畿大学「医療過誤」裁判。第7話 美しい島を後世に―豊島産業廃棄物不法投棄事件。

 この7つの裁判のどれもが裁判本人の苦労と奮闘の足跡が事実に裏付けられて書かれております。民法協の会員には是非とも読んで欲しいと思うのですが、私が特に奨めたいのは第5話の日本シェ―リングの労働裁判闘争です。この会社と労働者、労働組合ではあらゆる不当労働行為と権利侵害の手本がある、と言う、会社から攻撃を受けた労働組合と労働者が20年間も永きに亘り闘い東京地裁(中労委命令に対する会社の取消訴訟)で全面的な解決の和解が成立した。この  年の闘いを振りかえり、その間の単組と上部団体、そして弁護団との時には厳しい遣り取りが書かれています。特に組合員の1人1人が厳しい中での宣伝活動、会社への抗議・申入れ活動などが書かれています。読めば沢山の知恵が付きそれとやる気が起きます。

 大川弁護士は民法協で活動し、労働事件の裁判闘争で頑張り大きな成果を挙げ、その後、国際法律家協会の活動に、そして弁護士会の活動に足を入れて力を出し、日弁連の事務総長、日本司法支援センタ―の常務理事に就きそれをやり遂げて現在に至っています。私は「裁判に尊厳を懸ける」を読んで以前の大川弁護士を思い出しました。

 この本は大川、村松、坂本法律事務所で手にすることが出来ます。
 1700円を1500円で
 電話06―6361―0309

発行 日本評論社
定価 1700円+税

書籍紹介 伍賀一道 著『「非正規大国」日本の雇用と労働』

評者:働き方ASU―NET副代表理事 川 西 玲 子

 本書は昨年10月末に出版されて早くも2刷となっていることからも、まさに待たれていた書であることが覗える。私自身も非正規問題を周辺問題でなく主人公として解明してくれるこのような本を待っていた。派遣村から6年を経て非正規雇用のいまはどうなっているのか。冒頭5人の非正規労働者の実態を示しながら、非正規雇用と一口に言ってもその実像はいかに多様な状況にあるのかをまず明らかにしている。その上で過去30年間の雇用と働き方・働かせ方の実態を踏まえて、その問題点と改革すべき課題を示している。

第1章では日本が「非正規大国」になる過程で、雇用と働き方・働かせ方にどのような変化があり、どのような問題が起こったのか、伍賀氏作成のいつものわかりやすい関係図で明快に全体の姿を写し出している。第2章では雇用形態の変化と非正規雇用の働き方のリスクについて解明している。就業者と失業者の中間的存在としての「半失業」の矛盾に満ちた存在を、マルクスの時代には見られなかった新たなタイプの「相対的過剰人口」であるとしている。第3章では非正規の中でも最も問題を抱える間接雇用に焦点を当て、その構造を原理的に考察している。そして多国籍企業や金融資本が中心の現代資本主義システムのもとでは、もはや労働者に安定した雇用を提供する力を失い、半失業でしか雇用を用意できなくなっている。しかもこの「半失業」の人々を利潤確保の手段として利用し、さらに政府は構造改革や規制緩和で後押ししてきた、とするその構造解説は大変わかりやすい。第5章では、非正規雇用の戦後史をたどりながら、その歴史的変遷と今日の要因を探り、7・8章では小泉政権と第1次、第2次安倍政権の構造改革が雇用の劣化と働き方の貧困をより促進し、デフレからの脱却を困難にし、持続可能な社会を損なうリスクがあることを指摘している。そして、終章ではどのようにして現状を転換するのか、そのポイントはどこにあるのかとして、①ディーセントワーク、②労働基準の明確化、③雇用を増やす政策、④失業時の生活保障の4つの項目を上げ具体的に提起している。詳細な現状分析は打開する方策を考えるためにこそあるとする氏の姿勢が終章に熱く込められていると感じた。

本書の特徴は伍賀氏のこれまでの緻密なデーターを積み上げて検証していく専門書的な著作とは趣を異にして、簡潔かつ分かりやすく各章がまとめられている。問題点を一目瞭然に検証しているグラフや表の文字も大きく、私のような年齢・不勉強でも大変読みやすく、また構成も理解しやすいように工夫されていてありがたかった。労働者・労働組合の方にも是非お勧めしたい。
ASU―NETでは昨年から本書を5回にわたって森岡ゼミで取り上げて学習してきたが、最終回には伍賀氏も参加して下さり、学者・研究者の参加も多く、時間を大幅に超過する熱心な議論が行われた。改めて“非正規大国日本“を解明し全力で取り組むべき課題となっていることを実感した。

