民主法律時報

〈裁判・府労委委員会例会〉 私立大学教職員組合は、民主主義のために、経営者の横暴を止めなくてはならない ―― 近畿大学教職員組合の闘い

大阪産業大学経済学部教授 窪  誠

2019年8月5日、エル・おおさかにおいて、裁判府労委委員会が行われた。今回は、近畿大学教職員組合(以下、教職員組合)の闘いがテーマとされた。最初に吉岡孝太郎弁護士より、9件の訴訟および8件の不当労働行為救済申立の特徴が説明された。次に教職員組合書記長である浜田太郎経済学部教授から、問題の背景について説明がなされた。

まず、吉岡弁護士は、集団的労使紛争について、以下の3特徴を指摘した。

1.当局による労使間ルールの無視
平成28年6月2日、教職員組合と当局は、府労委において、年間スケジュールに基づく団体交渉はスケジュールに基づいて実施し、それ以外の団体交渉はその要求から約3週間後に開催すること等を内容とする和解協定を締結した。しかし、その後、当局は、年間スケジュールの交付を一方的に取りやめ、教職員組合からの団交要求を長期間放置した。

2.団体交渉の完全な形骸化
たとえ、団体交渉が実現しても、当局は、根拠なき形式的答弁を繰り返し、入試手当のような明らかに教職員の待遇に関わる事項についても、「義務的団交事項でない」とか、裁判継続の事実を回答拒否の理由とするなど、団体交渉自体が完全に形骸化するに至っている。

3.教職員組合に対する徹底的な敵視
他の労働組合に認めている掲示板や組合事務室の複数貸与を教職員組合には認めず、これまで応じていた分会交渉自体に全く応じなくなった。また、当局は、教職員組合からの協議要請を無視し、教職員組合の活動の中心である東大阪及び奈良キャンパスにおいて、一方的に過半数代表選挙を強行した。また、就業規則改定について、教職員組合からの意見事前聴取という従来の労使慣行を一方的に破棄。さらに、当局は教職員組合の発言をとりあげ、その謝罪がない限り団体交渉に応じない旨を一方的に通知してきた。団体交渉にこうした前提条件を設けること自体が不当労働行為であるにもかかわらず、その上で、夏季賞与支給の条件として団体交渉を課してきた。

個別的労働紛争における労働法の重要な法律問題については、不更新情報の有効性、育介法第 条の該当性、労働協約締結権限とその瑕疵の治癒の可否、過半数代表選挙の有効性などが指摘された。

続いて、浜田太郎経済学部教授は、まず、近畿大学教職員組合の闘いの基本的な位置づけを明らかにした。多くの私立大学では、教授会、教職員組合が弱体化すると、横暴な経営が行われてしまう。それにより、公的高等研究教育機関としての大学の機能が失われるおそれがある。よって、近畿大学の事例を世に問い、教職員組合が経営者の横暴に歯止めをかけてゆくことが、民主主義に絶対必要であることを強調した。

近畿大学の特徴として、世耕家による世襲経営が指摘された。教職員組合は経営の民主化を追求した。1980年代前半には、組合員数が約500人で推移するも、その後停滞。2013年には 名にまで減少。同年、第 期執行部が「組合の再生」を掲げ、従来あまりなかった訴訟、救済申立といった法的手段に訴えるようになった。

一方、法人は、以下のようなやり方で、組合潰しを熾烈化させている。総務部長や顧問弁護士が不当労働行為を恐れもせず、違法と承知しながら平然と行う。法人は、組合の要求に対して、団交拒否・不誠実団交(形式団交)をしてよいと考えている。裁判や不当労働行為救済申立において、法人側職員が虚偽証言をしても何らの刑事罰も受けないので、平然と嘘を言う。

最後に、浜田教授は、今後の課題として「連帯」を強調し、近畿大学教職員組合と近畿大学九州教職員組合の統合実現の例を紹介した。

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