民主法律時報

「ウクライナ問題と日本国憲法への影響」法律家五団体講演会 のご報告

弁護士 佐久間 ひろみ

1 はじめに

2022年4月19日18時30分から、元東京新聞論説兼編集委員で獨協大学非常勤講師、法政大学兼任講師でもある防衛ジャーナリストの半田滋氏をお招きして、「ウクライナ問題と日本国憲法への影響」というテーマで法律家五団体講演会が開催されました。

2 ウクライナ侵攻におけるロシアの目的

ロシアのウクライナ侵攻の背景を理解するためには、冷戦後にロシアが置かれた状況を理解することが必要です。

ロシアは、冷戦後の 年間、経済的に不安定な状況であり、原油・天然ガスの輸出で一時期繁栄したものの、ここ10年間は経済的成長が停滞していました。

プーチン大統領は、経済的繁栄期がはじまる頃に大統領となり、「強いロシア」の再現を訴え、中国との戦略的パートナーシップを強化し、国内の新興財閥に恭順を誓わせ、メディア規制を強化する等して内政を統制しました。ただし、2014年のクリミア併合時にはプーチン大統領の支持率が約9割であったのに対し、汚職問題や年給支給開始年齢の引き上げ問題で近年は支持率が約6割にまで低下しており、決して盤石な内政事情とはいえない状況でした。

他方でロシア国外の状況としては、NATO加盟による東方圧力が徐々に強まり、ウクライナが加盟するとロシアとの緩衝地帯がなくなる状況でした。さらにアメリカは、NATOの力を利用し、アメリカ弾道弾迎撃ミサイル制限(ABM)条約と中距離核戦力全廃(INF)条約を破棄、ロシア周辺国に「イージス・アショア」を配備するなど圧力を強めていきました。

以上の点から、ロシアのウクライナ侵攻は、現在のロシアが置かれている状況を改善するための一石三鳥(経済停滞や支持率低迷という内政問題の目くらまし、NATO・アメリカへの警戒感、ウクライナはもともと一つの民族であるという思い入れ)の政策であったと考えられます。

3 日米軍事共同演習の持つ意味

現時点でも、ロシアのウクライナ侵攻は続いており、今後ロシアと中国が接近する可能性は高いことから、米欧と日本対中ロの二分化になっていくおそれが強い状況にあります。

このような中、アメリカは、ここ数年台湾について中国をけん制する発言が増え、他方で中国も台湾統一に武力行使の可能性も示唆しており、徐々に中台の緊張が高まってきています。

そして日本の自衛隊は、アメリカとの軍事演習の規模を拡大しており、実際に中国との戦闘を想定したような共同演習もしています。当然ですが、沖縄には、米軍基地が集中しているのですから、台湾有事にアメリカが関与した場合、沖縄が攻撃されることは避けられない状況です。

4 いまこそ憲法9条

ロシアのウクライナ侵攻のニュースは連日報道されており、不安に感じる国民も多い中で、日本も武器を保有するべき等の安易な議論が目に付くようになりました。
しかし、日本が武力を保有すれば、周辺国を刺激し、さらに武力衝突の危険性が高まります。台湾有事についていえば、日本は日中友好条約において台湾を独立国家とは扱っていないのですから、中国との約束を一方的に反故するような言動をすべきではありません。

半田氏の講演会を通じ、日本は、憲法9条のある国として、軍事力ではなく外交力を高め、ASEAN諸国や欧州とともに連携し、中国とアメリカが戦争を回避するよう訴え続けることが必要だと改めて感じました。周囲にも広めていきたいと思います。

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