発行 新日本出版社
定価 2700円+税

書籍紹介 渡辺輝人著『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか? ナベテル弁護士が教える残業代のカラクリ』

弁護士 井 上 めぐみ

 ワタミと日銀。共通点の見えない二つに企業の名前が並ぶインパクトのある表題に引き込まれます。しかし、その一方で、ワタミという言葉がブラック企業に繋がるイメージを持っていることは皆様の脳裏に浮かぶのではないでしょうか。

 本書は、労働者側の立場で賃金請求のみならず広く労働事件を扱っておられる民法協会員である渡辺輝人弁護士(京都第一法律事務所所属、日本労働弁護団常任幹事、過労死弁護団全国連絡会所属)がすべての労働者が自分の身を守ることができるようにと願って書かれた労働者の立場からの本です。筆者は、この本の性格を一言で表すなら「残業代を軸に会社と社会を分析し、権利行使するための本」であると述べています。労働者が賃金や残業代の仕組みを知らずに、外形的に表れる数字に騙されて何も言わずに勤務を続けていることこそが、結果的にブラック企業なるものを生み出す大きな原因となります。何と言っても分かりやすいのが特徴であり、あっという間に読み終えることのできる1冊です。コラムを挿入したり、押絵や表の記載等視覚的な点にも配慮をしたりと、全180頁ほどの中に読み手に分かりやすく伝えたいという筆者の思いが詰まっています。

 内容としては、「残業とは何なのか」いう基本的な事項から始まり、残業代の支払い方から会社や社会が見えること、就職活動を行う際から賃金や残業代の仕組みについての知識を有しているか否かによりブラック企業への就職を回避できるか否かが決まること等、働く者すべてが知っておくべき事項が記載されています。また、実際に労働者が未払いの残業代請求を行う場合に意識すべきことや、実際に残業代請求にするためにどのような証拠を日々集めておくべきかを具体例を挙げて記載されています。さらに、弁護士であっても難しいと感じる残業代の計算方法についてもわかりやすく説明がされています。巻末資料の中には、労働相談窓口一覧や全国労働弁護団員所属事務所一覧も記載されており、労働者がいざという時にいつでも相談できる場所を知ることができます。

 現在、民法協では、「ブラック企業対策! 労働判例ゼミ」を月1回のペースで開催しています。主に  期代の若手弁護士が中心になり、毎回様々なブラック企業に関する労働判例の検討を行っています。
 例えば、ブラック企業でよくみられる固定残業代については、判例上、それが有効と認められるには
 ①実質的に見て、その定額手当が残業代としての性格を有していること
 ②定額手当(残業代部分)とそれ以外の賃金部分とか明確に区別できること
 ③固定分を上回る残業があった場合には、当然、上回る部分について残業代が支払われなければならないこと
という要件を満たす必要があります。また、テックジャパン事件(最高裁H  ・3・8判決)における補足意見では、「便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば  時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、①その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に、②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。③さらには  時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。」と述べられています。

 このように、固定残業代が認められるためには、判例上厳格な要件を満たすことが求められていますが、実際にこのような要件を満たした上で固定残業代が支払われていることは皆無です。このような現実を労働者が認識し、声を上げることが必要なのです。

 残業代をきちんと支払わないという会社の体質は、固定残業代という形で多くの賃金を支払っているように見せかけ、労働者を長時間使うことを前提にしていることを示します。本書は、弱い立場にある労働者が日々自己の働き方を意識し、きちんと声を上げることが当たり前の社会にしたい、その結果として過労死やブラック企業が一掃されていってほしいという著者の強い願いが込められています。すべての人が手元に置いておくべき1冊です。

