弁護士 渡辺 和恵
大阪市を相手に大阪市から業務委託を受けた社会福祉法人が「運営する保育園で起こった保護者の過大な要求に対する対応が園としては限界を越えたため、大阪市にその都度善処方を求めたが大阪市は問題の解決をせず、担任保育士および園長が疲弊し、保育園の運営が成り立たなくなったケース」に関与し、仮処分申立を直前にして解決したことがあったので報告します。
カスタマー・ハラスメント(顧客や取引先が環境を害する態様で不当な要求や言動を行うこと)が社会問題化し、2025年6月に労働施策総合推進法の法改正がなされ、改正法で企業等に防止措置が義務化されているところです。
そもそも、業務委託を受けている保育園は、保育士が保護者から過大な要求を受けた時の対応方について、保育士に個人で対応させず管理職も含めて保育園として対応しなければならず、上記法改正を待たずとも当該法人は労働者に対する安全配慮義務があることからこの努力をしてきました。
当該保育園側は、管理職の園長を含めて保護者に誠実に対応していましたが、当該保護者は日々の園で起こる日常的な出来事である「園児の持ち物がなくなった」「お友達に意地悪をされた」などの個々の苦情を言い、担任保育士が問題の解決に努め、保護者にその旨の説明をし、順次解決しているにもかかわらず、執拗に苦情を言い続けました。その旨を園は大阪市担当部署に文書でも報告していました。一方、保護者が大阪市に同じ苦情を訴え、これが長時間に及ぶこともあったため、大阪市は保護者のカスタマー・ハラスメントを熟知していました。しかし、大阪市は改善義務を履行せず、園児の保育は園まかせとばかりに、園にも保護者にも何らの具体的提案をせず行動をとりませんでした。
しかし、そもそも園には保護者のカスタマー・ハラスメントを受忍する義務はないのですから、私が代理人となって最終的に大阪市に対し、当該園児について業務委託契約を取消すとの意思表示をすることを内容証明文書にして送付しました。それでも大阪市は重い腰をあげませんでした。大阪市は、業務委託を受けている社会福祉法人には大阪市に対して契約解除権があるのかと疑問を持っていたようです。この業界にはこの誤解が広くあるそうで驚きました。児童福祉法24条6項1号は「当該保育を必要とする乳児・幼児を当該市町村又は当該市町村以外の者の設置する保育所に入所委託して行う」こととしています。大阪市に対し、法律家、例えば顧問弁護士の介入を求めましたが応じませんでした。
最後は、大阪市に対し、仮処分申立(提訴)する旨の文書を送付しました。そして遂に大阪市は新年度2026年4月1日付で「当該園児を他の園に移動する」との通知を保護者と園に送付しました。当該社会福祉法人の話では、当園と同じように保護者とのトラブルで保育士の保育園退職事件が多く発生しているそうです。しかし行政は退職する保育士に退職後の就労の世話をすることもなく、保育園の保育士不足を応援することもしません。
本件では、当該保育園の保育士は精神的に追い込まれたものの発病に至らず退職を避けることが出来、園も存立の危機を免れました。又、園児の業務委託の契約解除をしながらも、大阪市の転園決定が来るまで、大阪市に対して保育義務がないにもかかわらず当該園児の保育も変わりなく行いました。「園児に可哀そうなことは出来ない」という保育士さんの声を大切にしながら、最後まで保育士が力を合わせて、この困難を乗り切られたことに「拍手」です。






