民主法律時報

育鵬社教科書採択阻止活動報告

弁護士 脇山 美春

1 教科書採択とは

教科書の採択とは、学校で使用する教科書を決定することである。公立学校で使用される教科書の採択権限は、その学校を設置する市町村又は都道府県の教育委員会に委ねられている。大阪府下でも、各市町村が、教科書検定を通った複数の教科書の中から、各教科一種類の教科書を選んで採択する。今年2020年は、5年に1度の公立中学校教科書採択の年であった。

近年、この採択候補の中に、非常に問題のある歴史・公民の教科書が紛れ込み続けている。「育鵬社」の出版する歴史・公民教科書である。

2 育鵬社教科書採択阻止活動の経過

(1) メンバー集結
2020年7月頭、子どもと教科書大阪ネット21より、自由法曹団、民法協宛に、2020年度の中学校公立教科書採択の際、「育鵬社」の歴史・公民教科書が採択されないように活動する要員の募集がかかった。
要請に応じて集まったメンバーは、原野早知子弁護士、楠晋一弁護士、藤井恭子弁護士、遠地靖志弁護士、冨田真平弁護士、脇山の5名である。

(2) 要請書の作成
まず私たちは、各自治体に、育鵬社の歴史・公民教科書を採択しないように要請する文章を考えた。実際に育鵬社の歴史・公民教科書を読んで気になる点を指摘し、「フジ住宅ヘイトハラスメント事件」を通じて明らかになった、2015年教科書採択の際のフジ住宅の従業員動員問題も指摘して、要請書を完成させた。

(3) 申入活動
私たちは、完成した要請書を、大阪府下の全市町村の教育委員会に発送した。

そのうえで、2015年に育鵬社の歴史・公民教科書を採択している市町村、維新市長のいる市町村等、特に重要な市町村には、直接申し入れ行動に行くこととした。圧倒的にマンパワーが足りず、かつ、申入書が届く7月20日頃から、7月下旬から採択をスタートさせる各市町村の採択前にいく、という非常にタイトなスケジュールな中での申入活動だった。

この状況下でも、自由法曹団員・民法協会員弁護士の協力を得て、大阪市、東大阪市、河内長野市、枚方市、和泉市、泉佐野市、泉大津市、貝塚市、堺市、守口市、箕面市、羽曳野市、柏原市の合計 市町村に申し入れに行くことができた。

3 申入れの内容

実際の申し入れは、弁護士と、教科書ネットに所属する方とで行うことが多かった。弁護士は、要請書に基づく説明をし、教科書ネットから、歴史教科書のファクトチェックについて説明をした。

4 採択結果

結果として、大阪府下では、泉佐野市の公民教科書を除き、育鵬社の採択を阻止することができた。2015年に育鵬社の歴史、公民教科書を採択した大阪市、四条畷市、公民教科書を採択した東大阪市、河内長野市で採択を阻止したこと、及び泉佐野市についても、歴史教科書については採択を阻止したことは、大きな成果であるように思う。

生徒数でみても、2015年採択によって約22600名もの生徒が育鵬社の教科書で勉強することとなっていたが、2020年採択では、約800名に抑え込むことができた。

全国的にも、これまで採択が続いていた横浜市、愛媛県松山市等で不採択が続いており、運動の成果が出ている。

5 雑感

今回、確かに自由法曹団・民法協による申入活動が、今回の大幅な採択阻止に寄与したことは否定しない。ただ、この成果を生んだ大きな要因は、日ごろから教科書を研究し、何度も何度も各市町村に足を運んで採択阻止を呼びかけていた市民の活動であり、「子どもたちによりよい教科書で勉強させてあげたい」という市民の声が届いた結果に他ならないと私は思う。こういった市民と、自由法曹団、民法協との連携を今後も絶やさず続けていくべきである。

また、今回の活動の反省点と言えば、採択間際にスピード勝負をしかけたため、採択日までに申入れをすることができなかった市町村や、申入れ内容が採択にかかわる委員の耳に届かない市町村も存在したことである。5年後の教科書採択の際には、余裕をもった行動ができる体制づくりをしていきたい。

そして、採択阻止の大きな成果が出たとはいえ、今まで育鵬社の教科書で勉強させられてしまった子供たち、そしてこれから育鵬社の公民教科書で勉強させられる泉佐野の子供たちが存在する。この子たちに、育鵬社教科書の誤りに気付いてもらい、事実に基づいた教育を届け、人権感覚を養ってもらえるよう、私たちにできることをしていかなければならない。

以上のような種々の感想があるが、自由法曹団、及び民法協の皆様におかれましては、人員及び費用負担の面でご協力いただき、大変ありがとうございました。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。

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