民主法律時報

NEC見せしめ懲戒解雇事件提訴報告

弁護士 西川 翔大

1 事件の概要

NECの子会社NECソリューションイノベータ(以下「会社」という。)において大阪市内で勤務していた原告は、会社から玉川事業場(所在:神奈川県川崎市)への配転命令を出されました。しかし、原告は、家庭事情により単身赴任で関東に行くことはできず、会社に関東への配転命令に応じることはできないことを伝えると、会社から懲戒解雇とされました。そこで、原告は、2019年7月1日、配転命令の有効性や懲戒解雇の不当性等を争って、大阪地裁へ地位確認等訴訟を提起しました。以下、本件の特徴や意義をご報告します。

2 事件の特徴

(1) NECグループの人員整理
本件は、NECグループによる大量の人員整理が影響しています。NECグループは、黒字であるにもかかわらず、2012年には1万人、2018年には3000人を目標に人員整理を強行してきました。会社は、早期退職者を募集するという体裁を取りながら、原告を含め、実際には退職に追い込むために執拗な面談を何度も繰り返し行ってきました。原告は、退職に応じるか、玉川事業場への転勤に応じるかという二者択一を会社から迫られました。

(2) 玉川事業所への転勤に応じられない理由
現在、原告は、母親と小学生の子どもと暮らしています。母親は、 歳と高齢で、家庭の事情からくるストレスのために精神的に不安定な状態であり、白内障の急激な進行によりひとりで外出することも困難で、一人で子どもを支えるのは難しい状況です。

また、小学生の子どもには、周期性嘔吐症(自家中毒)という持病があります。周期性嘔吐症とは、ストレスの過敏な子どもに見られる、月平均4~5回程度、強い吐き気や腹痛、頭痛を繰り返す病気であり、発症すれば病院で点滴治療を行わなければ症状が緩和しません。原告は、子どもが学校で発症した場合には、子どもを学校まで迎えに行き、病院に連れて行き、点滴治療を受けさせなければなりませんでした。そのため、子どもを置いて関東に単身赴任することは難しい状況でした。また、自家中毒は精神的ストレスにより症状が悪化する可能性があり、関東に連れて行くことで子どもに対して精神的ストレスを与えることになるため、原告は玉川事業場への配転命令を断らざるをえない状況であり、会社に何度もそのような事情を伝えましたが、会社は配慮しませんでした。

(3) 受け入れられない会社の提案
原告は、会社から別の勤務先として医療系SEや清掃会社の提案を受けましたが、到底受け入れられる内容ではありませんでした。
医療系SEについては、24時間対応する必要があるもので、原告は、子どものことがあるため、勤務条件を考慮してもらえるのであれば受け入れることができると答えたにもかかわらず、会社はこれを考慮しない勤務条件しか提案せず、原告は受け入れることができませんでした。また、清掃会社については、これまで原告が勤務していたフロアやトイレの清掃作業を勤務内容としており、顔見知りが多くいる中での清掃は原告にとって屈辱的で、退職勧奨に応じなかったことの見せしめであると感じ、これを断りました。
結局、会社は、原告が受け入れられない条件での勤務先を提案するにとどまり、玉川事業場への配転命令を行いました。

(4) 見せしめ的懲戒解雇
会社は、原告が配転命令に従わずにいると、配転命令に従わないことを理由として会社の秩序を乱したものとして懲戒解雇を行いました。また、会社は、必要がないにもかかわらず、原告が勤務するフロアに人事部数名で押し寄せ、見せしめ的に大声で懲戒解雇となった理由を読み上げました。

3 本件訴訟の意義

以上のように、原告は、子どもの持病や母親への対応に日々追われる中で、会社に対して配慮するように求めていたにもかかわらず、会社はこれに配慮せず、人員整理の目標を達成するために、配転命令・懲戒解雇を強行しました。

ワークライフバランスが求められる時代において、会社は、従業員の家庭事情に配慮した勤務環境を構築していくべきであり、従業員の家庭事情を無視し、経済的利益のみを追いかける会社の態度は決して許されるものではありません。我々弁護団としては、このような会社の不誠実を徹底的に追及していき、原告の地位と名誉を回復したいと思います。

 (弁護団は、鎌田幸夫、坂東大士、  西川翔大)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP