民主法律時報

ファミリーマート過労死事件 和解成立報告

弁護士 喜田 崇之

1 はじめに

ファミリーマート過労死事件の和解報告をする。和解内容及びその評価については、事情により弁護団から明らかにすることができないが、和解に至る経過、フランチャイズ本部に対する法的責任の追及等、今後に向けて参考になる点が多々あると思われる上、和解が成立したことそれ自体大きな意義があるので、可能な限りで報告する次第である(以下、ファミリーマートのことを、単に「FM」と表記する)。
なお、弁護団は、岩城穣、瓦井剛司、稗田隆史(敬称略)と当職の4名である。

2 事案の概要等

被害者は、フランチャイズ加盟店であるFM・A店及びFM・B店の2店舗でアルバイトとして勤務していた当時62歳の男性である。両店舗の加盟店オーナー(以下、「被告加盟店」と表記する)は、亡被害者を、休日もほぼないまま超長時間労働(単独での深夜勤務含む)に従事させていた。被告FMは、A店及びB店それぞれにSV(スーパーバイザー)を派遣しており、SVは亡被害者の超長時間労働の実態及び給与不払いの実態を把握し、亡被害者から長時間労働に関する相談を受けていたが、何ら改善策を講じることがないまま放置していた。亡被害者の死亡前6か月間の時間外労働時間は、一月当たり、過労死基準を大きく超える218時間~254時間に及んでいた(一部被告らと争いあり)。

これらの超長時間労働による疲労が蓄積した状態で、亡被害者は、平成24年12月21日午後9時ころ、A店内で脚立に乗って作業している際に意識を喪失し、転落して床面に頭部を強打した。亡被害者は、すぐに救急車で運ばれたが、脳死状態のまま、平成25年1月6日、死亡した。
その後、遺族らの労災申請が認められていたが(労災申請については、本件が業務中の転倒事故であったことから比較的容易に認められた)、遺族らは、平成27年4月10日、被告加盟店と被告FMに対して、損害賠償請求訴訟を提起した。

3 被告FMに対する法的主張について

被告FMに対する法的主張は、以下の3点である。
第一に、被告FMが、亡被害者に対して負う安全配慮義務に違反したこと(民法709条)、第二に、被告FMが、被告加盟店に対して、従業員が過労死基準を超えるような長時間労働があった場合にはこれを指導監督すべき義務を負っていたところ、当該義務に違反したこと(民法709条)、第三に、被告加盟店の被害者に対する不法行為についての使用者責任(民法715条)である。

これらの法的責任を巡る主張の争点は多岐に渡り、本稿でその中身を詳細に紹介することは紙面の都合上困難であるが、原告らとしては、フランチャイズ契約の各規定の内容、経営実態や会計システム(被告加盟店が経営者としての実態を備えていないことや、被告FMが被告加盟店の従業員の接客方法・態度等を教育・研修し、従業員の労務時間や給与等を報告させていたこと等)、等を明らかにして、法的主張を組み立てていった。以下、参考になった労働委員会命令と大阪高裁判決を紹介する。

まず、コンビニフランチャイズの本部と加盟店の関係については、岡山県労委命令(平成26年3月20日)、東京都労委命令(平成27年4月16日)が参考となる。
これらの労働委員会命令は、コンビニフランチャイズ加盟店の労組法上の労働者性を認めたものであるが、判断の中で、「本部の指示、指導、助言」「業務の依頼に応じざるを得ない状況」等の本部と加盟店との実態を細かく認定し、「加盟者は、広い意味で、会社の指揮監督の下に労務を提供していると解することができ」ることや、「加盟者には、自らの独立した経営判断に基づいてその業務内容を差配して収益管理を行う機会が実態として確保されているとは認めがたいこと」等を認定している。本件訴訟でも、これらの労働委員会命令が認定した実態から見れば、被告FMは、使用者責任における「使用者」性が認められることや、安全配慮義務を負う「特別な社会的接触関係」にあること等を主張した。

