民主法律時報

「時の航路」 上映会に参加して

弁護士 青 木 克 也

2021年8月26日に、新入会員歓迎企画として開催された、映画「時の航路」(神山征二郎監督・2020年)の上映会に参加しました。

本作は、大手自動車メーカーがリーマン・ショックの影響による業績悪化を口実に、大勢の期間・派遣労働者の雇用・就労を打ち切ったのに対し、主人公を含む一部の期間・派遣労働者が労働組合に加入し、派遣先メーカーとの間で団体交渉や裁判闘争を繰り広げていくという、実話を基にした物語です。

派遣切りに遭った主人公は、当初は組合への忌避感を示し、やるかたない憤りの中で日々を過ごしますが、寮の自室を訪れた組合の委員長から社員寮の使用期間の延長を勝ち取ったとの報告を受け、また組合の顧問弁護士から法的な助言を受けたのを機に、労働者としての権利意識が芽生え、組合に加入して会社と闘っていくことを決意します。

そんな主人公を大いに悩ませたのが、遠く離れた地元で暮らす家族の存在でした。労働者として、また人としての尊厳をかけた闘いを仲間とともに始めた主人公ですが、妻や大学進学を控えた長男からは、組合を辞めて地元に帰ってくるようたびたび求められ、強烈な葛藤に苛まれます。経済的に余裕のない人は、自らの権利のために闘うことすら許されない状況に置かれうるという「リアル」が鋭く描かれているように思いました。

映画の鑑賞後は、本作の主人公のモデルとなった五戸豊弘さん(現:下野市議)と、村田浩治弁護士(非正規労働者の権利実現全国会議事務局長)とのZoom対談が行われました。五戸さんによれば、8年に及ぶ争議の間、生活保護の支えもあって闘い続けることができたという仲間の方もいらっしゃったとのことで、生活保護制度に思い入れのある身としては大変興味深くお聞きしました。また、映画で描かれた結末の後日談も明かされ、よりスッキリした気持ちで帰路につくことができました。

昨年から続くコロナ禍により、非正規雇用で働く方々は再び大きな危機に見舞われています。リーマン・ショック以降の法改正で多少は保護が厚くなったとはいえ、未だに「雇用の調整弁」としての位置付けは変わっていません。また、裁判所は派遣先企業の雇用責任を認めることにきわめて消極的であるという現実もあります。

そのような世相の中で、本作はまさに時宜にかなった内容であり、ぜひ多くの方にご覧いただきたい傑作だと思います。

上映会

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