民主法律時報

安倍内閣の規制緩和=雇用破壊の企みを再び打ち破ろう

事務局長 増 田   尚

 昨年12月に発足した安倍内閣は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を柱とする「アベノミクス」を推進することを掲げた。しかし、どれだけ貨幣供給量を増やし、あるいは、相場が好況を呈しても、賃金などにより労働者に分配されなければ、見せかけだけのバブル景気に終わるであろう。安倍内閣は、大企業に賃上げを要求するなどのポーズはとるものの、他方で、安定した雇用を破壊する雇用分野の規制緩和をまたぞろ推し進めようとしている。
 安倍内閣は、民主党政権下で廃止・格下げになっていた経済財政諮問会議、規制改革会議を「復活」させ、また、新設の日本経済再生本部のもとに産業競争力会議を設置して、これら3つの機関で、雇用分野における規制緩和を検討させている。

 経済財政諮問会議では、2月5日の会議で、佐々木則夫・東芝代表取締役(6月から日本経団連副会長に就任予定)ほか民間有識者議員が「雇用と所得の増大に向けて」とのペーパーを提出した。ここでは、規制改革会議に対する注文として、「多元的な雇用システム」や、ハローワークの民間開放などに加えて、「事業・産業構造転換に伴う労働移動等に対応するため、退職に関するマネジメントの在り方について総合的な観点から整理す」ることが挙げられた。昨今のリストラで整理解雇規制の脱法として行われている「追い出し部屋」等の違法な退職強要への批判を念頭に置いてのものである。

 これを受けて、規制改革会議は、2月15日の会議で、「これまでに提起されている課題の代表例」とのペーパーが配布され、様々な規制緩和政策が打ち出されたが、雇用の分野では、労働時間規制の緩和、派遣における規制緩和、職業紹介事業の緩和、解雇規制の緩和が取り上げられた。ホワイトカラー・エグゼンプションや解雇の「金銭解決」制度など、かつて第1次安倍政権が導入できなかった雇用規制の破壊策を持ち出した。これらの規制緩和策は、雇用ワーキンググループ(座長:鶴光太郎・慶應義塾大学大学院商学研究科教授)で検討されることになり、3月8日の会議で、「勤務地や職務が限定された労働者の雇用に係るルール」(いわゆる第二正社員)や職業紹介事業の見直しが優先的に検討すべき項目とされた。

 さらに、産業競争力会議は、3月15日の会議で、テーマ別会合主査を務める長谷川閑史・経済同友会代表幹事が、「人材力強化・雇用制度改革について」と題するペーパーを提出し、雇用の流動化について審議した。その中では、「自己管理型の業務」に対する労働時間規制の緩和や、地域限定・職種限定など多様な「労働契約の自由化」、成立したばかりの派遣労働規制・有期雇用規制の見直し、「再就職支援金」の支払と引き換えに解雇を認めたり、解雇を自由化するなどの解雇規制の緩和、ハローワークの民営化、若年労働者に対する「見習い雇用契約」など、労働者保護を全面的に骨抜きにする政策が並べられている。安倍内閣が導入しようとして失敗したホワイトカラー・エグゼンプション=残業代ゼロ法案を持ち出し、解雇の金銭「解決」制度よりいっそうひどい「再就職支援金」でクビ切りを可能にするなど、労働者保護の法制度に対する異常なまでの敵対意識と財界のねらいが露骨に示されている。

 とりわけ、解雇規制に対する攻撃は突出した感がある。財界側の言い分は、要するに、整理解雇規制が厳しいため、産業構造の転換に対応できずに余剰人員を抱えることで企業活動の足かせになり、人員整理のためには、いきおい乱暴な退職強要が起きざるを得なくなってしまい、これを解消するには、解雇を容易にすることや、職種・勤務地が限定された類型の「第二正社員」を導入して、仕事がなくなれば雇用も失わせることができるようにすることが求められ、同時に、労働市場を整備して、新たに人員を必要とする分野へと労働力が流動化できるようにすべきである、というものである。

 しかし、この論理には、いくつものごまかしがある。
 そもそも、整理解雇規制が厳しいと言うが、ほとんどのリストラでは、御用組合の協力もあって、希望退職等で人員整理の目標は達成されているし、退職に応じない少数の従業員に対しても、「追い出し部屋」など嫌がらせのような配転によって、自主的な退職に追い込むなどにより、容易に規制を僭脱しているのである。必要なのは、こうした脱法を許さないための法執行の仕組みを強化することであって、規制そのものを緩和することではない。

 この点に関わって、いわゆる正社員について、解雇規制によって地位が保障されることと引き換えに、職種・勤務地変更など人事権の広い裁量に服することもやむを得ないとする論がある。「メンバーシップ型」従業員の解雇では、ジョブがなくなったからといって解雇は許されないが、他方で、広範な裁量に基づく配転や人事異動を甘受すべき立場にあるとの見解もある。「第二正社員」の導入論も、この文脈で語られている。しかし、もともと、少なくない正社員にとっては、職種や勤務地を大幅に変更されることはない。「第二正社員」論は、こうした正社員の労働条件を引き下げることにしかつながらない。社宅など充実した福利厚生をも含めた雇用のあり方の概念である「メンバーシップ」論をこの問題に持ち込むことは有害でしかない。
 しかも、「雇用の流動化」を支える労働市場さえも、ハローワークの民間開放や、人材ビジネスの活用をゴリ押しし、儲けの場にしようというのであるから、恐るべき強欲ぶりである。

 このような規制緩和がまかりとおれば、労働条件は底抜けに切り下げられてしまうであろう。企業の横暴な営利活動に対し、労働者の生活と人格を守る観点からの再規制と、規制を貫徹する仕組みづくりこそ求められている。会員の労働組合・民主団体、弁護士・法学者等に対し、安倍政権のもとでゾンビのごとくよみがえった規制緩和の野望を打ち砕く運動に立ち上がり、労働者が安定して仕事をして生活を送り、労働者としての正当な権利を行使することができる社会の実現を目指すことを呼びかけるものである。

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