民主法律時報

労働法研究会の報告

弁護士 中西 基

1 はじめに

9月17日に労働法研究会を開催しました。前回(2014年10月)から2年も間が空いてしまいましたが、労働法研究会は、弁護士・労働組合・学者が、ひとつテーマについてそれぞれの立場から真剣に議論をたたかわせる民法協ならではの取組です。今後は年2回を目標にして企画していきたいと思います。

2 テーマ

今回の研究会は、本年4月1日から施行されている「改正障害者雇用促進法」でした。同改正法は、雇用の分野における障害者に対する差別の禁止及び障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置(合理的配慮の提供義務)を定めるとともに、精神障害者を法定雇用率の算定基礎に加えるものです。このうち、特に、合理的配慮の提供義務に関しては、労使関係の実務上も、裁判実務上も、大きな影響があり得るものと予測されることから、今回のテーマ設定となりました。

3 事例報告

研究会では、まず、立野嘉英弁護士から「阪神バス事件」についての事例報告がありました。この事件では、路線バスの運転手の勤務シフトについて、通常は早朝から深夜までの勤務シフトがランダムに割り当てられるところ、身体障害のある原告については特定の勤務シフトだけに限定するという「勤務配慮」がなされていたところ、会社がこれを一方的に打ち切ったことの是非が争われました。会社側は、「勤務配慮」は温情的な措置であってこれを続けるかどうかは会社の裁量だと主張しましたが、仮処分決定(神戸地裁尼崎支部平24・4・9決定)では、「勤務配慮」を一方的に打ち切ることは、障害のある労働者について法の下の平等の趣旨に反することとなり、公序良俗ないし信義則違反であると判断しました。事件は、抗告審(大阪高裁平25・5・23決定)、本訴1審(神戸地裁尼崎支部平26・4・22判決)でも勝訴し、本訴控訴審で和解解決しています。事案の詳細は、民主法律時報2011年9月号、2013年6月号、2015年4月号もご参照ください。

4 基調報告

続いて、立正大学社会福祉学部准教授の濱畑芳和さんを助言者に迎えて、「改正障害者雇用促進法と予想される影響」と題する基調報告をしていただきました。

報告では、本年4月1日から施行されている改正障害者雇用促進法では、障害者の定義について、「医学モデル」ではなく「社会モデル」を採用したことが強調されました。すなわち、障害者とは、医学的に見て心身の機能不全を有する者を意味するのではなく、心身の機能の障害のために職業生活に相当の制限を受け、又は、著しく困難となる者を意味します。各種障害者手帳の有無は関係ありませんし、難病患者も含まれます。

そして、事業主は、募集・採用、賃金、配置、昇進・降格、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用などにおいて、障害を理由として不当な差別的取扱を行うことが禁止されました。さらに、事業主は、募集・採用にあたって本人から申し出があれば、採用後は本人から申し出がなくとも、障害者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置を講ずること(合理的配慮の提供)を義務づけられました。

この法改正により、差別事案において損害賠償請求は争いやすくなることが予想されますが、合理的配慮の提供義務については直律的効力がないと解されているため、ただちに合理的配慮の提供を求める訴訟は難しいと思われます。

5 議論・意見交換

事例報告と基調報告を踏まえて、参加者で活発な意見交換がなされました。合理的配慮の提供については、いかなる内容の配慮を提供させるのかについて、労使間での協議が不可欠です。改正法自身が「自主的解決」を求めていることからも、労使間での協議・交渉は積極的に求められており、労働組合に期待される役割も大きくなると思われます。

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