直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達情報公開請求訴訟について

2020年07月15日

弁護士 冨田 真平

 2020年6月16日に、谷真介事務局長が自ら原告となり、大阪地裁に直接雇用申込みみなし制度に係る助言等(派遣法40条の8)に関する内部通達の情報公開請求訴訟を提起しました。

1 直接雇用申込みみなし制度の施行とこれに係る労働局の助言等の制度

2015年10月1日、いわゆる偽装請負等の派遣法違反があった場合に、派遣先(偽装請負の場合は発注者)が派遣労働者に直接雇用を申し込んだとみなす(したがって、派遣労働者が承諾すれば直接雇用が実現する)直接雇用申込みみなし制度(派遣法40条の6)が施行されました。

この制度は、リーマンショック時の大量の派遣切りなどを受けて、民主党政権時代に行われた2012年の派遣法改正の際にできた制度です。そして、この制度創設にあたっては、厚生労働大臣(都道府県労働局)が、労働者の求めに応じて、労働者に対し同制度の対象になるかどうか必要な助言を行い、さらに労働者が承諾を行った場合にこれを就労させない派遣先の企業に対し、指導・勧告を行うことができるとの規定も定められました(派遣法40条の8)。

一般の派遣労働者が、自身が直接雇用申込みみなし制度の対象となっているか把握することは極めて困難であり、また仮にその可能性を認識できたとしても、訴訟を提起することに躊躇する方は少なくありません。そこで、労働局がこのような助言、勧告・指導を積極的に行うことで直接雇用が実現されることが期待されました。

2 施行後の労働局の消極的な姿勢

しかし、直接雇用申込みみなし制度が施行された後、民法協や非正規労働者の権利実現全国会議(非正規会議)の弁護士が関与した事案(東リ事件、全港湾名古屋事件など)で、これまで積極的に調査や是正指導等がなされていた違法な偽装請負等について、従前と異なり、都道府県労働局が偽装請負の認定や指導について、指導を行わなかったり、あるいはそもそも調査自体を十分に行わないなど極めて消極的な態度をとることが続きました。

その後、当事者や弁護団から担当労働局への要請などを行い、また厚労省の担当課において、上記労働局の対応を踏まえた、都道府県労働局における偽装請負事案等の調査・指導のあり方についてのヒアリングの機会も設けられました。しかし、厚生労働省と各都道府県労働局の説明が食い違い、労働局の説明も同ヒアリングの前後などで二転三転するなどの事態となり、当事者及び弁護団と労働局のやりとりが繰り返されるも、結局上記のような消極的な姿勢が改めることはありませんでした。

3 情報公開請求と内部通達・マニュアルの存在の発覚

上記のような労働行政の変わりように触れ、すでに公開されている通達や取扱要領等の行政文書のほかに何か労働局を消極的にさせる文書があるのではないかと考え、2019年12月、厚生労働省及び大阪労働局に対し、谷弁護士が内部文書の情報公開請求をしたところ、厚労省内に大量・詳細な指導監督マニュアル(取扱厳重注意)や派遣法 条の8に関する直接雇用申込みみなし制度に関する内部通達(部内限)が存在することが判明しました。しかも内部通達については、上記東リ事件や全港湾名古屋事件での厚労省・労働局とのやりとり等の直後に改正されていたことがわかりました。

しかしながら、これらの開示文書は、ほとんどの部分が「開示されると監督対象となる事業者が対策をとり適正な監督が行われなく恐れがある」という理由で不開示(マスキング)とされました。

そこで、この内部通達の不開示部分について、その不開示決定は違法であるとして、大阪地裁に対し、情報公開を求める訴訟を提起することとなりました(なお指導監督マニュアルについても、行政不服手続である審査請求を行っています)。

4 適正な労働行政実現のために

直接雇用申込みみなし制度については、施行後ほとんど活用されていない状態にあり、その大きな原因の一つに都道府県労働局による上記のような消極的な姿勢があります。

そして、その背景には、上記通達やマニュアルの存在があるのではないかとの疑いがあります。したがって、直接雇用申込みみなし制度に関する不適正な労働行政をただし、適正な労働行政を実現するためには、まずはこの厚生労働省の通達の内容を明らかにすることが極めて重要であると考えております。

皆様も引き続きこの訴訟にご注目いただければ幸いです。

(原告は谷真介弁護士、弁護団は村田浩治、河村学、大西克彦、安原邦博、佐久間ひろみ、西川翔大各弁護士と筆者)