学校法人追手門学院(懲戒解雇)事件勝利的和解の報告

2021年07月15日

弁護士 服部 崇博

1 大阪高等裁判所の和解勧告の内容

(1) 学校法人追手門学院(以下、「法人」といいます。)が落合正行心理学部教授(以下、「落合氏」といいます。)及び田中耕二郎経営学部教授(以下、「田中氏」といいます。)を懲戒解雇(以下「本件懲戒解雇」といいます。)したことは無効であるとして、両名が地位確認等を求めていた訴訟について、2021年3月24日、大阪高等裁判所第6民事部において、全面的勝利和解が成立しました。

(2) 和解の具体的な内容は,①法人は落合氏及び田中氏に対する本件懲戒解雇及び2019年3月13日到達の予備的普通解雇の意思表示を撤回する、②法人は、落合氏が2019年3月31日付けで定年退職するまで追手門学院大学心理学部教授の地位を有していたこと、③同じく、田中氏が2020年3月31日付けで定年退職するまで追手門学院大学経営学部教授の地位を有していたことを確認する、というものです。

2 訴訟提起と一審判決について

(1) 本件懲戒解雇は、トップダウン方式の大学運営を進める法人が、教学の自治と大学の民主的な運営を守ろうとする落合氏及び田中氏を排除するために行われたものです。

また、本件懲戒解雇は、そのほとんどが、外部に表れた落合氏及び田中氏の行為を問題とするものではなく、両氏のメールに表れた発言内容を問題としており、法人は両氏の「内心」を処罰しようとした点に本件の特質がありました。

(2) 2015年12月、落合氏及び田中氏は、本件懲戒解雇は違法であるとして、大阪地方裁判所に地位確認等を求める訴訟を提起し、2020年3月25日、大阪地裁第5民事部は、本件懲戒解雇は無効であるとの判決を言い渡しました。

一審判決は、関係者のメールのやりとりや出来事を時系列に沿って詳細に検討した上で、コーチが顧問のセクハラに憤りを覚え、自らの意思でセクハラ訴訟の提起等を行ったという事実を認定し、落合氏及び田中氏が「セクハラ訴訟の提起等を利用して、法人の名誉及び信用を毀損する行為を行った」という主要な懲戒事由は認めることができないと判断しました。そして、理事会等の議論の内容を部外者に伝えたことの一部は非違行為にあたるとしたものの、懲戒解雇処分及び法人が予備的に主張した普通解雇についても、これを無効とし、未払賃金及び賞与の支払いを命じました(労働法律旬報1964号44頁、労働判例1232号59頁)。

3 和解に至る経緯と大阪高等裁判所の和解勧告

(1) 控訴審において、法人は、大部な控訴理由書と新たなメールを書証として提出するなどして、落合氏及び田中氏が「共謀」していたことを印象づけようとしました。また、法人は法人の手もとにないメールについては、文書提出命令の申立てを行いました。これに対して、弁護団は、メールを丁寧に整理・分析し、法人の主張の矛盾を明らかにするとともに、文書提出命令の申立てについては、そもそも証拠調べの必要性はないし、探索的な文書提出命令申立てであると主張しました。

(2) このような主張立証のやり取りを経て、大阪高裁第6民事部から和解勧告がなされました。和解勧告において、裁判所は異例ともいえる前文を付し、「本件双方の主張と証拠に照らして色々と検討してみましたが、一審原告両名には一定の非違行為が認められるものの懲戒解雇の制裁を加えることまでは相当でないとする原審の判断は、十分に批判に耐えうるものだと思われました。」との見解を述べて、懲戒解雇が違法であるとの判断に立ち、その上で、「当事者双方が原審の判断を尊重して矛を収める時期にきているのではないでしょうか。退職金に関する紛争(注:訴訟の対象とはなっていない)を後に遺さない形で紛争の全面解決をすることは、一審原告両名にとっても大事なことだと思われます。」「一審被告には、教育者としての寛容さの視点にたっていただき、訴訟での勝ち負けにこだわって上告審まで訴訟を続けるという考えに終止符を打ち、本件の訴訟追行の結果を含めたこれまでの出来事をより良い大学運営を行うための経験知として蓄えることにするというのも悪い選択ではないと思われ、そういう選択をするのに丁度良い時期であるようにも思われます。」として、上記内容の和解を勧告しました。

(3) 落合氏、田中氏及び弁護団は、大阪高裁の和解案について何度も会議を重ね、熟議のうえ、最終的に大阪高裁の和解勧告を受け入れ、和解することにしました。

大阪高裁の和解勧告は、本件懲戒解雇処分及び普通解雇が無効であることを前提にしており、1審勝利判決を基礎とした全面勝利和解であるといえます。

(弁護団は、戸谷茂樹、豊川義明、城塚健之、河村学、遠地靖志、楠晋一、服部崇博)