民主法律時報

福住コンクリート事件・府労委で勝利命令――濫用的会社分割による労働組合潰しについて労働委員会が断罪

弁護士 谷   真 介

1 はじめに

 本件は、会社分割制度を濫用した新しい形の偽装事業閉鎖・解雇の事案である。平成24年11月2日、大阪府労委は、本件会社分割が組合潰しの不当労働行為目的にあったと認定して、分割後の両会社に重畳的に労組法上の使用者性を認め、両者に対して解雇した組合員の職場復帰及びバックペイの支払、謝罪文の交付を命じた。

2 会社分割制度の問題点

 会社分割制度は、平成12年の商法改正で設けられた比較的新しい事業再編制度である。会社分割には、新たに会社を新設して分割会社の事業の一部を新設会社に引き継がせる新設分割と、元々存在する会社に引き継がせる吸収分割とがある。いずれも分割会社の事業の一部を承継会社に承継させ、その対価として承継会社(新設会社または吸収会社)が発行した株式の引き当てを分割会社が受けるのが、一般である。会社分割の手続は比較的簡便で、株式の引き当てを受けるだけで、承継会社が事業譲渡の対価を現実的に拠出せずとも良いため、本来の用途である分社化というよりも、簡便に事業譲渡ができる手段として、広く利用されている。
 会社法上、会社分割に伴って会社債権者が分割会社から承継会社に免責的に承継される場合には、債権者保護手続きが整備されている。同じく、分割会社から承継会社に承継される労働者・労働組合には、使用者が替わることになるため、同じく平成12年に成立した労働契約承継法において、詳細な保護手続きが定められている。
 しかし、分割会社に残される債権者や労働者には、上記のような保護手続きは存在しない。これは、建前上、分割会社は承継会社の発行した株式の引き当てを受けるため、帳簿上の分割会社の資産にマイナスはないからである。ただここに制度上の抜け穴(欠陥)がある。分割会社が事業を譲渡する代わりに承継会社の株式の引き当てを受けたとしても、承継会社が閉鎖会社(株式の譲渡に取締役会等の承認を必要とする会社)で株式が流通しえない場合や、全く形だけの新設会社の場合には、実際には承継会社の株式に何の価値もない。そのため、非採算部門のみを分割会社に残して採算部門を承継会社に承継させた場合であっても、分割会社に残された債権者や労働者は何らの手続き上の保護も受けないまま、自らの会社が非採算部門のみになることを甘受しなければならなくなるという重大な問題が生じるのである。
 この抜け穴を濫用して、非採算部門のみを分割会社に残し、採算部門のみを譲渡した承継会社だけ生き残らせ、分割会社(非採算部門)に残した会社債権者・労働者が路頭に迷うという、濫用的・詐害的な会社分割が横行しているようである。このような法制度上の欠陥を見直すべく、現在、法制審においても、分割会社に残す債権者にも債権者保護手続きを必要とする改正について、審議がなされている。また近時最高裁でも、濫用的会社分割の場合に、組織行為である会社分割(新設分割)についても、詐害行為取消の対象となることを認めるに至っている(最二小判平成24年10月12日)。
 前置きがながくなったが、本件はこのような会社分割制度の法制度上の欠陥を利用して労働組合潰しを行った不当労働行為事案であり、従来あった佐野南海・第一交通事件のような偽装解散・解雇事件について、会社分割制度を悪用して行われたものである。

3 本件事案の概要

(1) 合理化提案と不誠実団交
 福住コンクリート工業株式会社(以下「福住コンクリート」という)は、奈良県内に事業所を有する生コンの製造・運搬を業とする会社で、代表取締役を務めるN氏一家の同族企業である。その運搬部門につとめる運転手5名が、建交労関西支部の組合員であった。
 争議の始まりは、平成21年6月、福住コンクリートは組合に対し、減給や解雇等を含む重大な合理化提案を行ったところまで遡る。これに対し、組合は団体交渉の中で、合理化の必要性の裏付けとなる同社の財務資料の開示を求めた。それとともに、組合が調査を行ったところ、福住コンクリートが「日本パナマックス」という別会社に役員や財産を移すなど偽装解散を疑わせる動きをしていることが判明した。そのため、組合は福住コンクリート及び代表者のN氏に対し、「日本パナマックス」を含めた財務資料の開示を求めたが、福住コンクリート及びN氏はこれに応じず、同社の財務資料についても加工したものしか閲覧させなかった。その上、団体交渉にはN氏は出席せず、権限を全く与えられていない弁護士や社労士登録していない社労士を出席させ、実質的な交渉ができず空転した。
 この点について、平成22年9月、組合は財務資料の不開示、及び権限者の立会要求を拒否した点が不誠実団交であるとして、大阪府労委に不当労働行為救済申立を行った。