また、本件とは事案が異なるが、契約関係にない第三者のFMに対する損害賠償を認めた判例として大阪高裁平成13年7月31日判決(判例時報1764号64頁)が参考となる。当該事案は、コンビニ店舗の濡れた床で滑って転倒した客が怪我をしたというもので、判決は、結論として、①FMの原告に対する安全管理義務違反(民法709条)は否定したが、②FMの加盟店及び加盟店の従業員に対する安全指導監督義務違反を肯定し(民法709条)、また③使用者責任(民法715条)も肯定した。②の根拠として、被告FMが、加盟店に「ファミリーマート」の商号を与えて継続的に経営指導、技術援助をしていたことを挙げているが、③についてはほとんど理由が述べられていない。

4 過労と死亡との間の因果関係の立証について

被告らは、亡被害者が脚立から落ちて亡くなったのは、脳血管疾患または心臓疾患での意識喪失によるものではないと主張し、長時間労働と死亡との因果関係を争った。
これに対し、原告らは、耳原高石診療所松葉和巳医師に意見書を作成して頂き、意見書(及び複数の医学参考文献)を提出して因果関係の立証に努めた。意見書では、失神の種類や失神が発生する一般論、慢性疲労から自律神経障害を発生するメカニズム等を説明した上で、亡被害者の著しい過重労働の内容・質(昼夜逆転の業務にも従事していたことや、寒冷な環境での作業等)等から、睡眠の量と質が明らかに阻害されており、過重労働と睡眠不全等から自律神経の傷害をきたし、神経調節性失神を引き起こしたものであることを明らかにし、亡被害者の既往歴・基礎疾患等から見てもかかる結論を否定する要素がないことを明らかにした。

5 和解に至る経過

訴訟提起から1年以上が経過した頃、原告側から被告FMに対し、被告加盟店から亡被害者の労働時間について本部にどのような報告がなされていたか(本部にどの様な情報が送られていたか)、当該労働時間の報告に基づき被告加盟店に何等かの指導をしたことがあるか否かを釈明した。その段階で被告FM側から和解の申し出があり、被告側代理人はその理由の一つとして、過労死基準を大きく上回っていた被災者の労働時間の報告が継続的になされていたことが判明したことを明らかにした。その後、和解条件を詰め、平成28年12月22日、和解が成立した。

6 和解についての評価

冒頭で述べた通り、諸事情により、残念ながら弁護団から和解内容を明らかにすることはできないし、和解内容を評価することもできない。
しかしながら、フランチャイズ本部が、加盟店の従業員の労務管理等に関する義務を認めた裁判例が一例も見られない中、直接雇用関係のない被告FMが加盟店の従業員の過労死事件につき和解に応じたことは、コンビニチェーン店で働く従業員(経営者自身も含む)の生命と健康の安全を確保し、コンビニフランチャイズの社会的信頼を高めていく上で大変意義があると思われる。

また、本件和解は、同年12月30日以降全国で大きく報道され、被告FMも、NHKの取材に対し「今後も加盟店が労働法規を守るように指導していく。」とコメントした。個人的には、加盟店で勤務する従業員はもちろんであるが、過酷な労働環境に晒されている加盟店主も少なくなく、コンビニフランチャイズ本部は加盟店主の働き方そのものも見直すべきであると考えている。

昨今、電通過労自死事件が一つのきっかけとなり、長時間労働を見直すべきであるという風潮が確実に流れてきている(飲食業界では24時間営業を見直すことを決めたレストラン等も増えてきている)。遺族らは、本和解をきっかけとして、今後、コンビニフランチャイズ業界で同様の過労死事件(ないし長時間労働問題)が起きないように、社会全体で24時間営業のコンビニチェーン店で働く加盟店を含めた従業員の労働環境の在り方が問題提起されることを強く望んでいる。

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