書籍紹介 萬井隆令著『人間らしく働き生きる 労働者・労働組合の権利』

弁護士 宮 本 亜 紀

 民法協会長の萬井隆令先生のご著書『人間らしく働き生きる 労働者・労働組合の権利』が昨年  月に発行されています。私は、龍谷大学法科大学院にて萬井先生から労働法と労働弁護士をめざす気概の教えを受けました。国労闘争など労働運動の現場で直に聞いて見た事実から、労働法の本質と解釈論を生き生きと教えていただいた日々を思い出しながら、読ませていただきましたのでご紹介します。

 まず、本書は、労働運動に携わっている方々に、大変読みやすく書かれていると思いました。167頁のコンパクトさ(薄さ)でありながら、労働団体法・労働者保護法の論点を体系的に網羅して、最高裁判例から最近の裁判例まで丁寧に説明されています。ちょっとした具体例があってイメージを掴みやすく、欄外の注釈等の細かい説明がないので読み通しやすいのです。末尾の関連法規ですぐに参照でき、判例や行政通達が引用されていて必要あれば手掛かりにして調べることもできます。流行のブラック企業対処法などのハウツーではなく、目次を見ても、労働法の分厚い教科書のような体系的論点が挙がっていますが、それらが平易な言葉で短くまとめられて、忙しい中で労働法を学ぶには最適です。

 そして、解釈に対立がある論点について、憲法と労働法の本来の意義から解けば、最高裁や一部の学者の解釈論では理屈が通らない、労働者の生存権保障の観点から実態に即して構成すれば、こうあるべきとの萬井先生の理論が明快で、労働運動に自信が持てると思います。

 さらに、安倍政権と労働法制改革についても補論を設けて、残業代ゼロ法案、雇用特区構想、派遣法改悪などの内容解説だけでなく、労働政策審議会を無視し、厚労省の意見も聞かずに暴走する安倍政権の危険な情勢も告発されています。

 そして、本書は、労働運動にまだ踏み入れていない人達にも広げていただきたいと思いました。本書の題名は、いたってシンプルな「人間らしく働き生きる」です。働けど働けど…と息が詰まる日常に、「人間らしく」って何だろうと改めて考え、基本的人権を定める憲法と、経済力において劣位にある労働者が団結して労働契約を改善させることが認められた労働組合法、最低限度の個々の労働者保護が定められた労働基準法等の価値に気付かされます。

 安倍首相が2014年1月世界経済フォーラムで、労働者の権利を「既得権益」、労働法を「岩盤規制」として自らドリルとなって破壊すると言明して暴走する今こそ、「なぜ労働法が生まれたのか」「労働法は何を規制(保護)しているのか」を学ぶことは重要です。人間らしく働き生きたいすべての労働者に、戦前の命をも掛けた闘いが労働者の権利として確立し、戦後70年近く血と汗と涙で維持し拡充してきた労働法の内容を知り、労働者としての確信を持って労働運動に足を踏み入れるための絶好の書です。

 本書のプロローグでは、経営に必死で残業代割増も知らない小さな町工場の社長や、悪知恵で労働法をかいくぐるブラック企業や、労働法を守らず済ませたい大企業等が入り交じる世の中であること、経営者は労働者のささいな要望でさえ頑なに聞き入れず、引き下がらない労働者に圧力をかけ続けてきたこと、労働者が声を上げるには多大な苦労が伴うけれど、自らと家族の健康や生活を守るために労働運動が「権利のための闘争」として必要なことが、労働者の心情に寄り添って丁寧に説かれており、ふと「人間らしさって何だろう」と立ち止まった人達の心に響くと思うのです。