(2) 不明瞭な会社分割と組合事務所の一方的変更
 上記不当労働委行為救済申立後の、平成22年12月、福住コンクリートは、突如組合員らに対し、同社の代表取締役をN氏から第三者に変更した旨と、組合事務所の変更を通知した。組合が福住コンクリートの商業登記を調べると、同年11月に福住コンクリートは、資本金わずか10万円で宝永産業株式会社を新設して、宝永産業との間で会社分割(新設分割)をしていたことが判明した。そして、福住コンクリートは、その製造部門を宝永産業に引き継がせ、組合員はすべて運送部門として福住コンクリートに残したのである。この点について、組合は福住コンクリートに団体交渉を求めたが、同社は「労働委員会で審理中」という理由で交渉を拒否した。
 組合は、平成23年2月、福住コンクリートが事前協議協定を無視して会社分割を行い組合事務所を一方的に変更した点が支配介入であるとし、また福住コンクリートの団交拒否について、大阪府労委に不当労働行為救済の追加申立を行った。

(3) すると、その直後の平成24年3月、今度は福住コンクリート(実質は退任したはずのN氏が主導)が突如事業を閉鎖し、組合員らを全員実質解雇した。直後にN氏は暴力団風の人物を複数雇って、組合員が占有する組合事務所から実力で排除しようとする異常な状態となった。そのため、組合は大阪府労委にこれを実力排除行為を停止させる命令を求めて、実行確保の措置勧告の申立て(棄却されるも労働委員会が口頭要望を出した)をした上、事業閉鎖と解雇が支配介入であるとして、再び追加で不当労働行為救済申立を行った。

(4) なお、本件については、組合員ら及び組合は、奈良地裁(後に大阪地裁に移送)に法人格否認により両社に対する地位確認と福住コンクリートの前代表N氏及び宝永産業の代表者に対する損害賠償請求を提訴し、後に会社分割登記を行った司法書士が本件会社分割に深く関与していたことが判明したため、かかる司法書士と最大株主兼債権者であるN氏の母を追加提訴した。
 その他、N氏は組合がN氏自宅前で街宣行為等したとして街宣禁止の仮処分申立を行い(街宣禁止仮処分の経過と顛末については労旬1778号27頁参照)、その後N氏は街宣の差し止め・損害賠償請求の本訴も提起した。かかるN氏の提起した本訴は、組合員らが提訴した前記訴訟と併合され、大阪地裁で現在審理がなされている。

4 濫用的会社分割の点に関する労働委員会での争点と判断
 
(1) 濫用的会社分割の点に関する主要な争点は、①本件会社分割及びその後の福住コンクリートの事業閉鎖が組合潰しを企図するものであったか、②組合員らの形式上の使用者である福住コンクリート(分割会社)とは別法人格である宝永産業(承継会社)に、労組法上の使用者性が認められるか、であった。

(2) 大阪府労委は、①の点について、会社分割に至る経緯及び会社分割手続や会社分割契約書等に関する不自然な点を子細に検討した上で、本件会社分割が、本件会社分割前から組合と合理化案を巡って対立関係にあった旧福住コンクリートが本件会社分割の後の適当な時期に運送のみを専業とすることにした福住コンクリートをつぶし、生コンの製造販売を行う宝永産業のみを存続させることにより、福住コンクリートの生コン製造販売事業から組合及び組合員の排除を図る目的をもって行われたものである、と明確に不当労働行為目的にあることを認定した。
 そして、②の点について、宝永産業と福住コンクリートは同一の法人格とはいえないものの、本件会社分割による宝永産業の設立の主要な目的が組合及び組合員の排除であったとみることができる以上、宝永産業と福住コンクリートはともに重畳的に福住の従業員に対する支配決定権をもつものとみなされるべきであり、宝永産業も労組法上の使用者に該当する、と判断した。
 その上で、両社に対し、組合員の職場復帰及びバックペイを命じ、併せて組合に対する謝罪文の交付を命じたのである。
 なおその他にも、労働委員会は、両社の団交拒否に対して団交応諾を命じ、会社分割時の組合事務所の一方的変更に対して従来の組合事務所を継続して使用させること等も命じている(最初の申立にかかる不誠実団交のみ棄却)。

5 本件の意義

 本件は、会社法の分野においても制度の欠陥が指摘され分割会社に残された会社債権者からの詐害行為取消訴訟が頻発するなど問題の多い会社分割制度を利用し、分割会社に組合員を残して分割会社のみ事業閉鎖をし組合員を解雇して組合を壊滅させるという方法で、従来なされていた偽装閉鎖・解雇と同様の目的を達成する新手の手法に対して、労働委員会が会社分割後の両社に重畳的に労組法上の使用者性を認定するなどして阻止した事例であり、先例的にも意義があると思われる。

  (弁護団は徳井義幸と谷真介。なお訴訟と街宣仮処分・本訴については、喜田崇之弁護士にも弁護団に入っていただいている)

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