民主法律時報

豊中郵便局パワハラ事件提訴~泣き寝入りしないための訴え提起~

弁護士 伊賀 友介

1 はじめに

2021年4月26日、非正規の郵便局職員が、日本郵便株式会社と当時の上司二人(局長、部長)を被告として、パワーハラスメント行為に対する損害賠償等を求めて大阪地裁に提訴した。本件は、正規労働者である上司の非正規労働者である部下に対するパワハラ事件である。職場における地位が不安定な非正規労働者は、理不尽な状況でも受け入れざるを得ないことも多いと思われるが、原告は、このような泣き寝入りは嫌だという気持ちで、本件訴えを提起した。

2 事案の概要

新型コロナによる緊急事態宣言が出されていた昨年5月頃、原告の職場である豊中郵便局においてもマスク着用が指示されていた。原告は、ひどい花粉症であるとの自覚があり(最近医師にぜんそくの可能性も指摘されている)、マスク着用による業務遂行が非常に息苦しいと感じていたことから、上司である被告部長にその旨伝えていた。しかし、被告部長は、何ら聞く耳を持たず、「マスクも付けられないなら、仕事を辞めろ。退職届を書け。」などと言うだけであった。このことから原告はマスクを着けて仕事をしていたが、約1週間後には、仕事中に倒れて2時間ほど意識を失うという事態が起きた(事後的に、医師から低酸素脳症と診断されマスク着用を禁止されている)。このような状況があっても、被告部長は、原告との話合いの場を設けるなどの対応をせず、ただ「マスクを着けろ」などとそれまでと同様の発言をし、原告の存在を無視するかのような態度をとり続けた。

同年11月には、原告の私物がなくなり、その後被告部長の机の引き出しから見つかるということがあった(当初被告部長は知らないと言っていた)。その時、原告は被告部長に対して「お前」という言葉を使ったところ、後日、被告部長は、「暴言」を理由に原告を減給にしたなどと脅した(実際は減給の事実はなかった)。

この間、被告局長は、原告から直接被告部長の問題行為を申告されていたにもかかわらず、何ら具体的な対応をしなかった。

その後、原告は、長期間にわたるストレスの蓄積により、同年12月から2か月間休職した。2021年1月末には復職可能の診断書が出たが、郵便局側はさらに休業の診断書をとれなどと言って、原告の復職を認めなかった。

3 パワハラ該当性

本件で、マスク着用の問題はパワハラ事件のきっかけに過ぎない。

被告部長は、原告からマスク着用による業務遂行が困難であることを伝えられていたのであるから、代替手段の有無等を話し合うなど、管理者として適切に対応すべきであった。それにもかかわらず、退職を求める発言を執拗に繰り返し、私物隠匿や虚偽を述べて脅すなどした。被告部長は、特に、原告の所属部署の労働者(非正規)に対しては、以前から存在を無視するかのような態度をとっていた。

このような一連の言動等は、非正規労働者に対して一方的に非があると決めつけ、長期間にわたって職場から排除しようと迫るものといえ、上司として、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動、行動であって、労働者に精神的苦痛を与えるものであることは明らかといえる。

4 被告会社(日本郵便株式会社)の対応

被告会社は、現在もパワハラの存在を認めていない。そればかりか、原告の復職を遅らせ、自ら退職することで問題がうやむやになることを期待した(なお、原告は未払賃金請求も行っている)。この点は、原告所属の労働組合も強く抗議し、「~とくに、労働組合として看過できないことは、労働組合からのパワハラ謝罪要求に対して回答を引き延ばしたあげく、回答を履行せず郵便局長、郵便部長が転勤してしまったことである。パワハラを調査すらせず放置し、あげくは当事者が転勤しうやむやにせんとしていることを断じて容認することはできない。」との意思表明をしている。

5 おわりに

改正労働施策総合推進法では、パワハラ防止措置等を講ずる義務が定められた。本件訴訟が、被告会社における実効性のあるパワハラ防止措置等の実現に向けた一つの契機となればと考えている。

(担当弁護士は、藤木邦顕弁護士及び伊賀。本稿は私個人の所感である。)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP