民主法律時報

<新年のご挨拶>  闘いかつ学び、学びかつ闘う  「倍返し 心に刻む 有権者」  

会長 萬 井 隆 令

 2013年はまことに慌ただしく、またキナ臭さが募った年でした。安倍内閣は消費税を8%に上げる、TPP交渉に参加する、原発再稼働を進める、秘密保護法を強行する(「何が秘密か、それは秘密です」では悪い冗談にもなりません)、韓国軍に銃弾を提供し、「積極的平和主義」の名でアメリカ軍海兵隊のような部隊と装備を整えるべく、中期防衛力整備計画には総額 兆円もつぎ込んで、水陸両用戦車、F 戦闘機、無人偵察機などを新規に導入する等々。その仕上げに、沖縄・辺野古に基地受入れを押し付ける一方、安倍首相は年末 日、靖国神社に参拝しました。「誓い」で「御英霊に対して、哀悼の誠を捧げるとともに、尊崇の念を表し……」等と言いますが、国際、国内政治全体を見渡すこともなく、当日は政権交代1年目だといった、周辺の人達だけの位置づけでコトを進める政府に危なっかしさを感じざるを得ません。
 他方で、国民の生活を守るという国の存在意義はどこかへ放り去られようとしています。年金の減額、 歳以上の高齢者の医療費窓口負担を1割から2割へ、介護保険の利用者負担増など、目白押しです。

 数年前から、海外では民主化デモが圧政を倒す例が見られます。毎週金曜日の首相官邸前での反原発行動など、久々に、日本でもそういう意思表示の兆しがみえます。
 今年は、年明け早々から、名護市長、東京都知事、京都府知事、年末には沖縄県知事と、地方自治体ですが国の行方を問うことも意味する、重要な選挙が相次ぎ行なわれます。さすがに秘密保護法の強行以降、支持率は下がってきましたが、まだ半数近くの人が支持していることも事実です。しかし、安倍内閣が選挙によって誕生したのなら、選挙によって退陣に追い込むこともできるわけです。アベノミクスとかいってマスコミは人気をあおり、確かに一部の企業は好況を迎えているようですが、株も持たない国民にとって何一つ良いことはなかったことが感じられ始めています。国民が主権者であり、選挙では有権者です。「倍返し 心に刻む 有権者」(小川仙太郎)の意気を示したいものです。

 労働法制の面では、2012年に行われた注目すべき労働契約法および派遣法の改正を、すべて覆す雇用法制改革が進められようとしています。
 12年改正で、派遣法は偽装請負や派遣対象業務以外の派遣など違法派遣を行った場合、「その時点において」派遣先は当該労働者に「労働契約の申込みをしたものとみなす」と規定し(40条の6第1項)、違法派遣の場合、派遣先による直接雇用という形で立法的に問題解決を図りました。これまで日本にはなかったシステムであり、画期的です。また、労働契約法19条は労働者の意思で有期契約を更新させ、18条は5年を超えて有期で働いてきた労働者の意思で無期雇用に転換させることを権利として保障しました。
 これまで、派遣や有期雇用という形で働く非正規労働者を正規化しようとしても、使用者が抵抗する場合には裁判所の判決に期待する以外にありませんでした。今回、法律という確固たるもので正規労働者化を使用者に強制する道を創りだしたわけで、非正規労働者の正規化の運動に大きな支えを提供するものです。
 ところが、派遣法は施行されて半年も経たない、労働契約法に至ってはまだ一部しか施行もされない昨春から、安倍首相は「世界で企業が一番活動しやすい国を目指す」とうそぶいて、雇用政策の基本方針をそれに沿ったものにすることを企んでいます。「成熟産業から成長産業へ『失業なき円滑な労働移動』を図る。このため、雇用支援施策に関して、行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフトを具体化する」といい、労働者派遣のほぼ全面自由化・恒久化、労働条件が低く解雇しやすい「限定正社員」制度や労働時間制を適用除外するホワイトカラー・エグゼンプション制の導入などです。14年度概算要求によれば、雇用維持(解雇を防ぐため)の雇用調整助成金は13年度比53.6%に減らし、逆に、労働者の転職に要した費用を助成する労働移動支援助成金は150倍にも増やす、対象を大企業にも広げ、支給時期も①支援委託と②再就職実現の2段階にする。金の面からすでに施策は実行されようとしています。たしかに企業は活動し易くなるとしても、それに反比例して、労働者は今まで以上に緩んだ雇用ルールの下で働き、暮らすことを強いられることになります。
 「権利の上に眠るものは権利を失う」といいます。サービス残業、名ばかり管理職といった問題は以前から問題視されながら、まだ多い。法律があり、解釈論が確立していても、それだけでは労働者の権利は実現しない。「権利のための闘争」があって初めて労働者や国民の権利は実現するものです。
 規制緩和に向けた立法化の企みを学び、早く効果的に反撃せねばなりませんが、現にあり、利用できる規定を活用して実質的な権利の実現・拡大を図ることが、悪法反対の確実な力にもなっていくと思います。規制緩和の提案の内容も確定しているわけではないし、提案理由も分かり難い。事実の正確な把握に基づくものではない提案もあり、誤魔化しもあれば嘘もあり、弱点だらけです。提案を受け止める視点を確立し、労働組合としての反対運動を進めながら、その中で、さらに提案の問題点をより的確に把握する、「闘いかつ学び、学びかつ闘う」。民法協の出番です。

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