民主法律時報

全日本建設交運一般労働組合テーエス支部 第2次行政取消訴訟勝訴判決のご報告

弁護士 山室 匡史

1 テーエス運輸株式会社の労使関係

テーエス運輸株式会社(以下「会社」といいます。)は、日本エアリキード株式会社の100%出資子会社であり、同社のみを取引先として、液体ガスの運輸を業として行っている株式会社です。

1973年にテーエス運輸労働組合(テーエス支部の前身)が、全国自動車運輸労働組合(現在の全日本建設交運一般労働組合の前身)に組織加盟しようとした際、会社は、これを嫌って、脱会工作を図ってきたことがありました。兵庫県地方労働委員会において会社側証人であった職制が経理者の指示により組合弱体化工作をはかったことを証言したことを受け、労働委員会は和解を勧告し、会社とテーエス支部との間で会社が不当労働行為を認めて謝罪することをはじめとする和解協定が成立しました。

会社には、全日本建設交運一般労働組合テーエス支部(以下「テーエス支部」といいます。)と兵庫県交通一般産業労働組合テーエス労働組合(以下「交通労連」といいます。)の2つの労働組合が組織されています。

2 熾烈な組合攻撃

和解協定締結以来、会社は、労働条件の変更等については建交労と真摯に協議して決定してきたのですが、2006年1月に社長が交代すると様相が変わりました。社長は、「謝罪は終わりました。」と一方的に宣告して、2008年3月にテーエス支部との労使協定を破棄し、それまで毎年4000円以上行ってきた定期昇給を廃止しました。

テーエス支部が定期昇給をできない理由を明らかにするように求めると、社長は、①テーエス支部の組合員にのみ夏季一時金を支給しない、②年末一時金について他組合や未組織従業員と差別して低額の支給にする、③36協定の締結主体からテーエス支部をはずすためにテーエス支部組合員を他の営業所に転勤させる、④テーエス支部と交通労連のパワーバランスをはかるためにテーエス支部の役員(現執行委員長を含む)を地方の営業所に転勤させる、⑤④につき、神戸地裁が配転無効の仮処分を発令しても従わず、転勤先で就業しないことを理由に転勤対象者の給料を支払わない、⑥テーエス支部の方針に従う組合員を乗車勤務からはずして時間外労働をさせずに恣意的に収入を下げる、⑦テーエス支部の組合員を定年後再雇用しないなど、乱暴な手段を連発してテーエス支部を屈服させようとしてきました。

3 事案の概要

今回組合勝訴判決が確定したのは、上記の②の事件です。2008年年末一時金支給に際して、会社は、建前は、従業員に対する業績評価を行って、その評価にしたがって最大5万円を一時金に加算するという収益改善協力金の導入を提案してきました。しかし、ふたを開けてみれば、テーエス支部組合員に対しては平均2万円程度しか支給されていないのに対して、交通労連組合員に対しては全員に最高額5万円が支給されていたというものです。また、社長は、業績評価を行う管理職に対して「組合から離れてがんばった人」を高く評価するようにメールで指示を出し、実際にテーエス支部を脱退した従業員には最高額が支給されていました。

4 裁判闘争の経緯

これを受けて、テーエス支部は、2009年11月17日に兵庫県労働委員会に不当労働行為救済申立てを行いましたが、2012年1月26日、兵庫県労働委員会は、組合間の明らかな支給額の格差や上記のメールの存在を無視して、申立てを棄却する命令を発令しました。

テーエス支部は、同年6月29日に神戸地裁に上記命令の取消を求める行政訴訟を提起しましたが、神戸地裁は2014年11月17日に請求棄却判決を下しました。

同月26日、テーエス支部は大阪高裁に控訴し、大阪高裁は2015年7月10日に原判決を破棄し、収益改善協力金の差別支給が労組法の不利益取扱いないし支配介入に当たるとする組合勝訴判決を下しました。

これに対して兵庫県と会社が上告及び上告受理申立てを行いましたが、2016年7月5日に最高裁判所が上告棄却及び上告不受理の決定を下し、組合勝訴判決が確定しました。

5 総括

① 及び⑥については既にテーエス支部に対する不当労働行為を認める判決が確定しており、③についても仮処分ながら不当労働行為が認定されています。今回の判決は、これらの一連の不当労働行為を認める判断に続き、よたび裁判所が会社の不当労働行為を認めたものです。

今後はこの命令取消判決を受けて、本年10月以降に兵庫県労働委員会で再調査が実施される予定です。収益改善協力金の問題に限っても、団体交渉時から起算すると、足かけ8年以上をかけてようやく組合攻撃が正しく認定されることになります。

昨年、テーエス支部のオルグ活動が功を奏して会社の複数の管理職がテーエス支部に加入したことを受け、ついに社長が更迭されました。そのため、現在、会社の組合攻撃は一応小康状態にはあります。

しかしながら、前社長の負の遺産ともいうべき裁判闘争は多数残っており、今後どのように解決していくのかという点については、予断を許さない状況にあるといえます。引き続き、皆様のご支援をいただければ、大変うれしく思います。

(弁護団は、杉島幸生、中筋利朗、山室匡史)

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