民主法律時報

飛翔館(近大泉州)高校解雇事件で逆転勝訴の高裁判決!~堺支部の不当判決を撥ね返す~

弁護士 下迫田 浩 司

1 明快な逆転勝訴判決!

 2009年12月18日の堺支部の不当判決以来、私たちは、前の見えない霧の中をもがき苦しみながら歩いていました。7月15日、霧を吹き飛ばすような素晴らしい逆転勝訴判決を勝ち取りました。
 学校法人泉州学園が経営する飛翔館高校(現・近畿大学泉州高校)で、2008年3月末に7名の教員が整理解雇され、そのうち5名の教員が解雇無効を理由とする地位確認等を請求する訴訟を起こしました。堺支部で、まさかの第一審敗訴を受け、控訴審で闘ってきたところ、大阪高裁は、一審判決を取り消し、原告5名全員の雇用契約上の地位を確認し、バックペイを全額認める、キレイな逆転勝利の判決をしました。

2 高裁判決の内容

(1)一般論

 整理解雇の有効性に関する一般論について、判決は、「整理解雇は、使用者の業務上の都合を理由とするもので、解雇される労働者は、落ち度がないのに一方的に収入を得る手段を奪われる重大な不利益を受けるものであるから、それが有効かどうかは、①解雇の必要性があったか、②解雇回避の努力を尽くしたか、③解雇対象者の選定が合理的であったか、④解雇手続が相当であったかを総合考慮して、これを決するのが相当である。」としました。これは従来の裁判例の一般論をほぼ踏襲したものです(あえて言えば、①を「人員削減」の必要性ではなく「解雇」の必要性としているところに特色があります。)

(2)①解雇の必要性について
 まず、大きな争点の一つとなっていた、「消費収支差額」を私立学校の人員削減の指標に用いることの当否について、判決は、企業会計における「収益」及び「費用」に相当するものは、学校法人会計においては「帰属収入」及び「消費支出」であるとし、学校法人においては、「帰属収入」から「消費支出」を差し引いた「帰属収支差額」が採算性(収支の均衡)を示しているので、「消費収支差額」ではなく「帰属収支差額」によって収支の均衡を検討するのが妥当であるとしました。
 これは、第一審以来、私たちが一貫して主張してきたことが、やっと認められたものです。堺支部は、単に、学校法人会計基準29条が「基本金を組み入れることを要求している」ということだけを根拠として、消費収支差額を削減人数決定の基準とすることを肯定していました。要するに、なぜ要求しているのか、法の趣旨がわからないまま、法律に書いてあるから「何らかの意味があるでしょう」ということでした。このようないいかげんな堺支部の判決が明確に否定され、大変すっきりとした思いです。
 次に、1年前の「予算」によって計算した人員削減の方針のまま最後まで突っ走った学園のやり方についても、判決は、「予算によって計算した削減人数18名と決算によって計算した削減人数13名との間に5名の開きが生ずるのに、そのままで構わないというのは、もともと18名の削減の方針自体が事実に基礎を置かない根拠薄弱のものであることを示している」と切って捨てました。これも私たちの第一審以来の主張がやっと認められたものです。堺支部は、解雇が決算前だからというだけの理由で、1年前の「予算」を基準として解雇人数を決定したことを安易に是認していました。
 さらに、解雇に際して多数の非常勤講師を新規採用したという「人の入れ替え」のための解雇について、判決は、「そもそも、人件費削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されないというべきである。」と判断しました。その理由として「このような人を入れ替える整理解雇を認めるときは、賃金引き下げに容易に応じない労働者の解雇を容認し、その結果として労働者に対し賃金引き下げを強制するなどその正当な権利を不当に侵害することになるおそれがあるからである。」としています。これは画期的な判断だと思います。

(3)②解雇回避努力について
 判決は、2007年度当初において18名削減の必要性があるとした判断自体合理的なものとはいえないし、整理解雇前に学園の財務内容を的確に分析して合理的な人員削減計画を策定し、その一環として整理解雇もやむを得ないとの判断をするに至ったような事実を認めることはできないので、解雇回避努力の前提事項が満たされていないとしました。また、2007年度中に希望退職に応じる者や雇い止めが予定されることになった者が11名生じた状況下においてもなお解雇の必要があるのかどうかを改めて検討し直した形跡はうかがわれないし、当初の予算と年度末との決算とでどの程度の差が生じるのかを検討した形跡もないとして、解雇回避努力を尽くしたものとは直ちにはいい難いとしました。

(4)④手続の相当性について
 判決は、「整理解雇の方針という重要なことを解雇実施予定の一か月前まで明確にせず、その後も解雇の必要性や、解雇予定人数、基準等について具体的な説明をしなかったことは、手続として著しく適正さを欠く不誠実な対応であったというほかはない。」としました。
 そして、「教員らの激しい抵抗は、一審被告が、人数や基準等の具体的な内容を一切明らかにしないまま平成20年2月終わりになって初めて整理解雇の方針のみを掲示によって明らかにしたことに対する憤りや不安の気持ちに起因するものと解され、一審被告側のとった手続が不適正であったことの裏返しと評することができる」とした上で、「本件では、一審原告らないし本件組合と一審被告は、相手方の行動、対応を逐一批判ないし非難する傾向にあり、相互不信は根深いものと認められるから、一審被告が、その財務状況を踏まえて人件費削減の必要性を訴えても、一審原告らあるいは本件組合との間で結局話合いは平行線をたどった可能性も否定できないものと推測される。しかし、そうではあっても、整理解雇を行う使用者は、組合ないし労働者との間で説明や交渉の機会を持つべきである。整理解雇のような労働者側に重大な不利益を生ずる法的問題においては、関係当事者が十分意思疎通を図り誠実に話し合うというのが我が国社会の基本的なルールであり、公の秩序というべきである。」としました。第一審で堺支部が、協議の進展の見込みが非常に疑問であったと裁判所が後から仮定的推論をすれば、説明・協議義務が不十分でもよいとしていたのと大違いです。

(5)結論
 判決は、以上のとおり、①整理解雇の必要性、②整理解雇回避の努力、④手続の相当性のいずれについても否定的に判断するのが相当だとして、③人選の合理性を判断するまでもなく、本件整理解雇は、全体として客観的に合理的な理由を欠いた社会通念上不相当なもので、本件整理解雇は、解雇権を濫用したものとして無効であると結論付けました。

3 今後の闘い

 この原稿を書いているのは判決が出てからまだ2日しか経っていない時点ですが、この判決によって闘争の流れが大きく変わったことを感じます。解雇後すでに3年以上もの年月が経っていますが、特に負けるはずがないと信じていた第一審の堺支部で2009年12月18日に敗訴して以来、ずっと苦しい闘いが続いていました。
 学園側はさっそく上告及び上告受理申立てを表明してきており、また、高校内の現場でもパワーハラスメント的な状況が続いてきていますので、闘いはまだまだこれからも続きます。ただ、今回の高裁判決によって、今後の闘いにとって大きな礎ができたと思います。今後とも、みなさまのご支援をよろしくお願いいたします。

(弁護団 戸谷茂樹、山﨑国満、岸本由起子、十川由紀子、下迫田浩司)

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