2014年11月10日
学習の友社 発行
定価 1600円+税

書籍紹介 前澤檀著『あなたと家族は大丈夫? ブラック企業に泣き寝入りしないための労働相談Q&A』

弁護士 中 森 俊 久

 民法協会員である前澤檀さん(東京地評 東京労働相談センター所長)が書かれた著書をご紹介します。
 本書は、「パートⅠ トラブルは、法律でこう解決できる」「パートⅡ しゃべり場 労働組合って一人でも入れる?」「パートⅢ 労働組合これまで・これから」の3部構成に分かれている。大部分の頁数をパートⅠが占めており、労働に関する様々な疑問につき、Q&Aで回答している。何と言っても分かりやすいのが特徴で、実践の場で直ぐにでも役に立つツールといえる。筆者によると、前著「すぐに役立つ 元気の出る労働相談 一問一答」の活用・実績を踏まえ、ブラック状態の下で苦しむ多くの当事者とそのご家族および関係者、さらにこの問題に取り組まれる全国の多数の労働相談担当やオルグの方、これに連帯される法律家、さらに学生や生徒の補助テキストとして、多年の労働相談と労使交渉の実践の中からの、時機に合った情報を届け、問題解決への一助としたいと考えたとのことである。
 私としては、上記の「多年の労働相談と労使交渉の実践の中からの情報」に大きな魅力を覚える。また、単なるQ&Aだけではなく、言葉の定義や条文を明記したり、コラム等の形で実は重要な情報をちりばめ、挿絵や表の掲載など視覚的な点にも配慮した本書の随所からは、読み手の立場に立って、実践を分かりやすく「形」として伝えようとする著者の思いが伝わってくる。そして、その思いの根底には、日々寄せられる切実な労働問題を可能な限り解決し、弱い立場にある労働者の労働環境を少しでも改善したいとのひたむきな願いを感じる。さらには、「ロウドウクミアイのこと、もう少しくわしく教えてくれますか?」「うちには、組合があるみたいなんだけど、非正規の私には関係ないみたい。」というような会話から、労働組合の意義を伝えるとともに、最後には、その歴史的経緯を簡潔かつ正確に伝え、今後の展開にも触れる本書の斬新な進行によって、労働者の権利の実現における労働組合の役割の重要性が浮き彫りにされている。
 本書は、私でさえも最初から最後まで一気に読める大変工夫された書籍であり、労働者の権利ないし労働組合の基本的な理解を深めることはもちろん、長年の経験から裏打ちされた実践を肌で感じることができる貴重な内容となっている。具体的な相談先もリスト化されており、一冊手元に置いておくことをお勧めする次第である。

2014年10月10日
学習の友社 発行
定価 1100円+税
*民法協でお求めいただけます

書籍紹介『労働審判を使いこなそう! 典型事例から派遣・偽装請負まで』

弁護士 西 川 大 史

1 はじめに

2014年8月に、「労働審判を使いこなそう!」(伊藤幹郎・後藤潤一郎・村田浩治・佐々木亮各弁護士著、エイデル研究所)が発行されました。
労働審判の申立件数が年々増加する傾向にある中、労働審判手続の解説など入門書的な書籍が多く発行されていますが、本書は実践的な内容であり、労働者側弁護士や労働組合の活動家にとっては必読の一冊です。

2 書籍の特徴

まず、本書では、解雇や残業代請求などの典型的な類型から、ハラスメントや派遣労働などの複雑な類型まで網羅しており、それぞれの事件類型ごとの留意点やポイントが記されています。また、巻末には著者がこれまでに扱った全222件の労働審判事例の一覧が掲載されていることも本書の大きな特徴の一つです。労働審判の解決事例は法律雑誌等にも掲載されることが少なく、どのような事案について労働審判手続を選択したのか、各事件の解決水準などがあまり明らかではありません。これだけ多くの解決事例が掲載されている書籍はまずありません。

また、本書では、第1回審判期日に当たっての留意点なども詳しく記されています。近時の労働審判手続では、審判委員会が第1回期日で心証をとり、第1回期日から調停が始まることも多いというのが実情です。そのため、本書で述べられている「第1回審判期日が「勝負」と知るべし。とにかく第1回期日が勝負の日だということを肝に銘じて臨むこと」は、代理人弁護士としての準備、心構えの大切さを改めて痛感する内容であり、そのために必要な準備や心構えが詳しく記されています。

3 著者による座談会

本書の第5章では、4人の著者による座談会が掲載されています。申立時や期日における留意点、申立書のボリューム、陳述書や証拠説明書の活用方法、解決金の水準、労働審判にふさわしい事案などについて本音で討論されており、労働審判の魅力や課題が分かりやすく語られています。
代理人として直面する日頃の労働審判における悩みのほぼすべてがこの座談会に凝縮されているように思います。この座談会は、手続の選択や、事件の見通し、解決金の提案など、労働審判手続全般で悩んだとき、迷ったときなどのバイブルとなるものでしょう。

