弁護士 冨田 真平
税金の滞納処分として給与振込日当日に給与振込口座全額を差し押さえられたことに対して、不当利得返還請求及び国家賠償請求を行った事案において、本年2月2日、徳島地裁第2民事部(裁判長光吉恵子裁判官)は不当利得返還請求を認める判決を出した。
1 事案の概要
原告は、ダブルワークで月10~12万円程度のA社での給与収入と月5万円程度のB社での給与収入でなんとか生計を維持していた。しかし、2020年2月21日、1万円弱の残高(同原資はB社の給料の残り)しか無い状態で本件口座にA社からの給料12万円程度が振り込まれた直後、被告に同貯金全額を差し押さえられた。
原告は、差押直後にインターネットで後述の給与振込口座の差押を違法とした令和元年大阪高裁判決にたどり着き、被告の担当者に同判決のことを伝えて差押えの解除を求めたにもかかわらず、被告は差押えを解除せずにそのまま取立・配当を行った。
そこで原告はやむを得ず差し押さえられた預金のうち給料の差押禁止部分にあたる部分の不当利得返還及び慰謝料等の国家賠償を求めて同年5月に徳島地裁に提訴した。
2 本判決の内容
(1)訴訟において、被告は、本件口座の取引履歴を入手していたにもかかわらず、A社の給料について給料だとは分からなかったなどという主張を行っていたため、事実レベルにおいては、被告が給料だという認識を持っていたかどうかが一つの争点となっていた。この点、本判決は、被告の財産調査や差押後の面談時の被告担当者の言動にもとづいて、被告担当者が給料だという認識を持っていたことを認定した。
(2)その上で、本判決は、本件差押処分が実質的に給与債権自体を差し押さえるに等しく給与債権についての差押禁止規定の趣旨に反する結果を生じさせたものというべきであるとした。そして、上記のとおり被告担当者が給料だという認識があり、かつ入金状況や残高状況を把握していたことから同差押えによって給与債権の差押え可能額を超えて差し押さえることになることを認識していたことを認め、差押え可能額を超えた部分について法律上の原因を欠くとして不当利得返還請求を認めた。しかし、他方で、被告担当者が預貯金債権であるから差押え可能などと説明していたことから、悪意の受益者であるとは認めなかった。
(3)国家賠償請求については、不当利得返還によって経済的な利益が回復されること及びそれを超えて精神的な損害として慰謝料を肯定しうるような特段の事情はないとして、違法性の判断に踏み込まずに請求を認めなかった。
3 本判決の意義と問題点
(1)強制徴収債権について行われる滞納処分としての差押について、国税徴収法は、生活の糧である給料についてはその一部を差押禁止と定めている(国税徴収法76条1項、国税徴収法施行令34条)。そして、給料のように(一部)差押禁止債権を原資とする預金口座の差押えは、実質的には同差押禁止債権の差押であり、生活の糧を奪うことになるため、差押禁止債権を原資とする預貯金口座の差押えについて従前から差押禁止の趣旨に反するものとして違法とした判決がいくつか出されている(広島高裁松江支部平成25年11月27日判決、前橋地裁平成30年1月31日判決など。給与振込口座についても大阪高裁令和元年9月26日判決がある)
(2)本判決は、十分な調査を行わなかったことを良いことに給料だと認識できなかったなどという被告の主張を退け、上記令和元年大阪高裁判決などに続いて最低限不当利得返還請求を認めており、この点は今後同様の違法な給与振込口座の差押を抑止し、給与生活者の生存権の保障につながるものである。
(3)しかし、他方で、生活の糧の給与を奪われ最低限度を下回る生活を余儀なくされた原告の被害を理解せずに精神的な損害を否定し、国賠法上の違法性の判断から逃げた点は非常に問題である。これでは、違法な差押処分をしても、のちに(本件では6年後に)その違法に差し押さえた金をただ単に返せばよいということになりかねない。そこで、この点について控訴審で正すべく控訴を行っており、控訴審で国家賠償請求を認めさせるための闘いを続けていくので、引き続きご支援をお願いする次第である。
(弁護団は、勝俣彰仁、堀金博(徳島弁護士会所属)、尾﨑彰俊(京都弁護士会所属)、牧亮太、楠晋一、西川裕也各弁護士及び筆者)







