民主法律時報

《書籍紹介》 萬井隆令著「労働者派遣法の展開と法理」(旬報社)を薦める―「直接雇用の原則」から派遣法解釈を見つめ直す根本的議論を!―

弁護士 村田 浩治

一 はじめに 

萬井先生が、2月に新しい著作を出された。出版したらすぐ紹介すべきだったのだが、権利討論集会等行事が立て込んでいたため機会を逸していたが、後記のとおり6月から派遣労働研究会の月例会で、半年かけて読み解くことになったので、この機会に皆様にお勧めしたいと考えて紹介させていただくことにした。本書は、「第1章 労使関係の基本的あり方と労働者派遣」から始まり「第2章 派遣に関わる基礎概念の定義」「第3章 派遣法運用上の諸問題」「第4章 判例評釈」の4章からなる。本書を読めば派遣法を解釈して裁判を闘うために検討すべき必要な基本概念と論点が分かる。さらにこの間、必ずしも労働者にとって嬉しくない裁所の解釈がなぜ十分でなのかその問題点が分かる。労働側ですべき主張のための根拠を理解することが出来ること請け合いである。

二 違法派遣の受入先企業は職業安定法44条違反で罰せられない?

一般に、労働者派遣は直接雇用の原則の例外であり、「雇用と使用の分離された法律関係」と説明されている。1985年に労働者派遣法が制定されたことで、職業安定法44条、労基法6条で禁止してきた「労働者供給事業」が部分的に適法となったとされている。

しかし、適法となったのは労働者派遣法の規程を守って、労働者派遣契約を締結して行う労働者派遣だけのはずである。「偽装請負」とは、労働者派遣契約を締結せず、請負契約や業務委託契約の形式の下で実際には請負や委託の発注企業が受注企業の従業員らに対して直接に指揮命令をする、法令に基づかない間接的就労形態であるから、当然に労働者供給となり職業安定法44条違反にもなるはずだ。発注企業には職業安定法44条が適用され同法64条に定める刑罰の適用を受け、労働者供給違反である受注企業と労働者の雇用契約も無効といえる。松下(パナソニック)プラズマディスプレイ事件の黙示の雇用契約を認定した大阪高裁判決(平成20年4月25日判決)でも示された判断である。

知らない新人会員も多くなったので、あえて述べておくが、松下(パナソニック)プラズマディスプレイ事件大阪高裁判決は、民法協会員の弁護士5名が代理人となって勝ちとった重要な判決であった。しかし最高裁(2009年12月18日判決)は「たとい請負人と注文者との間において請負契約という法形式がとられていたとしても、これを請負契約と評価することはできない。そして、上記の場合において、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば、上記3者間の関係は、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当すると解すべきである。そして、このような労働者派遣も、それが労働者派遣である以上は、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないものというべきである。」と述べ、派遣契約によらない偽装請負の場合も派遣法が適用されるだけで職安法は適用されないとして派遣と労働者供給を切り分ける解釈をした。その結果、下級審では(論理的な帰結ではないのだが)雇用関係は供給元(派遣元)にあり、供給先(派遣先)との労働契約を認定するという判断は殆どされなくなった。違法な労働者派遣で労働者の労務を利用する企業は刑事責任のみならず、民事上の責任も負わないということになってしまった。こうした解釈が定着し学説の多数が最高裁判決の判断を前提としている。最高裁も学説も派遣法2条の定義から始まる文理解釈のみで、行政解釈を採用している。

しかし、労働省(現厚労省)が1970年代に示した文書からも明らかなとおり、派遣法制定前は、供給元との雇用契約の有無に関わらず、自らが雇用しない労働者を指揮命令をしている関係があれば、それは労働者供給であるとして取締るのが労働省の解釈であり、当然に就労先にも刑罰が適用されていた。萬井先生は、その行政文書で示されていた「労働者供給の基本的概念」から説き起こし、この解釈の問題点を指摘し批判を展開する。さらに最高裁判決と行政解釈を前提とし、それを検討しないまま採用する学説に根本的な批判を展開する。労働者派遣法解釈を行う場合、忘れてならない直接雇用の原則とは何かという根本的観点からの解釈態度が問われていることが分かる。

三 直接雇用の原則と派遣法1条を無視しない解釈の視点

第3章では派遣法みなし規程の制定にいたる経緯も丁寧に説明されている。すでに派遣法が出来て40年が経過し、派遣が禁止されていた1947年から派遣法が成立するまでの期間を超えてしまった今、直接雇用の原則や現在も職業安定法44条が廃止されることなく、派遣法1条には「この法律は、職業安定法と相まつて労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もつて派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする。」と規程されることの意味を踏まえた解釈を展開するという視点を学ぶ意味は大きい。
第1章は、2012年に制定され2015年から施行された「派遣先企業の雇用申し込みみなし規程」に関する最新の判決文に対する評釈が網羅されている。二重派遣の場合は、就労先に派遣法みなし規程の適用がないとする解釈を、前項の解釈を前提にして簡単に否定した竹中工務店事件判決や、その他の事件における偽装請負の事実認定にあたっての裁判所の判断の問題点、偽装請負状態における「法の適用を免れる目的」の解釈にあたっての判決、さらには研究者の判例批評も批評の対象として厳しく批判する姿勢は労働側代理人にこそ求められているだろう。

四 派遣研究会で輪読を計画

この本を読み大いに議論することは、派遣労働者の権利を守るために不可欠だ。派遣研究会では6月から定例会(毎月第4火曜日)で6回に渡り検討していく予定だ。とりわけ新人会員には、この機会に研究会で議論に参加いただきたい。定価4,000円は決して安くないかもしれないが、出版社から著者割り引きで販売してもらえることになったので皆様にはぜひ購入をして読んでいただきたい。申し込みは村田までFAX(072-232-7036)かメール(murata-koji★nifty.ne.jp ※)で連絡を。※左記の「★」記号を「@」記号に置き換えて下さい

旬報社 2025年1月28日発行
定 価 4,400円(税込)

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