4 さいごに

著者の一人である後藤潤一郎弁護士は、「おわりに」において、労働審判は、これまで裁判官主導で行われてきた労働裁判とは異なり、「申立側が土俵を設定し、そこでどのような相撲が展開されるか、どのような軍配が下されるかを予測して行う手続きなので、解決の満足度は申立代理人の手続法的、実体法的力量に大きく依存することになるのです。」と述べられています。
早期に労働者の勝利的解決を勝ち取るために労働審判を有効に活用し、労働審判をより利用しやすく満足いく制度とするためには、まさに私たち申立人側(本人、組合、代理人)の努力と力量によります。本書は、私たちの力量を磨くための最大のツールとなるものです。是非ご一読下さい。

2014年8月18日
エイデル研究所 発行
定価 2700円
民法協で少しお安くお求めいただけます。

書籍紹介 『これでいいのか 自治体アウトソーシング』城塚健之・尾林芳匡・森裕之・山口真美 編著

 弁護士 谷   真 介

 「公務の民間委託」や「指定管理者制度」といった自治体業務のアウトソーシング(外部化・民間化)に関する問題は、私たち民法協会員(自治体労働組合の方を除く)にとってすら、とっつきにくいとの印象を受ける分野であると思います。マスコミでは、「人件費が高く無駄の多い行政は民間を見習え」とばかりにこれを後押しする論調がほとんどです。負の側面については、「官製ワーキング・プア」として、その担い手の貧困化が単発的に取り上げられたくらいで、本体の自治体アウトソーシングそのものが、私たちの身近な暮らしに直結する問題であると認識するに至っていないのが、現状です。

 著者・編者の一人である城塚健之弁護士は、担当された「第一章 自治体アウトソーシングの現段階と自治体の課題」を次のように締めくくっています。「公務の市場化をめぐる問題は、自治体労働者や、福祉サービスを受けている人だけの問題ではありません。それは、私たちがどのような社会を築いていくのかという根幹に関わる問題なのです。」
 本書を読み進めるうち、その意味するところに、打ちのめされそうになります。

 本書では、私たちの暮らしそのものとして受けられるのが当たり前になっている、医療や保育、交通、水道、図書館、役所の窓口業務等のアウトソーシングが例にあげられています。例えば、お金のない人でも公平に医療を受けられること、どこに居住している人でも「足」として交通機関を利用できること、個人情報を侵されることなく安心して文化的な生活を送ることができること等、誰もが健やかに、また豊かに生きていくために、公平に受けられるべき行政サービスが、アウトソーシングという手法によって、企業の利潤追求の場として開放され、また拡大されようとしています。そこでは、企業の利潤が絶対的価値となり、住民の権利・生活は度外視されることになります。果たして、それでいいのでしょうか。「公共」「社会」とは、何でしょうか。

 いま安倍政権は、アベノミクス第三の矢として「成長戦略」を掲げ、「日本を世界一企業が活動しやすい国にする」と公言し、「岩盤」としてその妨げとなっているあらゆる規制を徹底的に緩和するとし、「国家戦略特区」を最大の目玉にすえるなど、これを加速度的に進めています。その一つとして、先ほどあげた医療や教育のほか、農業やその他の「公共」の分野を企業の利潤追求の場として開放し、誰もが公平に受けられるべき公共サービスを「商品化」しようとしているのです。

 本書では、安倍政権が加速度的にすすめている各政策について、全体に俯瞰して、またアウトソーシングし企業に開放しようとする分野ごとに、豊富なまた最新の情報を網羅し、これに的確な分析を加え、対峙する側が打ち出すべき方向性の示唆までなされています。この時期に、これだけ情報の質が高く、かつコンパクトにまとめられた著作は、ほかにないと断言できます。その意味でも、たくさんの方に、できるだけ早く手にとってお読みいただきたいです。また、本書を題材に、身近な暮らしの問題として「これでいいのか」と議論したり、また学習会を開催してほしいと思います。

 個人的には、(私のような)若手の弁護士にも、事件活動だけでなく(一生懸命事件活動に取り組むのは弁護士の基本ですが)、人権保障を具体化する「自治体」というものがどうあるべきかという、人権保障の最前線の問題として、この分野に一緒に取り組んでほしいと思います。そのきっかけとして、本書を手にとってもらえれば嬉しいです。どういう社会を築きたいかという問題として、ぜひ一緒に議論し、取り組んでみませんか。

2014年5月
自治体研究社
定価 1600円+税
民法協で少しお安くお求めいただけます。